前回はこちら

 

 

今年は、コンクール出演に向けて、ロシア語オペラアリアにチャレンジします。

 

第8回なかの国際声楽コンクール

 

予  選:音源審査

 

本  選:2022年7月31日(日) 「野方区民ホール」

 

音源審査締切:2022年6月23日(木)

 

参加資格 18歳以上の男女。演奏曲目 オペラアリア、歌曲

 

演奏条件 原語で歌唱すること

 

7月31日(日) 「野方区民ホール」の本選会場は、おそらく入場無料だろうと思います。


念のため確認の上、後日、改めて御報告いたします。

 

予選(音源審査)の曲は、基本的にイタリア語もしくはドイツ語の歌曲でまとめる予定ですので、ロシア語のオペラアリアは本選用です。

 

曲目はすでに決定して、稽古はさっそく開始しています。

 

曲目:レンスキーのアリア「青春は遠く過ぎ去り」 

チャイコフスキー作曲、オペラ『エフゲニー・オネーギン』第2幕第2場より

 

参考音源1)コルチャック

2016年10月9日(日)

渋谷・eplus LIVING ROOM CAFE & DININGで収録。

(Movie:M.Terashi/TokyoMDE)

 

 

参考音源2)Piotr Beczala

 

Eugene Onegin: Lenski's Aria (Piotr Beczala) - Bing video

 

 

 

参考音源3)Bogdan Volkov

 

Bogdan Volkov - Aria of Lensky - Operalia 2016 - Bing video

 

認定内科医、心療内科指導医・専門医、アレルギー専門医、リウマチ専門医、認定痛風医

 

飯嶋正広

 

こころの健康(身心医学)では、精神神経科や心療内科の他に(脳)神経内科やアレルギー膠原病をとりあげることを先週説明いたしました。

 

そこで、今回は、さっそく神経病学から始めてみたいと思います。そのなかでも外来診療でもっとも頻度が多い頭痛について米国のレビューブック(問題集)を参考に検討したいと思います。

 

頭痛とは、頭頚部に限局する痛みの総称ですが、頭頚部とは、頭部のみならず頸部にも及んでいることがポイントの一つです。いわゆる<首こり>も頭痛として認識されていることは実際に少なくありません。<首こり>も長く続くと<肩こり>にまで及んでいることがあります。要所要所に私のコメントを加えました。

 

 

神経病学(Neurology)

 


Headache(頭痛)

 

Name the type of headache (migraine, tension, cluster, or sinus) associated with the following features:

以下の特徴を持つ頭痛のタイプ(片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛、副鼻腔炎による頭痛)を挙げてください。次のような特徴を持つ頭痛の種類を挙げてください。

 

コメント:

上記の4種の頭痛のうち、片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛の3種は、いずれも一次性頭痛といって器質的疾患によらない頭痛ですが、副鼻腔炎による頭痛は副鼻腔炎と伊器質的疾患による頭痛であるため二次性頭痛に分類されます。

 

一次性頭痛は、私が日常の外来診療で遭遇する頭痛のほとんどを占めるのが一次性頭痛です。

上記の他に、三叉神経・自律神経性頭痛などがありますが、心療内科専門医として対応しています。

 

なお、二次性頭痛の中でも副鼻腔炎による頭痛はわが国の頭痛専門外来ではあまり注目されていませんが、基礎疾患としてアレルギー性鼻炎やアレルギー性の慢性副鼻腔炎等があるため、報告されているより多くの症例があると思います。

 

特に内科のアレルギー専門医は主として喘息を対象とすることが多いせいか、鼻鏡検査を省いている方が少なくないのは残念です。幸にも、日本アレルギー学会は、わが国においても総合アレルギー医の養成に力を注いでします。私も定期的に研修を受けることによって、耳鼻科領域、眼科領域、皮膚科領域のアレルギー診療を継続しています。

 

 

Migraine(片頭痛)

 

コメント:

米国のレビューブックが優れているのは、疾患記述の順序です。頭痛の日常診療において、頭痛の鑑別ができることが肝要とされます。最も頻度の多いのは緊張性頭痛ですが、最初に、きちんと片頭痛を診断することができれば、他との鑑別が容易になるので、とても合理的であることを実感しました。精神的なストレスで発症することから、心療内科外来でも多く遭遇します。

 

・Classic symptoms include unilateral frontotemporal cephalgia with aura and visual symptoms(e.g.,scintillating scotoma)

典型的な症状は、前兆を伴う片側前頭側頭痛と視覚症状(例:閃輝暗点)である。

 

・Pulsatile or throbbing headache

拍動性またはズキズキする頭痛

 

・Assocoated with nausea/vomitting(N/V),photophobia,phonophobia

吐き気・嘔吐(N/V)、羞明(光過敏でまぶしい)、羞音(音過敏)を伴う場合がある。

 

・Nonsteroidal anti-inflammatory drugs (NSAIDs),sumatriptans, ergot alkaloids, and opiates may be used as abortive therapy

 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、スマトリプタン、エルゴット・アルカロイド、アヘン剤などが頓挫することがある。

 

・β-blockers, calcium channel blockers,ergots,antidepressants,and anticonvulsants are used for prophylaxis

