『水氣道』週報:水氣道稽古の12の原則(19)専門性の原則(その3)

 


前回はこちら
 

 

今回も、実践的なトレーニングにおいて専門性の原則がどのように活かされているのかについて解説を続けます。そこで改めて、そもそもトレーニングとはどのようなことを指しているのかについて振り返ってみたいと思います。
 

一般的にトレーニングとは、スポーツパフォーマンス向上のために行う思考や行為、作業の総称であるとされます。そして、トレーニングの概念は体力要素のみに限定したものではないとされます。そして、トレーニングについてのこのような理解は水氣道においても共通しています。

 

もっともスポーツの種目は多様性に富んでいます。特にパフォーマンスが数値記録として現れる競技スポーツ(陸上競技、競泳競技、水上のカヌーやボート、氷上のスピードスケートなど)の場合は、種目ごとに異なる競技特性に専門的な配慮をしながらも、跳躍種目やスプリントの場合と同様に、技術、体力の各段階における階層構造関係を保持しつつ専門性と一般性に配慮しながらトレーニングの設計をすることができます。

 

これに対して、球技スポーツや対人スポーツの場合には、個々のアスリートだけではなく、対戦相手との関係、同じチームのアスリート間の関係、異なるチーム間などの関係などをも考慮する必要があります。

ですから、球技スポーツのパフォーマンスの設計に当っては、戦術の要素が加わってきます。つまり、戦術、技術、体力の各段階における階層構造関係を保持しつつ専門性と一般性に配慮しながら行うことが大切になります。

 

そこで、トレーニングの手段化も、以下のように、いくつかの種類に分類されています。

 

① 試合そのものの手段化(国内外の重要な試合など)

 

② 限定的な試合の手段化(練習試合やテスト試合など)

 

③ 専門的な運動の手段化(パフォーマンス構造に直結した要素を抽出した運動)

 

④ 一般的な運動の手段化(基礎運動技能を高めるための各種運動や体力要因を高めるための各種運動)
 

 

 

将来に向けて発展を続けている水氣道においての現在の段階では、試合や競技の要素は意図的に排除しています。

 

ですから、トレーニングの手段化としては、上記のうち③および④を中心として実践を続けています。①および②のような試合や競技の要素が乏しいということは、競技専門性(競技専門的手段)には乏しく、戦術を習熟することを目的とするトレーニングではないということになります。

 

一方、③および④に比重を置くことによって、日常生活の動作に直結するような一般的手段としての特性が顕著となり、体力強化を主たる目的とするトレーニングになっています。

 

これらの各種のトレーニングの手段化の間にも相互関係があります。たとえば、④一般的な運動の手段化は③専門的な運動の手段化の基礎を成します。また、異なるスポーツの種目間においては、その特性や目的の違いによって、同一のトレーニング内容であっても、一方のスポーツにとっては専門的トレーニングの手段になり、他方にとっては一般的トレーニング手段として位置づけられることがあります。


さらに③専門的な運動の手段化には、②限定的な試合の手段化、および①試合そのものの手段化の部分的要素を形成しているため、これら4つの手段化はすべて相互に関連し合った構造体を形成しています。これらのいずれかが欠如すると世界水準での高いレベルでのパフォーマンスを継続的に向上させることはできません。


しかし、トレーニングの概念の中核をなす体力要素に焦点を当てている現時点での水氣道では、当面の間は、4つの手段化の中でももっとも基礎をなす④一般的な運動の手段化によって③専門的な運動の手段化の充実を図ることに意を注ぐことになるため、とても手堅い稽古プログラムを提供することができるのです。

しかも、将来的には、個人の形(航法)試合や団体競技としての要素を取り込んでいくことで、②限定的な試合の手段化、さらに①試合そのものの手段化までを取り込んでいくことを計画しています。

 

専門性の原則を、トレーニングの手段化の中で理解していただくうえで、混同しがちだと思われることがあります。それは、③の<専門的な運動の手段化>における専門性と、<競技専門性>における専門性とは、異なる内容であるということです。

 

水氣道における「専門性の原則」は、これらのいずれのケースにおいても用いることになるため、その場合は、どのような文脈の中で用いているのかを予め了解可能となるように配慮して用いていきたいと考えます。