からだの健康(心身医学):「骨粗しょう症」診療に対する新しい見かたと対策No3

 

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骨粗鬆症の予防と効果的な治療の指針となる骨代謝マーカーについて(入門編)

 

令和3年は、新型コロナ感染症対策の盲点となった、感染症対策そのものによってもたららされるビタミンD低下⇒骨量低下⇒骨粗鬆症、およびビタミンD欠乏による自然免疫力低下について警鐘を鳴らし続けてきました。そこで、骨粗鬆症に対する皆様の関心が、女性ばかりでなく男性においても、以前に増して高まってきているのを実感しています。

 

そこで、今月は、「骨粗鬆症」を理解し、診断や治療選択において、ますます重要性が認められてきている骨代謝マーカーについて、3段階(入門編⇒基礎編⇒発展篇)にわけてQ&A形式で解説することにしました。各編とも5つのQ&Aで解説します。杉並国際クリニックにおける令和4年の診療内容の理解の助けとしてご活用いただければ幸いです。

 

ところが、年齢とともに体の持っている再生能力が衰えると、骨を「つくる」能力が低下してしまいます。すると、「壊す」働きの方が強くなってしまうので、骨密度が低下します。また、女性ホルモンのエストロゲンには、骨を壊す破骨細胞の働きを抑制する作用がありますが、女性の場合、閉経後にエストロゲンの分泌が落ちるので骨密度が低下します。このように骨密度が低下することで生じるのが骨粗しょう症です。

 

 

 

Q1.そもそも丈夫な骨とはどのような骨なのですか?

 

A1.丈夫な骨とは骨組織の強さを意味します。骨組織の強さ、すなわち骨強度は1)骨密度と2)骨質の2つの要因によって規定されています。

 

骨の強さを決めるのは「骨密度が7に対し骨質が3」とされています。同じ骨密度の人では、年齢が高い人ほど骨折する人が多くなります。このことからも、骨折しやすくなるのには骨密度の低下と骨質の劣化の両方が関わっていることがわかります。骨密度が高いから骨折の危険性はないとは言い切れないのです。

 

まず1)骨密度を維持するためには骨のリモデリングが起こっている部位で骨吸収と骨形成の量が等しくならなければなりません。(骨のリモデリングについては、Q3をお読みください)

 

しかしながら、加齢や閉経、すなわちエストロゲンの欠乏などによって破骨細胞による骨吸収が骨芽細胞による骨形成を上回るようになってしまうと、最終的には骨密度が低下して骨粗鬆症となってしまいます。

 

次に2)骨質という要因です。骨の質が悪いと骨は弱くなり、たとえ骨密度がそれほど減っていなくても骨折する危険性が高まります。骨質は年とともに低下しますが、食事や運動不足などの生活習慣も深く関わっています。骨を強くするためには、骨の質を高める生活を心がけることが大切です。
 

骨粗しょう症になって骨が弱くなると、骨折する危険性が高まります。ところが、同じ骨密度であっても、骨折する人もいればしない人もいます。また、骨密度が低下していないのに、骨折する人もいます。このことから、骨の強さには骨密度だけではなく、骨の性質を示す「骨質」が関係していると考えられるようになりました。
そうして「壊す」と「つくる」という骨代謝のバランスがとれているときは骨量が一定で、骨の強度を保つことができます。

 

 

Q2.骨質についてもう少し詳しく説明してください。

 

A2.骨の質の衰えに大きく関係すると考えられているのが、コラーゲンの劣化です。
 

骨はコラーゲンというたんぱく質が束になってコラーゲン線維となり、ビルにたとえると鉄筋部分の役割をしています。コラーゲンは骨以外にもアキレス腱や、膝のお皿を動かす膝蓋腱(しつがいけん)のほとんどを作っていて、非常に力強い性質を持っています。骨はこの強靭なコラーゲンが柱を形成し、そのまわりにカルシウムなどのミネラルがコンクリートのようにはりついた構造をしています。
 

強い骨になるには、コラーゲンにミネラルが均一に沈着する必要があります。そのためには、コラーゲンがきれいに並んで揃った状態になっていなければいけません。しかし、コラーゲンの量や質が変化すると、きれいな束にならず、ミネラルが均一に沈着しにくくなります。つまり、骨量を示すカルシウムなどのミネラルがいくら十分であっても、柱となるコラーゲンの質が悪ければ、強い骨を作れなくなってしまうのです。
 

コラーゲンは、30~40歳代をピークに年とともに減少します。コラーゲンがそのものが作られるためにはビタミンCが不可欠です。その他、ビタミンK、ビタミンD、葉酸などが不足することでも骨量の減少だけでなく骨質の劣化が起こります。これらは骨の質を良い状態に保つのに大切な成分です。不足してコラーゲンの劣化が起こると、骨に大変小さなひびができます。これを「微細構造の変化」といい、骨折を招きやすくします。
 

コラーゲンは骨だけではなく、筋肉や関節をつなぐ靭帯などにも含まれています。そのため、減少すると体がスムーズに動くのに影響を及ぼして、転倒のリスクも高めてしまいます。このようにコラーゲンは骨の質だけではなく、転倒のリスクにも関わり、骨折の危険性をさらに高めることになるのです。

 

 

 

Q3. 骨のリモデリングとは何ですか?

