故郷(茨城)探訪

 

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一般社団法人 日本温泉物理医学会

認定温泉専門医(登録番号第150号)/ 温泉療法医(登録番号686号)

 

飯嶋 正広

 

「知られざる茨城の名湯・秘境」シリーズ

 

第二弾:常磐うぐいす谷温泉 竹の葉(北茨城市)その4

 

<常磐うぐいす谷温泉竹の葉は療養に適する温泉か?>

 

「常磐うぐいす谷温泉竹の葉」を温泉医学的にまとめてみると、冷鉱泉(湧出口での泉温15.4℃<25℃)、弱アルカリ性泉(pH値8.0:7.5以上から8.5未満)、低張泉(ガス性のものを除く溶存物質計0.784g/㎏<8g/㎏)に分類される温泉の可能性があります。

 

ただし、温泉の分類はそれだけではありません。温泉医学的には、その温泉が「療養泉」に該当するかどうかも関心がもたれます。まず、「常磐うぐいす谷温泉竹の葉」が低張泉であるということから「療養泉」(註)の中の「単純温泉」との異同について検討してみることにします。  

(註)療養泉:

温泉の中でも、特に治療の目的に供し得る温泉とされます。その定義は温度が25℃以上、または、遊離二酸化炭素や鉄イオン、水素イオン、総硫黄などの物質いずれか一つが一定以上含まれていることです。 その成分ごとに9ないし10の泉質に分類されています。

 

 

「単純温泉」とは、温泉水1kg中の溶存物質量(ガス性のものを除く)が1,000mg未満かつ湧出時の泉温が25℃以上の温泉です。ここで重要なのは、、温泉水1kg中の溶存物質量(ガス性のものを除く)が1,000mg未満または湧出時の泉温が25℃以上の温泉ではないということです。

 

「常磐うぐいす谷温泉竹の葉」は低張泉(ガス性のものを除く溶存物質計784mg/㎏)で1,000mg未満には該当しますが、泉温が25℃に達しない冷鉱泉(湧出時の泉温が15.3℃)でありため、単純温泉には分類できないことになります。また、「常磐うぐいす谷温泉竹の葉」の泉質は、他の成分組成からみても、その他、いずれの療養泉にも該当しません。

 

しかし、「常磐うぐいす谷温泉竹の葉」の泉質として記載されているメタホウ酸は切り傷など皮膚や粘膜のダメージを回復させる働きがあるとされます。メタホウ酸(HBO2)はホウ素イオンに水酸イオンと酸素イオンが結びついたもので、とても弱い酸性を示します。ホウ酸のグループは弱い制菌効果を示しますが、酸性が弱いため、作用が穏やかで安全性が高いと考えられ、ホウ酸の水溶液が目の洗浄剤や口腔洗浄剤に用いられてきました。現在ではほとんど殺菌効果が無いとされていますが、ホウ酸の微弱な酸性を用いてpH調整をするために今日でも目薬にはホウ酸が加えられていることがあります。

 

さて、ここで興味深いのは、「常磐うぐいす谷温泉竹の葉」の泉質を特徴つける含有物質のメタホウ酸が弱酸性であるにもかかわらず、温泉分析でのpH値は8.0で弱アルカリ性であることです。このデータから、温泉水の成分中にはアルカリ性を呈する物質が一定以上溶存していることが示唆されます。成分表が掲示されていないのは残念な限りです。

 

アルカリ泉は肌には石鹸のようなクレンジング効果が期待できます。強いアルカリ泉は肌の脂分が取られ過ぎ、カサカサになるので注意が必要でが、肌に優しい弱アルカリ性の温泉は肌がすべすべして美肌の湯・美人の湯と呼ばれたりしています。

 

「常磐うぐいす谷温泉竹の葉」の効能効果については、以上の理由から、弱アルカリ性単純温泉が参考になるでしょう。弱アルカリ性単純温泉には、古い角質を取ることで美肌効果があるとされています。「単純温泉」は「単純泉」と呼ばれることが多いですが、「単純温泉」が正式な名称です。

 

弱アルカリ性単純温泉の利点はたくさんあります。

まず、刺激が小さく「やさしい温泉」であるため、子供からお年寄りまで家族揃って安心して入れる温泉であるということです。

 

そもそも単純温泉は「湯あたり」を起こしにくい代表的な泉質でもあります。人間は、古来、出生直後に産湯に浸かることを経験してきましたが、温泉には生後1カ月以降から入ることができます。 そうした温泉デビューのとき、赤ちゃんは肌が弱いので、40℃以下の弱アルカリ性単純温泉からはじめることをお勧めします。温泉の刺激に不安がある方は、まずは単純温泉に入ることから始めてください。単純温泉は安心して入れる温泉なので、私は患者さんたちに対しても「温泉療養のスタートは単純温泉から」はじめることをお勧めしています。

 

なお、「常磐うぐいす谷温泉竹の葉」の<温泉の成分と使用説明>では、禁忌症として一般的禁忌症が掲載されています。一般的禁忌症は、すべての温泉を対象とするものであって、この温泉に限っての注意ではありません。

 

 

〇 禁忌症

 

一般的禁忌症:

急性疾患(特に熱のある場合)、活動性の結核、悪性腫瘍、重い心臓病、呼吸不全、腎不全、出血性疾患、高度の貧血、その他一般に病勢進行中の疾患、妊娠中(特に初期と末期)

 

なお、禁忌症の中に悪性腫瘍がありますが、2人に1人が「がん」に罹る時代において、悪性腫瘍を持つ方すべてが温泉入浴が禁忌であるとまで考える必要はないと思います。秋田県の玉川温泉には、全国からがん患者が湯治に訪れています。また、妊婦に対しての禁忌も調査研究が進み、次第に緩和されつつあります。いずれにしても、禁忌症に該当する場合には、主治医と相談しておくことをお勧めいたします。