こころの健康(身心医学):複雑性PTSDに関する様々なご質問に答えて(No3)

 

前回はこちら



複雑性PTSDとは、感情などの調整困難を伴う心的外傷後ストレス障害(PTSD)です。組織的暴力、家庭内殴打や児童虐待など長期反復的なトラウマ体験の後にしばしば見られるとされます。

 

Q3.

複雑性PTSDの方のために、「周囲が肯定的に対応し、成り行きを優しく見守っていていけば、速やかに回復する」というのは本当ですか?

 

A3.

どなたの御意見かは存じ上げませんが、残念ながら、回復までには、かなりの時間が掛かるものと見込まれます。

 

外傷的解離により自我から分離した体験は、自我の認知処理能力を超えた情報であり、象徴化されない原情報のまま保存されます。自我は分離し、複数の自己状態が作り出され個々に組織化されます。そして、やがて互いに異なった思考、記憶、感情、行動を持ち、それぞれ別々に麻痺と侵入の機能により意識に上るようになります。

 

その際、それらの分離した自己状態は侵入的印象、暴力的再演、極度の悪夢、不安反応、心気的症状、極限的身体感覚等を与えることになって、まるで悪魔に憑りつかれているかのような自己の存在を示します。

 

その状況は心理的外傷を生み出す圧倒的状況が過ぎた後も保持され、自己の本来的な感情、記憶、危機意識を麻痺させ現実検討能力の全般的低下をもたらします。

また、解離の働きが不完全な場合、保障行為としての解離的適応行動としての一時的防衛の一つとして嗜癖行動等をきたします。

 

さらに解離の働きが不完全となりそれらの防衛が突破されると、性的強迫観念に基づく不特定多数との性行為など危険な行動を起こすことがあります。

 

私自身も、かつてこのような状態になった既婚の女性の患者さんの紹介を受け、及ばずながら対応した経験があります。

しかし、一人の医師のみでは、とうてい手におえる状態ではないことを思い知りました。配偶者の方が、愛情に満ちていて、特別に寛容な方であり続けない限り、婚姻関係の継続は難しいのではないか、というケースでした。