こころの健康(身心医学): 厚生労働省 こころの耳Q&Aから学ぶNo7


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厚生労働省は、

職場のメンタルヘルスに関するよくある質問と答えをまとめました

として、ホームページで、こころの健康に対してわかりやすいQ&Aを掲載しています。

それに私が臨床の立場からCとしてコメントを加えてみました。

 

 

Q.

自殺の原因は精神障害だというのは本当ですか?

 

A.

警察庁の統計では、令和元年中の自殺者総数は20,169人であり、自殺の原因・動機の内訳は、「健康問題」が9,861人、「経済・生活問題」が3,395人、以下、「家庭問題」3,039人、「勤務問題」1,949人、「男女問題」726人、「学校問題」355人、「その他」1,056人でした(複数回答)。

 

これらの原因の結果として、精神障害を発症し、自殺にいたった例も多いものと考えられます。自殺の動機そのものは、必ずしも一つの要因だけで説明できるものではありませんが、精神的に追い込まれた状態で自殺行為がなされることを考えると、うつ病をはじめとする精神障害が自殺の原因となっているとする報告が多数なされています。

 

また、失業や配偶者の死亡などの人生におけるストレスを伴う重大な出来事(ライフイベント)の際に、精神障害を引き起こし、自殺にいたることがあるので、周囲からの十分な注意や配慮が必要となります。

 


C.

「病気の悩み・影 響(うつ病)」を原因・動機とする自殺は、「健康問題」の 中で最も多くいことは確かです。しかし、自殺の原因は精神障害だと決めつけることは論外です。なぜならば、精神障害による自殺は、平成27年においては、原因・ 動機が特定されている自殺の約3割を占めているに留まっているからです。 

 

むしろ、自殺には多様かつ複合的な原因・背景を有するものであることが、自殺対策基本法や自殺総合対策大綱においても指摘されています。自殺対策においては、うつ病の早期発見、早期治療を始めとする心の健康問題に対する働きかけのみならず、心の問題に複雑に絡み合っている社会的要因を含めた様々な問題に対しての働きかけが必要であることがわかります。

 

近年、うつ病や身体の病気を原因・動機として自殺する者の割合は低下しているようです。

こうした「健康問題」による自殺死亡率の減少の背景には、これらの疾病の患者に対する医療の進歩や相談体制の充実が寄与している可能性が示唆されています。

 

それでは、精神障害を含む「健康問題」以外の自殺の原因・動機について、近年の傾向を概観してみたいと思います。

 

 経済・生活問題 「経済・生活問題」を原因・動機とする自殺については、その多くが男性によるもので あるという特徴があり、また、これまでも、 景気の動向の与える影響が示唆されてきています。

 

景気動向指数(CI一 致指数)の増減と「経済・生活問題」による男性の自殺者数の増減には、負の相関の関係がある事が指摘されています。

 

 

 

 勤務問題 「勤務問題」による自殺の原因・動機の詳細な内訳をみると、「仕事疲れ」についてはさほど大きく増減していない一方、「職場の人間関係」 や「職場環境の変化」の増減は「勤務問題」 全体の傾向と類似しています。

 

これらによる自殺が増加した時期は、ちょうど職場におけるパワーハラスメントの問題が顕在化した時期と重なることから、この問題に対する予防・ 解決に向けた取組の進展が、職場におけるメンタルヘルス対策の進展と相まって、「勤務問題」を理由とする自殺の減少につながった可能性があります。

 

労働安全衛生法の改正によって、平成27年12月から、職場におけるストレスチェック制度が導入され、集団分析の他、産業医による高ストレス者面談が実施されるようになりましたが、「勤務問題」を理由とする自殺の減少という具体的な成果を今後も引き続き挙げることが期待されています。

 

 

 

 学校問題 「学校問題」による自殺については、学生・生徒等の自殺に限ると、最も多い自殺の原因・動機です。学校の種類別では、大学生と高校生が多くを占めています。

 

一方、原因・動機の内訳では「入試に関する悩み」「その他進路 に関する悩み」及び「学業不振」といった学業や進路に関する問題が年毎の増減がある一方、「教師との人間関係」「いじめ」「その他学友との不和」等の学校における人間関係等 関する原因・動機はほとんど変化がありません。

 

学業や進路の悩みにせよ、学校における対人関係にせよ、学校において、スクールカウンセラー等も活用した児童生徒の日常の生活状況や心身の問題について理解を深めるとともに、児童生徒に対しても、困難を抱えたときに適切に助けを求める方法や相談先を把握しておくことや、つらい時の現実の受け取り方やものの見方を柔軟でバランスの良いものにすることなど、生活上の困難やストレスに直面しても適切な対処ができる力を身に付けるための支援を行うことが重要と考えられています。