β遮断薬、カルシウム拮抗薬、エルゴット系薬剤、抗うつ薬、抗けいれん薬などが予防に用いられる。

 

 

・Patients often have a family history(FH)of headaches
患者はしばしば頭痛の家族歴(FH)がある。

 

・4:1 F:M incidence
4:1 の割合の女性:男性比で発症する。

 

・May be precipitated by hormonal factors (e.g.,oral contraceptive pills [OCPs]or menses)and emotional or metabolic stress

ホルモンの影響(経口避妊薬、月経など)、精神的・代謝的ストレスなどにより発症することがある。

 

・Photophysiology may relate to the effect of serotonin on cephalic blood vessels
光生理学は、セロトニンの頭脳血管への影響に関連していると思われる

 

 

Tension Headache (緊張性頭痛)

 

・Most common type of headache in adults
 成人の頭痛の中で最も多いタイプ

 

・Vise-like, tightening bilateral pain associated with photophobia, phonophobia,and neck tightness
万力(締め金)で締め付けられるような両側の痛みで、羞明(光過敏)、恥音(音過敏)、首の締め付けを伴う

 

 

 

Cluster Headache(群発頭痛)

・Unilateral boring periorbital headache worst in the temporo-orbital region
片側性の突き刺されるような眼窩周囲の頭痛で、最悪例は眼窩部に生じる

 

・Ipsilateral tearing,conjunctival injection,Horner syndrome, and rhinorrhea
同側の流涙、結膜充血、ホルネル症候群、鼻汁

 

・Characterized by periods of multiple headaches of the same character alternating with symptom-free intervals
同じ性質の複数回の頭痛が続く期間と無症状の期間と交互に生じることが特徴である。

 

・Approximately 95% of cases are in males
症例の約95%が男性である。

 

・Symptoms are often eradicated by 100% O₂ 
by facemask or serotonin agonists(sumatriptan)

症状はフェイスマスクやセロトニンアゴニスト(スマトリプタン)で100%O₂で消失することが多い。

 

 

Sinus Headache(副鼻腔炎による頭痛)

 

・History of allergy
アレルギー歴

 

・Localized tenderness over sinuses
副鼻腔に限局した圧痛

 

前回はこちら

 

水氣道実践の五原理・・・統合性の原理(序論)

(心身統合・心技体の原則)

 


統合とは、一般的には、社会の成員の間に高い相互作用があり、その成員が共通の社会規範や価値を抱き、共通の権威に対し忠誠を有している状態を意味します。

 

組織の世界では、統合がとりわけ重要な意味をもつことになります。対立する意見や利益を調整し、協力せしめて、一つの社会としてまとめ、社会に安定や秩序をつくりだすことは、組織の維持や発展のために必須となる重要な機能だからです。

 

水氣道の組織と団体活動における統合は、(1)全人的健康の維持、(2)広範な多目的能力の獲得、(3)特定の目的の達成、(4)新たなイメージや役割の獲得、をねらいとして形成されます。

 

またその際には、(1)会員間に相互関係性があること、(2)相互反応性があること、(3)共通の価値と利得がもたらされること、(4)共通の一体感や奉仕の心が育まれていること、などの条件が必要になります。
 

組織内の統合は、団体的価値を共有している領域が少なくなったり、組織規範や規則を守っていただくためのルールが過度に必要になったり、我流に走るメンバーが出現したり、孤立・分離・独立の風潮や機運が高まったりする場合、失敗といわれます。

 

失敗をもたらす原因としては、革命などの社会変動、組織外の一般社会からの威圧・介入、社会成員の要求充足の失敗、理論や技法を巡る対立などが考えられます。
 

幸いなことに、平成12年(2000年)末に組織の基礎が定まり、公に対する団体登録が整い、平成28年(2016年)に登録商標を獲得し、団体運営が安定し、財政的にも収支の均衡がとれるようになってきました。
 

ただし、上記のことは、水氣道においては団体性の原理に係る事項になります。水氣道の統合性の原理とは、こうした組織団体の進歩と調和を支える原理ではなく、<自己超越と自然回帰>という水氣道の三徳を支える本質的な考え方なのです。

 

これについては、いずれ改めてご紹介いたします。

以下に、水氣道の理念についての一覧を掲示します。

 

 

<融通無碍(ゆうずうむげ)の人類愛>

水氣道の三徳

 

分析と企画(特異性の原理) 

 

進歩と調和(過負荷・集団性の原理)

 

自己超越と自然回帰(統合性・可逆性の原理)

 

 

 

水氣道実践の五原理

〇 統合性の原理(心身統合・心技体の原則)

 

〇 集団性の原理(教学不岐・環境創造の原則)

 

〇 過負荷の原理(漸進性・全面性・反復性の原則)

 

〇 可逆性の原理(周期性の原則)

 

〇 特異性の原理(意識性・個別性・弱点優先・専門性の原則)

 

 

 

水氣道稽古の12原則

 

心身統合の原則/ 心技体の原則/ 教修不岐の原則

 

環境創造の原則/ 漸進性の原則/ 全面性の原則

 

反復性の原則/ 周期性の原則/ 意識性の原則

 

