通りすがりの「水戸芸術館」と初訪問の「水戸奏楽堂」No2

 

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先週は、「水戸奏楽堂」へ初訪問した記事ではなく、その帰路に通りすがっただけの「水戸芸術館」の話に紛れ込んでしまいました。
 

今週は、さっそく本題の「水戸奏楽堂」についてのお話です。水戸奏楽堂は、2014年2月に水戸市五軒町にオープンした,最大70席の「演奏者と聴衆が一体となる空間」を提供するサロンコンサートホールとして紹介されています。

 

数年前に、その存在を知ったときから注目していたのですが、10月31日の日曜日にようやく願いがかないました。なぜ、その存在が気になるかというと、「奏楽堂」という名称がもたらす言葉の余韻に魅力を感じるからなのです。

 

 

単に「奏楽堂」と言えば、日本で最初に建てられた本格的な西洋式音楽ホールが想起されます。現在でも、日本近代建築史における歴史的建造物として旧東京音楽学校 奏楽堂の名で上野公園に保存されています。2014年(平成25年)4月から2018年(平成30年)11月まで休館し、保存活用工事が実施されたあと、現在も演奏会やコンクール会場として現役で活躍しているはずです。 
 

私は、休館となる前に、この「奏楽堂」の二階にある舞台で歌ってみたい一心で、奏楽堂日本歌曲コンクールに応募したことがあります。

はじめて入館する奏楽堂の階下で声出しをした直後に、出演者以外の一般人は登ることのできない舞台へと昇り、歴史的建造物の香りに浸り、気分も大いに舞い上がったところまでは良かったのでした。

 

物珍しさで魂が奪われてしまったお上りさんは、歌唱のための最低限度のコンディションも整えず、ピアノ伴奏ともかみ合わないまま本番を歌い始めてしまいました。

 

滝廉太郎作曲『荒城の月』と山田耕筰作曲『野ばら』の2曲だったと記憶していますが、第一次予選の結果はいわずもがなの不合格。

 

とても水準の高いコンクールであるということを後になって知ったのですが、知っていたら応募しなかったと思うので、知らないでいたことによって素晴らしい思い出を作ることができたのは幸いです。

 

ちなみに、令和3年度の奏楽堂日本歌曲コンクールの歌唱部門は、新型コロナ感染の蔓延防止のため中止になったようです。私の二度目の挑戦は、65歳になる前に果たしたいと、性懲りもなく考えています。

 

 

再び脱線してしまいましたが、「水戸奏楽堂」の「演奏者と聴衆が一体となる空間」という紹介メッセージに嘘偽りはありませんでした。

 

もっともサロンコンサートホールであるからといって、直ちに「演奏者と聴衆が一体となる空間」となるとは限らないという先入観はありました。

なぜなら、空間を共有する「演奏者」と「聴衆」とのそれぞれの気質や両者の間の良好な関係性の創出が実現しない限り、建造物だけで「演奏者と聴衆が一体となる空間」は生まれないからです。

 

ですから、「演奏者と聴衆が一体となる空間」を提供するとはどのようなことなのだろうか、ということを直接体験できたのはとても良かったです。
 

 

当日の演奏家はチェロの藤村俊介氏とピアノの三亀聡子氏で、デュオのリサイタルでした。

 

おなじみJ.S.バッハ(1685-1750)の「G線上のアリアからはじまり、

シューベルト(1797-1828)、シューマン(1810-1856)、フォーレ(1845-1924)、マスカーニ(1888-1945)という流れは、そのまま欧州のクラシック音楽史さながら、時間の芸術であるといわれる音楽ですが、ここでは、さらにマクロな歴史的流れをもダイナミックに表現するのでした。

 

フォーレの「夢のあとに」やマスカーニの「カヴァレリア・ルスティカーナ」は声楽家、とりわけテノールにとっては贔屓の曲であり、チェロはさながら歌うような自然な響きであり、表現が繊細で豊かに奏でられていました。

 

まるで、チェロ奏者に歌唱法の極意を教えてもらっているかのような感覚を覚えました。そこで、私はこの二曲を是非とも改めて自分のレパートリーとして確保したいと考え、さっそく稽古をはじめた次第なのでした。

 

 

演奏の合間に、藤村さんから、稽古や本番に関するいろいろな音楽のお話をうかがうことができました。こうしたお話をするには「水戸奏楽堂」のコンサートサロンはうってつけであることが理解できました。ポッパー(1843-1913)について、チェロを習う方にとって欠かせない教則本を残した方であるということを知ることができました。しかも、ポッパーのエチュード40番には卒業がなく、生涯にわたってトレーニングすべき課題であるということを伺って深く納得しました。

 

これは声楽家にとってのコンコーネ50番に通じるものがあります。生涯にわたってコンコーネ50番を続けている声楽家はそれほど多くはないようですが、レッスン生を稽古する機会のある方は、生徒と一緒に復習することを積極的に試みている超一流で賢明な方もいらしゃるようです。

 

水戸奏楽堂にはシンプルなオフィシャルサイトがあります。

 

シンプルさが品格を感じさせる中で、運営会社は株式会社 MCM 水戸奏楽堂、その代表者が渡邉 智子という方であることが紹介されています。ただ、それだけなので、かえってミステリアスな魅力が増し加わります。


水戸奏楽堂のコンセプトについて公式サイトに紹介されている

 

-チェンバロ製作家の久保田 彰氏のメッセージ「水戸奏楽堂によせて」

 

が素晴らしいです。