厚生労働省:こころの耳Q&Aから学ぶNo3

 

前回はこちら

 

厚生労働省は、
職場のメンタルヘルスに関するよくある質問と答えをまとめましたとして、ホームページで、こころの健康に対してわかりやすいQ&Aを掲載しています。

それに私が臨床の立場からCとしてコメントを加えてみました。

 

 

Q.

うつ病に対する偏見・誤解とはどのようなものですか?

 

A.

「うつ病は甘えた病である」、「頼る人がいるからうつ病になれる」、「うつ病になるのは、精神的に弱いから」、「心の弱い奴がうつになる」、「病は気から。強い精神力があれば大丈夫」など、今でもうつ病を性格、根性などに関連させる偏見や誤解があります。しかし、うつ病はセロトニンなど脳の神経伝達物質の異常が関連する身体の病気です。「うつは本当には治らない」、「うつは再発しやすいものだ」という人もいますが、効果の証明された薬があり、休養、精神療法・カウンセリングにより改善し再発防止も可能です。他の病気と同様にうつ病を正しく理解し、早期発見・早期治療に結びつけることが重要です。

 

 

C.

上記の回答には、うつ病の原因について簡単に触れているだけであって、そもそも、なぜ、うつ病に対する偏見・誤解が発生するのか、についての言及がありません。

 

私は、身近にうつ病の治療経験者がいない人の7割以上が、「自分は、うつ病にならない」と考えているというデータを見て、自分とうつ病患者を明確に分けて考えていることが最大の原因の一つではないかと疑っています。

 

うつ病になる人は特別な人であるという認識をもってしまうと、共感が妨げられやすくなるからです。

 

あるアンケート調査でも、うつ病経験ない人の約半数が、「うつ病の人とは一緒に仕事しにくい」と答えているそうです。

 

「一緒に仕事しにくい」感情は、患者・同僚の双方にとってストレスを高めます。

また職場としては生産性低下の原因にもなります。こうしたことから、ますますうつ病に対する偏見・誤解が深まっていきかねないことが問題だと思います。

 

それ以上に考えさせられてしまうのが、自身が過去に治療経験ある人の4割以上、43%現在治療中の人でも薬3割の人が、「(他のうつ病の人とは)一緒に仕事しにくい」と考えているらしいことです。

 

つまり、うつ病に対する偏見・誤解の発生源がうつ病の患者さん自身から発生している可能性があるということになります。

 

うつ病の患者さん自身の偏見・誤解が問題になるのは、医療そのものにも向けられがちです。

 

通院中患者の8割以上が、「自分の職場に、うつ病への偏見がある」と答えるそうです。

特に女性は、強い偏見を受ける/偏見を強く感じる傾向があり、配慮が必要そうです。

 

私が複数の企業の嘱託産業医を引き受けている理由の一つは、職場における、こうした問題の解決こそが、うつ病に対するより総合的で抜本的な対策になると考えているからです。

 

実際に、「うつ病の快復の度合い」と「(本人が感じる)職場偏見の度合い」との間には相互関係がある可能性が指摘されていますが、私も同様な印象を持っています。

 

そして、しっかりと治療をして通院を終了できた人に対しては、「職場の偏見」が少なく、またその偏見内容を見ても攻撃的なものが少ない特徴があるようです。

 

「うつ病の人とは一緒に仕事しにくい」理由としては、「気を遣う」ことが最大であるようです。

「気を遣う」という心理は、「気を使わなければならない」という漠然とした強迫的なリスク回避心理が作用しているからだと思います。

また、どのように「気を遣う」べきかがわからないための困惑に由来している可能性もあるでしょう。

これを逆に考えれば、うつ病の患者さん自身も含めても互いに「気を遣う」ということの負担軽減ができれば、「一緒に仕事しにくい」という思い込みが軽減し、うつ病に対する誤解・偏見が徐々にお解除できるようになるのではないでしょうか。

 

他の専門家も指摘していますが、「うつ病」「患者の状況」の理解や「接し方のガイドライン/目安」の認識がされた職場環境を作ることができれば、結果的にうつ病に対する偏見・誤解を減らせるかもしれません。

そうした試みは職場の産業医の大切な仕事であると考えます。

 

また、うつ病の患者さんの診療にあたる臨床医も、うつ病の患者さん自身が抱きやすい病気そのものに対する誤解・偏見や治療に対する誤解・偏見を丁寧にとりほぐしていくことが、効果的な治療、職場へのスムーズな復帰、再発防止に繋がるものであると考えています。