個別性の原則/ 弱点優先の原則/ 専門性の原則

 

 

超高齢社会を迎えて、自分が健常者あるいは健康だと信じている人たちは多いです。

しかし、そうした方々の多くは、実際に健康なのではなく、そのように思い込んでいるだけであるとか、そのように信じていたいだけなのかもしれません。

というのは心と身体のアンバランスに悩ませられている方が多いのが現実だからです。

 

つまり、それだけ、自力では心身の不統合は気づかれにくい、気づきにくい課題だということです。このアンバランスは日常生活の中では十分に意識化されにくいようです。そのために、有効なケアや予防的な訓練が行われないまま放置されてしまいがちです。

 

水氣道®で実践している心身統合アプローチは、心理学的理論と運動生理学的理論を行動実践で統合します。これは、水氣道の心・技・体の原則と共に水氣道実践の五原則の一つである、「統合性の原理」を構成します。
 

とは言え、水氣道の会員にとって馴染みにくいのは、どちらかといえば水氣道の稽古体系に自然に取り入れられているメンタルトレーニングとしての要素ではないかと思われます。

 

内科認定医、心療内科指導医・専門医 

飯嶋正広

 

 

Dastroenterology(消化器病学)

 

日本の講学的な医学教育のシステムと米国の実践的な問題意識には明確な違いがあります。

 

日常診療においてしばしば遭遇する代表的な消化器症状である下痢について、両者のアプローチの違いを比較してみたいと思います。

 

 

Diarrhea<下痢>

 

<日本流医学テキスト>

 

下痢とは、一般的に何らかの原因によって糞便中の水分量が増え、軟便や水様便になった状態を意味する日常用語です。臨床医学的には、便の液状化の他に、便通回数(頻度)の明らかな増加、1日の排便量が平均250gを超える場合をいいます。(1日の排便量の平均は100~200gぐらいで、重さの2/3が水分、1/3は腸内細菌、セルロースや不消化物、胃や腸の分泌物や剥離した細胞からなります。 脂肪の排出量は約2g程です。)

 

 

下痢を分類すると急性下痢と慢性下痢に2大別されます。

 

・急性下痢は約1~2週間持続し、腹痛を伴うことがあります。
代表的なのがロタウイルス、ノロウイルスなどによるウイルス性の感染性腸炎です。

 

診断のためには、

1) 問診が大切です。食事歴、海外渡航歴、抗菌薬服用歴、骨髄移植後かどうか

 

2) 症状確認:腹痛や発熱の有無

治療としては、多くの場合は適切な水分補給で自然治癒します。ただし、脱水状態により代謝性アシドーシスとなるため、乳酸加リンゲルの輸液を行うことがあります。

 

なお止痢薬(下痢止め)を自己判断で使用する方が多く注意を喚起しています。
とくに細菌性の下痢の場合に下痢止めを使用すると原因菌の排泄を遅らせるため病状を長引かせてしまいがちです。

 

 

・慢性下痢の原因には、下痢型の過敏性腸症候群、炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)の他に慢性膵炎、甲状腺機能亢進症などもあります。
 

診断のためには、問診で発症年齢、排便後の症状緩和の有無、飲酒歴、手術歴などを確認します。
 

治療としては原因疾患に応じて対処します。
 

 

 

<米国流実践的Q&A>

 

Q1.

Name the four major pathophysiologic mechanisms for chronic diarrhea.

慢性下痢の4つの主要な病態生理学的メカニズムを挙げてください。

 

 

A1.

1)Increased secretion:分泌物の増加(⇒分泌性下痢)小腸由来が多い
  

2)Altered intestinal motility:腸管運動の乱れ
  

3)Osmotic load:浸透圧負荷(⇒浸透圧性下痢)小腸由来が多い
  

4)Inflammation:炎症(⇒滲出性下痢)大腸由来が多い

 

コメント:

日本の臨床医学では、分類法に基づく鑑別疾患を挙げさせることが多いのに対して、米国医学では病態生理学的メカニズムに基づいて考えさせることが多いです。

 

日常診療で遭遇する機会が最も多いのは2)の腸管運動の乱れなのですが、わが国の臨床での注目度はまだ低いためか、消化器内科専門医から当クリニックに紹介されてくる例も、このタイプの慢性下痢が多いです。

 

Q2.

What two laboratory tests can be used to distinguish between osmotic and secretory diarrhea?

浸透圧性下痢と分泌性下痢を区別するための2つの検査法とは?

 

A2.

1)Fasting(persistent diarrhea if secretory):

絶食(分泌性下痢の場合は持続性下痢となる)

 

2)Stool osmotic gap(gap>50⇒osmotic diarrhea):

糞便浸透圧ギャップ(ギャップ>50⇒浸透圧下痢)

 

 

コメント:

1)絶食検査は外来診療でも可能ですが、安全のためには入院管理下で実施することが望ましいと考えます。

 

2)便の浸透圧ギャップは、290 (血漿浸透圧の基準値)− 2 ×(便中ナトリウム + 便中カリウム)という数式で計算され、下痢が分泌性か浸透圧性かの鑑別に有用です。浸透圧ギャップが50mEq/L未満の場合は分泌性下痢、それよりも大きなギャップは浸透圧性下痢であることが示唆されます。しかし、わが国の保険診療制度には馴染みにくく、積極的に実施する機会は多くはないと思われます。

 

 

Q3.

