アルベール・カミュ作 『ペスト』を読むNo14

 

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C’est pourtant le même jour, à midi, que le docteur Rieux, arrêtant sa voiture devant son immeubles, aperçut au bout de la rue le concierge qui avançait péniblement, la tête penchée, bras et jambes écartés, dans une attitude de pantin. Le vieil homme tenait le bras d’un prêtre que le docteur reconnut. C’était le père Paneloux, un jésuite érudite et militant qu’il avait rencontré quelquefois et qui était très estimé dans notre ville, même parmi ceux qui sont indifférents en matière de religion. Il les attendit. Le vieux Michel avait les yeux brillants et la respiration sifflante. Il ne s’était pas senti très bien et avait voulu prendre l’aire. Mais des douleurs vives au cou, aux aisselles et aux aines l’avaient forcé à revenir et a demander l’aide du père Paneloux.

それでも、同じ日の正午、自分の建物の前に車を止めたリュー医師は、通りのはずれで、首をうなだれ、両手両足を広げて、操り人形のような姿で苦しそうに歩いている管理人を見た。老人は、医師が見覚えのある司祭の腕にすがっていた。その司祭は、彼も時折会ったことがあるのだが、パヌルー神父といって、博識でありかつ戦闘的なイエズス会士であり、宗教問題に無関心な人々の間でさえも、この市では深く尊敬されていた。医師はこの二人を待っていた。ミシェル老人は目を見開き、息をぜいぜいさせていた。彼は体調があまりすぐれなかったので、外の空気に触れたくなったのである。しかし、首や脇の下、鼠径部などに激痛が走るため引き返さざるを得ず、パヌルー神父に助けを乞うたのであった。

 

__ Ce sont des grosseurs, dit-il. J‘ai dû faire un effort.

___「これは腫れ物だね」と彼は言うのであった。「難儀したよ。

 

 

Le bras hors de la portière, le docteur promena son doigt à la base du cou que Michel lui tendait; une sorte de noeud de bois s’y était formé.

車の扉から腕を出して医師が自分の指でミッシェル老が差し向けた首の付け根を、触診してみると、そこには木の節くれのようなものができていた。

 

 

__ Couchez-vous, prenez votre température, je viendrai vous voir cet après-midi.

__ 寝ているようにして、体温を測っておいてください、午後に来てみますから。

 

 

Le concierge parti, Rieux demanda au père Paneloux ce qu‘il pensait de cette histoire de rats:

管理人がいなくなったところで、リューはパヌルー神父に、このネズミ騒ぎをどう思うか聞いてみた。

 

 

__ Oh!dit le père, ce doit être une épidémie, et ses yeux sourirent derrière les lunettes rondes.

__ ああ!それは流行り病に間違いないでしょう、と神父は言うのであった。そして丸いメガネの奥の彼の両目は微笑していた。

 

 

註:

この場面は、ねずみで観察されていた異常が、人間においても発生することの証左となる最初の症例描写です。

 

建物管理人のミシェル老の目はles yeux brillants(輝く両目⇒大きく見開かれた両目)で、彼を助けるパヌルー神父の目はses yeux sourirent derrière les lunettes rondes(丸いメガネの奥の彼の両目は微笑していた)と対照的に描かれているのも印象的です。

 

リウー医師はその患者の頸部リンパ節を触診し、リンパ節腫脹の所見を得ていたはずです。そのリウー医師は、管理人のミシェル老がその場を外した後に、彼の様子についてではなく、ネズミ事件についての感想をパヌルー神父に求めています。神父の見立ては流行病ということでした。

 

これは、ミシェル老も流行病であるに違いないという判断を、医師と神父という、当時の社会の二大プロフェッショナルが分かち合った瞬間であると解釈するのは、いささか深読みに過ぎるでしょうか。

 

この様子の描き手は、ミシェル老が全身性のリンパ節炎を呈していることと、特徴ある呼吸器症状(気管支肺炎や喘息を想起させる)の存在を証言し、感染症であるらしきことを示唆しています。

 

それにしても、流行病であることを認識しているにもかかわらず、パヌルー神父は病人を助けました。当時のこととはいえ、彼は教養人であり、自身が感染リスクに晒される、いわゆる濃厚接触者になってしまうことについて了解可能であったのではないかと考えます。

 

現ローマ教皇フランシスコも偶然ですがイエズス会出身です。小説の登場人物としての司祭であるパヌルー神父と実在のフランシスコ教皇との対比も興味深い試みとなることでしょう。