複雑性PTSDとは、感情などの調整困難を伴う心的外傷後ストレス障害(PTSD)です。組織的暴力、家庭内殴打や児童虐待など長期反復的なトラウマ体験の後にしばしば見られるとされます。
Q4.
複雑性PTSDの治療は難しくないのですか?
A4.
いろいろな意味で、とても難しそうです。
複雑性PTSDの治療法として、STAIR/NST療法があり、効果が実証されてきています。
これは、STAIR(感情調整と対人関係調整スキルトレーニング)とNST(ナラティブ・ストーリー・テリング)の二つの要素から構成されています。
この治療法の特徴の一つは、段階的な治療構造であり、患者が無理なく一歩ずつトラウマからの解放へと進んでいけるよう支援していきます。その際に、過去に焦点を当てた介入と現在に焦点を当てた介入とのバランスを保ち、現在や未来に希望があることを認識できるようサポートします。
16セッションにも及ぶので、時間も手間もコストもかかります。経験症例数が少ないため、私にもまだ治療の自信はありません。
具体的なセッションとしては、 最初のセッション(希望の共有)では、治療者の第一の役割は、患者の希望を維持し、強化します。患者の話に丁寧に耳を傾け、患者の症状や生活状況に対する正確かつ共感的な理解を示していきます。
それによって患者は理解してもらえた感覚を得て、変化が可能だと信じることができるようになります。また、目標達成のための治療計画を提案し、その目標に向けて協同で取り組んで行くことを確認します。。
その後は、
セッション2(感情への気づき):患者が自身の感情に気づき、言葉で表現できるようサポートする。
セッション3(感情の調整):身体・認知・行動の3つの領域からの感情調整のスキルについて話し合い、その上で適応的な感情調整スキルを確認し、前向きな感情を取り入れられるようサポートする。
セッション4(感情との関わり):感情と関わりながら実感を持って生きるためのワークを行う。苦痛な感情に対する適切な対処方法について話し合い、適切な方法で苦痛な感情に対処できるようサポートする。
セッション5(対人関係パターンの理解):トラウマ体験が対人関係のパターンにどのように影響するか説明するとともに、現在の周りの人に対する考え方や、関係性について協同で振り返っていく。
セッション6(対人関係パターンの変更):心地よい関わり方を身につけられるよう、周りの人に対する考え方や関係性の築き方について、今後を見据えて協同で模索していく。
セッション7(効果的なコミュニケーションと自己主張):適切な自己主張ができる状態(アサーティブ)でいられることについて、心理教育を行うとともに、患者がそのために必要なスキルを身につけられるようサポートする。ここでもロールプレイを行い、スキルの定着を支援する。
セッション8(人間関係における柔軟性):様々な関係性に柔軟に対応し適度な距離感を保った付き合い方ができるよう、そのためのスキル形成を支援する。
セッション9(NSTの紹介):後半(セッション9~16)で行われる、NST(ナラティブ・ストーリー・テリング)の紹介を行う。
セッション10~15(トラウマナラティブ):患者がトラウマ体験やそれに伴う感情を語る際、治療者は丁寧に耳を傾け、温かく受け止めていく。同時に、患者のありのままを肯定し自己肯定感を育むとともに、患者の中に存在する価値や強みを見出し自尊心の回復をサポートしていく。
セッション16(振り返りと今後に向けて):最終セッションにて、患者の治療への取り組みを振り返り、ここまで取り組んでくることができた患者の強さと勇気を認めていく。また、治療を通して改善したことに焦点を当て、自身のポジティブな変化に気づくことができるようサポートする。加えて、今後の計画や留意点等について協同で確認する。
・・・・・・・・・・・・
最後に:複雑性PTSDの治療法として、STAIR/NST療法の概略をご紹介いたしました。私自身は、現在、複雑性PTSDの新規の診療は受け付けておりませんが、これらの技法は、単純性PTSDその他のストレス性の病気の治療にも有効です。
また診察室の中でよりも、水氣道®の稽古の中で応用しています。水氣道は、身体運動と共に、より自然な形で、これらのセッションのスキルを活かすことができるからです。この事実に気づいてからは、全人的健康法としての水氣道の意義と役割を、少しでも多くの皆様にお伝えし、生涯を通して発展させていきたいと、今までにも増して真摯に考えております。
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