What additional labs are useful in the w/u of osmotic diarrhea?

浸透圧性下痢症のW/Uに有用な追加検査は?

 

A3.

d-Xylose test, Schilling test(terminal ileum),lactose challenge, and pancreatic enzymes

d-キシローステスト、シリングテスト(回腸末端部)、乳糖チャレンジ、膵(臓)酵素

 

・ d-キシローステストとは、小腸の吸収能(水分や栄養分を体内に取り込む能力)を知るための検査です。早朝の空腹時に行う検査で、排尿後に施行します。d-キシロースが小腸で100%吸収され、そのうちの40%が分解代謝されることなく、そのままの形で尿中に排泄されることを利用しています。一定量のd-キシロースを飲んだ後、5時間尿を蓄え、尿中に排泄されたdキシロースの量を測定することで吸収能を計算します。排泄量30%以上が基準値です。

 

・ シリングテスト(回腸末端部)とは、放射性コバルトで標識したビタミンB12(57Co-V12)を投与し、尿中への放射性ビタミンB12の排泄を時間経過で測定する検査です。排泄が低下していれば、吸収障害といえますが、ビタミンB12吸収不全の診断目的に行う検査として知られています。

 

・ 乳糖チャレンジとは、乳糖を投与して、小腸がそれを吸収できるかどうかを調べる検査です。乳糖不耐症では乳糖を吸収することができず下痢を来します

 

・ 膵液中には蛋白分解酵素、脂肪分解酵素(リパ ーゼ)、糖質分解酵素(アミラーゼ)、核酸分解酵(DNA分解酵素、RNA分解酵素)の他に、コリパーゼのような活性化因子や、トリプシンインヒビターのような酵素阻害物質も分泌されています。膵液中の酵素量の70%は蛋白分解酵素が占めています。膵外分泌障害は消化吸収不良の中でも消化障害 の主な原因の一つです。

 

Q4.

What is the main cause of surreptitious diarrhea?

密かに引き起こされている下痢の主な原因は何ですか?

 

A4.

Mg²⁺ laxative overuse:

2価マグネシウムイオン含有下剤(便秘薬)の濫用

 

 

コメント:

英語の医学書にはFactitious diarrhoea due to surreptitious laxative abuse (SLA)
(密かな下剤濫用(SLA)による人為的な下痢)という表現があります。

 

surreptitious diarrhea(こっそりと引き起こされている下痢)には、体重を減らす目的で下剤を使用しているケースも含まれています。

 

 

Q5.

Which syndrome is characterized by irregular pain, and comorbid psychiatric disorders (in 50% of cases)?

不規則な痛みを特徴とし、(50%の症例で)精神疾患を併発する症候群は?

 

Irritable bowel syndrome(IBS):過敏性腸症候群  

 

 

コメント:

過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome; IBS)の有病率は10%程度、実際に病院を受診する方は約3割程度。頻度のきわめて高い疾患で、消化器科外来の40~70%を占めるといわれます。そして、その50%の症例で精神疾患が併発しているとしたら、IBSの診療に限らず消化器科医はすべからく消化器心身症の診断と治療を熟知すべき立場にある心療内科医が得意とする領域であるといってもよい位だと考えます。

 

このIBSの病態研究においては、脳腸相関(中枢神経機能と消化管機能の関連)が注目されています。 日本の医学書でもIBSに精神疾患が併発することの記述はあっても、具体的な合併率の記載がないものが多いです。

 

前回はこちら

 


臨床産業医オフィス

 

<高円寺南労働衛生コンサルタント事務所>

 

産業医・労働衛生コンサルタント・第一種作業環境測定士・衛生工学衛生管理者

飯嶋正広

 

 

働き方改革関連法での変更点と産業医の役割

(その選任方法、重要性)について(第1回)

 

労働安全衛生法では、常時50人以上の労働者を使用する事業所において、事業者は産業医を選任し、労働者の健康管理等を行うことを義務付けています。また、2019年4月施行の働き方改革関連法では「産業医・産業保健機能」と「長時間労働者に対する面接指導等」が強化されました。

 

今回は『働き方改革』における産業医の在り方や選任義務、事業場における役割から活用方法を解説します。

 

安全衛生管理体制における産業医とは

安全衛生管理体制のなかでも産業医制度の重要性が増しています。

 

産業医は労働安全衛生法に基づき、事業者が選任し、事業所の労働者の健康管理を行う業務を担います。

 

産業医の選任は事業場の規模により、人数が規定されています。

 

• 常時使用する労働者が50人以上3,000人以下の事業所:1名以上

 

• 常時使用する労働者が3,001人以上の事業所:2名以上

 

また、次の場合は事業所ごとに専属の産業医(専属産業医)を選任する義務が発生します。ただし、事業場の人数規模がそれに満たない事業所では、専任ではなくとも、非常勤の産業医(嘱託産業医)を選任することが可能です。

 

