『水氣道』週報:水氣道稽古の12の原則(18)専門性の原則(その2)

 

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トレーニング理論における専門性の原則をより深く理解するためには、専門性の原則がトレーニングの理論と実践の体系の文脈の中で、他の原則とどのような相互関係にあるかを知っておくことが役に立ちます。

 

まずトレーニングは、適切な目標を設定することから始めます。

 

トレーニング目標を設定するには、現状を正確に把握するとともに、その後の未来を予測することが前提tなります。その際に考慮しなければならないのが、

①実現可能性、②時間資源、③個別性と専門性、④アスリート(水氣道においては稽古参加者)の発達段階です。

 

ここで示したように、専門性の原則は個別性の原則との相互関係、すなわち兼ね合いの中で位置づけなければならない相対的な原則であって、独立した絶対的な原則ではないということがいえます。
 

トレーニングにおける設定目標と現状との間には、必然的にギャップが生じることになります。

このギャップを総合的な課題として形成し、その原因をあらゆる視点から専門的に分析究明することがスポーツ界では試みられています。そのうえで、個々の原因を解決するための個別の課題を考慮しながら、それらの中での優先順位を決定して配列していくことになります。
 

スポーツパフォーマンスを向上させるためには、トレーニング手段や測定評価のためのテストにどのような運動を選択するかは大切なポイントです。その場合には、スポーツパフォーマンスの構造モデルに基づく専門的な考え方が必要になります。ただし、高度な医科学テストや、その他の各指標が先行し、この種の科学的な諸要素からトレーニングを組み立てる方法は誤りであるとの意見が主流です。

 

その理由の一つは、実際にそのような方法を採用することが失敗を引き起こす原因となる場合が多かったこと、もう一つは、あるスポーツに必要不可欠なトレーニング手段や方法が、他のスポーツにはマイナスに働くことが頻繁に観察されたことです。スポーツにおける専門性の原則は、スポーツの種目によって、それぞれに求められる必要不可欠なトレーニング手段や方法が異なることを前提として、それぞれの種目に最適なトレーニング手段や方法を選択するための理論的な根拠にもなるものと考えられます。
 

そこで、理想的なトレーニングのモデルの設計のためには、具体的にはどのようにすれば良いのかということが重要な論点になってきます。これに関して、すべてのトレーニングの基礎となる指針として“初めに運動ありき”という標語が知られています。これは、トレーニングを効果的に推進するためには、目指すスポーツパフォーマンスの構造モデルに立ち戻ってトレーニングを開始することを意味しています。

 

ただし、これを実践して行くためには、自らが行うスポーツに関する高度な理解と知識だけではなく、スポーツ実践を通して体得した豊富な経験則と実践的な知恵が要求されます。ですから、初心者や若手で経験の少ないアスリートにとっては、高い成果を獲得している経験豊富な専門性の高いコーチによる指導が必要になってくるのです。
 

ここで、確認しておきたいことは、「高度な医科学テストや、その他の各指標が先行し、この種の科学的な諸要素からトレーニングを組み立てる方法は誤りである」との意見にもう一度注目しておきたいと思います。

 

一般に、高度な戦術や複雑な技術を要求されるような種目については、このような意見は妥当であるように思われます。しかし、体力の維持増進あるいは比較的シンプルな技術の組み合わせによってデザインされている水氣道のようなエクササイズに関してはこの限りではないと考えています。

 

季節ごとに実施されているフィットネス・チェックやメディカル・チェックなしに水氣道の発展は実現できなかったからです。ただし、“初めに運動ありき”という標語は水氣道においても高く評価できます。水氣道では、まず“水に委ねよ”という教訓が“初めに運動ありき”という標語の前提になっているということは、水氣道における専門性の原則の重要な柱であるといえます。
 

水氣道を実践して行くためには、参加者自らが行う水氣道の稽古に関して、徐々に高度な理解と知識を深めていくだけではなく、水氣道ならではの組織的な集団稽古の継続的な実践を通して体得した豊富な経験則と実践的な知恵が要求されます。

 

ですから、初心者(体験生)やまだ経験の少ない参加者(訓練生や修錬生)にとっては、高い成果を獲得していて、自らも長年の稽古を実践してきた経験豊富な専門性の高いコーチ(支援員、指導員、監督指導者)による指導が必要になってくるのです。