 

A3. 人間の体の中には、古い骨は破骨細胞という細胞によって吸収され、さらに骨が吸収された部位には骨芽細胞によって新しい骨が形成される、そういった新陳代謝の生体現象が起こっています。この骨の新陳代謝を骨リモデリングといいます。
 

つまり、古くなった骨を破骨細胞が壊し、骨芽細胞が新しい骨をつくる、という骨代謝を繰り返しています。言い換えれば、骨は一度作られたらそれで終わりというわけではないということです。このことは、実に多くの皆さんが誤解されているようです。とくに顕著な誤解は、<老化によって衰えた骨は若返らない>という思い込みです。杉並国際クリニックで実施している骨量検査(保険診療にて、概ね半年に一回測定しています)では骨年齢を算出していますが、80歳を超える女性でも骨年齢の若返りが観察され、これまでの常識が覆されつつあります。こうした方々の骨代謝の変化について今後追跡を続けていく意義は大きいと考えます。
 

この骨代謝の状態を血液や尿を用いて生化学的なマーカーで評価することができます。それが骨代謝マーカーです。(骨代謝マーカーについてはQ3をお読みください)

 

 

 

Q4.骨代謝マーカーとはどのようなものなのでしょうか?

 

A4.骨代謝マーカーとは、骨代謝の状態を評価するために血液や尿を測定する方法の一つです。骨代謝マーカーは、骨吸収の状態を評価できる骨吸収マーカーというものと、骨形成の状態を評価できる骨形成マーカーというものがあります。さらには、骨マトリックス関連マーカーといわれるものもあります。  

 

骨吸収マーカーには検体の違いによって、血清マーカーと 尿中マーカーという区別の仕方があります。

 

骨形成はわかりやすいですが、骨吸収はわかりづらいのではないでしょうか。そこで、骨吸収という言葉について説明します。私自身は医学生の頃から、骨吸収という言葉に違和感を覚え続けてきました。なぜかと言いますと、まず第一に、骨が吸収するのか、骨が吸収されるのか、という区別がつきにくい表現だからです。そこで骨吸収とは、骨組織の吸収である、と説明されてはじめて、骨組織が吸収するのではなく、何かに吸収されてしまうことであることがおぼろげながらにイメージできることでしょう。それでも骨は何に吸収されるのかも不明であるためピンと来ませんでした。

 

骨吸収とは、<破骨細胞が骨の組織を分解してミネラルを放出し、骨組織から血液にカルシウムが移動するプロセスである>ことを説明されてはじめて何とか理解できます。簡単に言えば、骨組織が分解されて血液に吸収されてしまうことなのです。
骨の吸収に関与するそこで主役となるのが破骨細胞であり、これは多数のミトコンドリアとリソソームを含む多核細胞です。破骨細胞は通常、骨膜のすぐ下の骨の外層に存在します。新陳代謝の一環として骨が破骨細胞に分解され、カルシウム・コラーゲンなどが血液に吸収されることが骨吸収ということになります。

 

 

 

Q5.骨代謝マーカーには、具体的にどのようなものがあるのでしょうか?

 

A5.血清の骨吸収マーカーの中にはⅠ型コラーゲン架橋N テロペプチド(NTX)の他に、Ⅰ型コラーゲン架橋Cテロペプチド(CTX)、酒石酸抵抗性酸ホスファターゼ-5b分画(TRACP5b)といったものがあります。  

 

また、尿中の骨吸収マーカーでは NTX、CTXのほかに、デオキシピリ ジノリン(DPD)というものの測定が可能です。

 

一方で骨形成マーカーに関しては、骨型アルカリホスファターゼ(BAP) や、あるいは最近ではⅠ型プロコラーゲンNプロペプチド(P1NP)といったものがあります。  

 

杉並国際クリニックでは、骨吸収マーカーとしてNTX,骨形成マーカーとしてBAPを採用しています。これらはいずれも血清マーカーとして採血検査で実施しています。