わが国の産業医の大多数は、私と同様の臨床医であり、臨床業務と併行しながら産業医業務に従事することになるため、嘱託産業医として従事することになります。

 

• 常時使用する労働者が1,000人以上の事業所

 

• 健康に悪影響を及ぼす環境下で行う業務(労働安全衛生規則13条1項2号参照)において、常時使用する労働者が500人以上の事業所

 

労働安全衛生法では、産業医の選任義務がない常時50人未満の労働者を使用する事業所においても、医師等に労働者の健康管理等の全部または一部を行わせるように努力義務が課されています。

 

この努力義務には国が必要な援助を行うことについても定められています。

 

 

前回はこちら

 

 

茨城に人気がない理由(その4)

 

茨城弁と茨城訛の茨城県人は県外の人々に誤解されやすい⁉

 

他県民が聞く茨城弁は、茨城県生まれの茨城弁話者にとってはごく普通の普段使いの会話であっても驚かれることがあります。

 

一本調子の速口でまくしたて、尻上がり調のうえ、おまけに語尾の「だっぺ」など、耳触りの良くない独特の言葉遣いが、まるで「怒っている」ように、あたかも「けんか腰」のように聞こえると指摘されることもよくありました。

 

茨城弁の代表的な語として列挙される言葉の中に、「ごじゃっぺ」(「でたらめ」など否定的な意味合い)、「でれすけ」(「だらしない、しまりがない男」の意)、「いじやける」(じれったくてイライラする気持ちを表す語)などがあります。こうした独特の語感を持つ語や、我慢の感情を表す他の地域や県には見られない希少な言葉があり、茨城の県民性をよく表す方言ともいわれます。

 

また水戸の三ぽい(みとのさんぽい)は、茨城県水戸市を中心とした地域の住民気質を表現したとされる言葉。理屈っぽい・怒りっぽい・骨っぽいの3つからなるが、「理屈っぽい」または「骨っぽい」を「飽きっぽい」に置き換えることもあります。水戸人の直情径行な気質を表したものと解釈され、とても社交的とは言い難い印象を与えてしまいます。

 

これらは本来、水戸藩の「水戸っぽ」の気質を表す言葉でした。

 

かつては「日本のテロ史上に水戸出身者あり」と言われるほど、水戸出身者の義侠心は天下に鳴り響いていましたが、現在ではそうした義侠心は影を潜めています。

 

既に「三ぽい」の性格が見られたのは昔のことであるという主張がなされていますが、私自身が「水戸っポ」なので、本質は昔のままのような気がします。根っからの茨城県人であるはずの私が、県名の「茨城」を「いばらぎ」と発音したところ、「茨城県人なら正確に『えばらき』と発音するように」と叱られたことがあります。

 

もっともその御老人は性格に「いばらき」と発音されているつもりなのです。

 

このように茨城弁では「い」と「え」の区別が曖昧であったり、ときには逆転してしまったりすることがありました。わたしはかつて「ええずま」と呼ばれても、何の抵抗もなく「はい」と答えていました。

 

最近ではさすがに「ええずま」は聞かれなくなりましたが、「ええじまさん」と発音しがちな老人は健在ですし、なぜだかわりませんが「いいずかさん」と明らかに誤って呼ばれたり、「飯嶋」でなく「飯塚」と表記されたりすることがありますが、茨城県に限らず、東日本出身者が多いような気がします。

 

さて日本放送協会が実施した県民意識調査によると、茨城県民は郷土意識があまり高くなく、特に土地の言葉に対する強いコンプレックスが見られるといいます。

 

その理由として、首都圏にありながら垢抜けず、独特の語尾が上がる話し方によって田舎っぽさが増していることが要因の1つとして挙げられています。

 

また、元々の方言に敬語表現が少なく、軽い気持ちで話したとしても威張っている、叱られたように受け取られるという説もあります。しかし、それよりもかつての茨城県人は自分が方言を話しているとか、訛っているという自覚が乏しい人たちも少なくありませんでした。

 

何を隠そう、私自身も茨城特有の語彙を標準語に置き換えれば訛はない、と単純に考えていたのでした。だから、他者から「訛っている」と指摘されても、アクセントやイントネーションのことまで気が回らず不思議な思いを体験したものでした。

 

『茨城県大百科事典』の「県民性」の項を参照してみると、「温暖な気候による閉鎖的農村社会の存続と水戸藩の気風が茨城県の県民性を作り出していると解説し、「文化や社会の変化と人々の移動によってゆっくりと変容していくであろう
と結んでいました。

 

ただし、これには異論があります。水戸藩は殿様からして常陸国出身者ではなく、主要な藩士の多くも、他国からの寄せ集めだからです。それにもかかわらず、茨城県人、水戸人は、水戸徳川家をよそ者扱いにはしませんし、水戸藩士を他国者呼ばわりをすることもありません。魅力度最下位の茨城県人は、現在でも、他県からの移住者を、お客様としてというよりも、新しい仲間として快く迎えています。

 

