『嘱託臨床産業医』の相談箱

 

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臨床産業医オフィス

 

<高円寺南労働衛生コンサルタント事務所>

 

産業医・労働衛生コンサルタント・第一種作業環境測定士・衛生工学衛生管理者

 

飯嶋正広

 

 

 

ハラスメント対策の本質論(No1)

 

Ⅰ序論(ハラスメントを取り巻く社会的動向)「ハラスメント」の現状

 

近年、企業内における「ハラスメント」は増加しています。厚生労働省が発表した「令和元年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、総合労働相談件数は118万8,340件(前年度比6.3%増)、12年連続で100万件を超えています。また、民事上の個別労働紛争の相談件数、助言・指導の申出件数、あっせんの申請件数の全てで、「いじめ・嫌がらせ」が引き続きトップを占めています。
 

このような現状を背景に、昨年の6月に大企業にパワハラ防止措置が義務化されましたが、今年4月からいよいよ中小企業にも適用されます。

 

2019年4月に厚労省が発表した「職場のハラスメントに関する実態調査」では、予防・解決の取り組み上の課題として『ハラスメントか否かの判断が難しい』を挙げた企業の割合が66.5%と、2位に倍以上の差をつけて最高でした。

 

日本労働組合総連合会が2019年5月に発表した「仕事の世界におけるハラスメントに関する実態調査2019」でも、職場で「ハラスメント」を受けたことがある人が全体の38%、そのうちの54%が「仕事のモチベーションを失った」と回答しています。ですから、「ハラスメント」の未然防止と迅速な解決を進めなくては、職場環境の健全さが維持できず、労働生産性にも大きな影響が出てしまうことになります。

 

いずれにしてもハラスメントかどうかの判断が難しい、の回答が多いということは、上記の「ハラスメントとは何か?」「何が問題となるのか?」

の認識が十分できていないから、と言えるのではないでしょうか。

 

「ハラスメント」とは、相手の意に沿わない言葉や行動によって不快な想いをさせてしまう、嫌がらせを指します。 ただし、行為者自身に意図があったか、なかったかは関係がないことが「ハラスメント」とは何かを難しくしているものと思われます。

相手に対する言動の結果として、相手が不快に思い傷ついたり、不利益を被ったりしてしまうと、その行為は「ハラスメント」と認定されてしまうことになります。

 

ただし一口に「ハラスメント」といっても多種多様あります。ここでは、産業医が関与する労働衛生の観点から、職場で発生しやすい代表的3つの「ハラスメント」を採りあげ、それぞれの「ハラスメントの特徴は何か?」「何が問題となるのか?」について紹介します。

 

 

●セクシャルハラスメント(セクハラ)

 

セクシュアルハラスメントとは、相手に不快感を与える性的な嫌がらせです。男性が女性に対して行うイメージが強いですが、ここ数年の傾向としては、女性から男性や同性同士といったケースも珍しくなくなっています。

 

セクハラは「対価型セクハラ」と「環境型セクハラ」に大別されます。前者は、立場や上下関係を利用して、下位にある者に対して言動を強要することです。後者は、性的な言動を繰り返すことで職場環境を悪化させることを指します。いずれにしても、自分としてはセクハラという意識がなかったと言っても、相手はセクハラとして受け取るということもあるだけに留意する必要があります。

 

セクハラは、以上のように、個人としての尊厳を傷つけたり、就業環境を悪化させたりしてしまうことが問題になります。その結果、個人や組織全体の能力を十分に発揮できなくなり、企業の生産性の向上を損なってしまうことも看過できない問題となります。

 

 

 

●パワーハラスメント(パワハラ)

 

パワーハラスメントとは、同じ職場で働く人に対して、職務上の地位や権力などの優位性を乱用し、業務の適正な範囲を越えて精神的・身体的な苦痛を与えることです。上司が部下に、先輩が後輩に行うことが多いとされてきました。具体的には、目標をクリアできなかった社員を長時間立たせたままにする、特定の社員だけミーティングに呼ばないといった行動が挙げられます。

 

しかし、最近では部下から上司にというケースも増えているのですが、まだ十分な検討がなされていない模様であり、今後の課題です。

 

 

 

●マタニティハラスメント(マタハラ)

 

マタニティハラスメントとは、妊娠中、出産間近、子育て中といった女性に向けた嫌がらせを言います。具体的には、妊娠した旨を伝えてきた女性社員に解雇や雇止め、降格、減給を言い渡すといった不利益な取り扱いに当ります。 

 

こうした行為は、労働基準法や男女雇用機会均等法、育児・介護休業法などの法律でも禁止されており、企業は防止措置を取ることが義務付けられています。出産後も女性が職場に復帰しやすい環境・制度づくりに注力していくことが大切です。