茨城県人の私の心によりピンとくるのは、古書『人国記』の常陸国の項の記載です。それは、「昨日の味方が今日の敵になるようなことはめったにないとあり、中世の頃から律儀な性格であるとみられてきた」という一文です。そして、県民性研究の第一人者である祖父江孝男は、著書『県民性の人間学』で、まさに茨城県人の特質を鋭く分析しています。「茨城県民が口下手で、ゴマスリができないことにより、相手に分かってもらえなくて怒り出すが、すぐ忘れてケロリとしている
旨を記述しています。

 

心理学者の宮城音弥は、茨城県の県民性が千葉県と似ているが、関東奥地の躁鬱質が混入しているらしい、としています。特に茨城県民には「理想家はだ」の特性が強く、<三ぽい>の気質が環境・社会教育・武士の道徳だけで形成されるものではない、とも述べていますが、まさに卓見であり、自分自身のことを振り返ってみても、すこぶる腑に落ちる点があります。

 

また矢野新一は、茨城県北部の男性は保守的で見栄っ張り、女性は愛想が今一つで気が強く、県南部は男女とも北部に比べおおらかである、と述べています。これは表面的な観察所見であり、残念な気がします。男性については概ね正解ですが、茨城育ちの女性の愛想が乏しいのではなく、いささか臆病で内気であるにもかかわらず、安っぽく媚びたり甘えたりすることを良しとしない性質であることを申し添えておきたいと思います。茨城の女性は、自分を飾ること少なく、表裏なく誠実さと真心に溢れていることは、理解されていないようです。

 

茨城男子が保守的で見栄っ張りとされるのも、茨城女子が気丈で愛想に乏しいのも、共通するベースがあるような気がします。それは、自己表現や自己宣伝に対して晩稲(おくて)であるということです。

 

弁舌爽やかな人に引き付けられることはあっても、自分自身がそのようになりたいとまでは考えない傾向が、どうやら今日に至る茨城の男女には見られるような気がするのです。そして、表現力が乏しい一方で、自分の純粋な誠意が曲解されてしまうと、深い悲しみと嘆きを覚えます。その気の毒な感情ですら巧みに表現できず、あたかも怒っているかのように受け取られてしまうのはすこぶる残念な気がしてなりません。

<線維筋痛症 JFIQの経過報告>

 (図1)

スクリーンショット 2022-01-05 13.22.53 

 

JFIQは線維筋痛症の経過観察に欠かせない指標です。

 

 

最高点が100点で、20点未満が正常値になります。

 

 

 (図1)は左側が初期時の点数、右側が現在の点数でその2点を結んだものです。

 

 

 

 図2)

スクリーンショット 2022-01-05 13.22.39

(図2)は線維筋痛症の治療効果の割合を表したものです。

 

 

 50以上点数が下がると「著効」です。

 

 

 20以上50未満点数が下がると「有効」です。

 

 

 20未満の点数の低下は「無効」の判定となります。

 

 

 

<今回の考察>

 

正規性の検定で初期値、現在値共に正規性がありました。

 

 

その後、関連2群の検定と推定を行いました。

 

 

1)統計的にみて、JFIQスコアが有意に改善したことが証明されました。P(危険率)=0.001%でした(図1)

 

pが0.05以下であれば統計学的優位である。

 

pが0.01以下であれば統計学的に極めて優位である。

 

 

2)JFIQスコアの判定基準として、20点以上改善されると治療が有効、50点以上改善されると著効となります。

 

  今回、 10名の平均で    32.8点改善していたため、全体として鍼治療は  有効であったと言えます。

 

 

個別でみると、著効1名(10%)、有効7名(70%)、無効2名(20%)でした。(図2)

 

 

 

杉並国際クリニック 統合医療部 漢方鍼灸医学科 鍼灸師 坂本光昭

 

前回はこちら

 

昨年に引き続き、訳読を続けて参ります。そこで、これまでの簡略なあらすじを紹介いたします


この物語の事件の発端は、医師リウーを階段でつまづかせた一匹の死んだ鼠でした。

ネズミの異常な死骸や死に至る断末魔の光景は、リウーが住むフランスの海外県の県庁所在地でアルジェリアの要港をもつオラン市の至る所でみられるようになりました。

 

主な登場人物

 

• ベルナール・リウー:医師。

 

• ジャン・タルー:よそ者、彼の手帳がこの作品のもうひとつの語り手。

 

• コタール:絶望に駆られた男、犯罪者。

 

• オトン氏:予審判事、「ふくろう男」。

 

• レイモン・ランベール:新聞記者。

 

• 喘息病みの爺さん:リウーの患者

 

上記のリストの他に、リウーの妻、母親、リウーの診療所がある建物の管理人ミシェル氏、市のネズミ駆除担当課長メルシエ氏が登場しました。
 

 

Mais dans les jours qui suivirent, la situation s‘aggrava. Le nombre des rongeurs ramassés allait croissant et la récolte était tous les matins plus abondante. Des le quatrieme jour, les rats commencerent a sortir pour mourir en groups. Dès réduits, des sous-sols, des caves, des égouts, ils montaient en longues files titubantes pour venir vaciller à la lumiére, tourner sur eux-mêmes et mourir près des humains. La nuit, dans les couloirs ou les ruelles, on entendait distinctiement leurs petits cris d’agonie. Le matin, dans les faubourgs, on les trouvait étalés à même le ruisseau, une petite fleur de sang sur le museau pointu, les uns gonflés et putrides, les autres raidis et les moustaches encore dressées. Dans la ville même, on les rencontrait par petits tas, sur les paliers ou dans les cours. Ils venaient aussi mourie isolément dans les halls administratifs, dans les préaux d’école, à la terrasse des cafés, quelquefois. Nos concitoyens stupéfaits les découvraient aux endroits les plus fréquentés de la ville. La place d’Armes, les boulevards, la promenade du Front-de-Mer, de loin en loin, étaient souillés. Nettoyée à l’aube de ses bêtes mortes, la ville les retrouvait peu à peu, de plus en plus nombreuses, pendant la journée. Sur les trottoirs, il arrivait aussi à plus d’un promeneur nocturne de sentir sous son pied la masse élastique d’un cadaver encore frais. On eût dit que la terre même où étaient plantées nos maisons se purgeait de son chargement d’humeurs, qu’elle laissait monter à la surface des furoncles et des sanies qui, jusqu’ici, la travaillaient intérieurement. Qu’on envisage seulement la stupéfaction de notre petite ville, si tranquille jusque-là, et bouleversée en quelques jours, comme un homme bien portant don’t le sang épais se mettrait tout d’un coup en révolution!

しかし、その後の数日間で事態はますます悪化していった。

収集されたネズミの数は増えるにまかせ、朝ごとに捕獲数も多くなっていた。

 

4日目からは、ネズミは外に現れては、群れを成して死んでいくのであった。

 

巣穴から、地下室から、地下貯蔵庫から、下水道などから、ネズミらはよろよろとした長い列を成して表に這い上がってきては、光を浴びてはよろめき、のたうち回って人間のそばで死んでいくのであった。

 

夜には、廊下や路地で、その断末魔の小さな鳴き声がはっきりと聞こえてきた。

朝になると、街はずれではネズミは側溝に一様に散らばっていて、あるものは尖った鼻面に小さな血の泡を吹かせ、あるものは膨れあがって腐乱し、さもなければまだヒゲを屹立させて硬直している状態で発見された。

 

市街地そのものも、船着き場や中庭などにそれらがうず高く積まれていた。

また、ときどきそのネズミたちは役所の広間やのホールや屋根付きの校庭、カフェのテラスで孤独に死んでいることもあった。我々市民は、街の最も繁華な場所でそれらを発見して仰天していた。

 

陸軍儀仗隊広場、環状並木通り、海浜遊歩道も、ときおり汚されていた。

 

明け方に死んだネズミを片付けた街は、その日中のうちに、徐々に、ますます多数のネズミを見つけるのだった。

 

夜間に歩道を歩く人は、一人に限らず、まだ新鮮な死体の弾力のある塊を足の下に感じることを経験していた。

それはまるで、私たちの家々を支えていた大地そのものが、災いをもたらしていた膿瘍や血膿を地表に排出させて、それまで地中に溜まっていた膿を浄化しているかのようであった。

 

それまで静かだった私たちの小さな町が、数日で大混乱に陥り、まるで頑丈な男の濃い血が突然革命を起こしたかのような驚きを感じたことであろう。

 

 

註:今回の場面の、とくに最後のあたりの象徴的な表現には圧倒されました。こうした表現は伏線なのでしょうか。もし、これが伏線であるとすれば、この後の物語がどのように展開していくのか、大いに興味をそそられるところです。

 

 

年明け1月30日(日)15:00頃から、西荻の勤労福祉会館にて

「めいた会」発表会に参加する予定です。

 

3曲目のオペラ・アリアが未定でしたが、最終決定をいたしましたので、ご報告させていただきます。

 

ピアノ伴奏は、金曜夜間の稽古でお世話になっている森嶋奏帆さんです。

 

1) 日本歌曲:『この道』 山田耕筰作曲

 

2) イタリア歌曲:『郷愁』P.Cimara作曲

 

3) オペラ・アリア:『星は光りぬ』G.Puccini作曲 
  オペラ<トスカ>第3幕より


<事前研究>貴重な音源が公開されていますので、どうぞお楽しみください!

 

 

1)一曲目『この道』: 音源でみる歌唱法の変遷

 

昭和3年(1928)藤原義江

 

昭和14年(1939)松原操

 

平成15年(2003)小川明子


令和2年(2020)小林沙羅

 


令和4年(2022)飯嶋正広:乞うご期待!

 

 

2)二曲目『郷愁』:意外に少ない音源 

 

2019 Michel Dodge

 

2022 飯嶋正広:乞うご期待!

 

 

3)三曲目『星は光りぬ』:3大テノールによる個性的な歌唱 

 

パヴァロッティ


ドミンゴ

 

カレラス

 


飯嶋:乞うご期待!

 

認定内科医、心療内科指導医・専門医、アレルギー専門医、リウマチ専門医、認定痛風医

飯嶋正広

 

 

神経病学、アレルギー・膠原病学、感染症学

 

毎週木曜日は、昨年からの、こころの健康(身心医学)というタイトルを引き継ぎ、上半期は最近、進歩と変化の目覚ましい神経病学、アレルギー・膠原病学、感染症学について、私が気になる話題を取り上げていく予定です。

 

このなかでアレルギー・膠原病学の領域は、アレルギー専門医・リウマチ専門医としての永年の私の専門領域に相当します。とくに、リウマチ専門医の扱う臨床領域は、関節リウマチに限局されず膠原病全般に及んでいるのですが、いまだに十分理解されていないのが実情です。関節リウマチは、膠原病を代表する疾患であることだけでも知っておいていただけたらと思います。

 

また、感染症学については、一昨年から引き続き世界的なCOVID-19問題として今年も引き続き慎重にモニターしつつ対応を考えていかなければなりません。この感染症とアレルギー学は免疫学という共通のベースがあるため相互に密接な関係があります。COVID-19問題に関するメディア露出で一躍世界的に有名になったアンソニー・ファウチ氏は、米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)の所長です。その名の通り、アレルギーと感染症は互いに隣接領域として研究が進められているのです。

 

ところで、こころの健康(身心医学)というタイトルは少し、あるいはかなり、奇妙であり、不可解な印象を持たれる方も少なくないものと拝察いたします。しかし、これには訳があるのです。

世間では、<こころのケア>などというソフトで暖かそうな表現が好まれる傾向があるようにも見受けられますが、そもそも<こころ>とは何なのでしょうか?これは哲学や宗教の世界で扱う領域なんでしょうか?<こころのケア>を生業とする心理カウンセラーが哲学者や宗教家を兼ねた存在であったとしても何ら不思議はありません。

 

しかし、医師が<こころのケア>を担当するのであれば、それとは別の科学的バックグラウンドやベースを持っていなければならないと、私は考えています。それでは、その科学的バックグラウンドやベースとは何かということが問題になってきます。

 

私は上記の命題を考察するに際して、<こころ>を支えている基盤を考えることにしました。なぜならば、<こころのケア>を求めて相談に来られる方々は、等しく自分が悩まされている、あるいは気になっている諸問題を抱えておられるからです。

つまり、みずから気づいている、気づけている意識の世界の課題に焦点を当てていますが、その原因となっていることが多い潜在意識や無意識の世界には到底考えが及んでいません。実は、この辺りが<こころのケア>を有効なものとするための臨床的実践の鍵なのであります。

 

率直に申し上げて、私自身は<こころのケア>という言葉は好んで用いることはありません。また、心療内科の専門医、しかもそのエキスパートである指導医であることから、<こころのケア>の専門家として紹介されることがありますが、いつも違和感を覚えています。その淵源はどこに由来するのかというと、それは<こころ>の概念が自他の間において一致していないからだと考えています。

 

私が心療内科医として実践してきたのは<こころのケア>ではなく、<たましいのケア>です。このような表現をすると、さらに誤解が拡大してしまう懸念があるので、ここで改めて簡単に説明させていただきます。

 

私にとって、<こころのケア>は意識世界を対象にして人文科学的な理解で行うケア、これに対して<たましいのケア>とは無意識の世界にまで立ち返って可能な限り科学的な基礎に還元して理解していこうとするケアの在り方なのです。つまり、これは<身>の科学に基礎を置くということです。

 


心療内科は私の専門領域の重要な柱なのですが、この領域は一般の方だけでなく、医療従事者の間でさえ極めて紛らわしく、しばしば混同され誤解されています。

 

とくに混同されやすいのは精神神経科や神経内科(脳神経内科)です。

そして、機会があるごとに、それらの違いや区別について私は根気強く繰り返して説明してきましたが、最近に至っては、そのような試みは徒労に終わるだけで実益がないことに気が付きました。

 

そのように考えるようになったのは、心療内科の位置づけが精神神経科領域と脳神経内科領域の両方に及んでいること、むしろそのことが心療内科医の強みでさえあることを改めて認識したからにほかなりません。

 

 

私は、<こころのケア>を求めて来院される方を素直に受け入れつつ、心療内科医として<たましいのケア>を提供していますが、こうしたアプローチが奏功しているからです。

 

そもそも人体の脳神経系の解剖(構造)と生理(機能)の理解が無ければ医師としての科学的なアプローチはできないのですが、少なくとも医師であるからには脳神経系は意識世界と無意識世界の両方の世界に対して構造的基礎を与えていることを忘れてはならないと考えています。

 

 

最後に、アレルギー・膠原病学の領域は、免疫学を基礎としているため、感染症学にも通底しているのですが、そもそも、免疫作用とは「自己と非自己とを認識する作用」です。私たちの体内に存在するあらゆる物質が、自己に属する者なのか、異物(非自己)なのかを絶えず監視しているのが免疫の働きなのです。

 

つまり脳神経系だけが認識作用を独占しているのではなく、免疫細胞も原初的な認識・識別能力を持っているということになります。私たちは、そうした免疫細胞の認識を直接知覚することはできませんが、別の表現をするならば、これらの免疫の働きを無意識のこころ、これを<たましい>の働き、と私は呼んでいるのです。

 

次週から、約半年の間、木曜日のこのコラムは神経病学、アレルギー・膠原病学、感染症学をテーマとして取り上げていきたいと思います。