新型コロナ感染症と免疫栄養療法(その4)

 

前回はこちら

 

<亜鉛による免疫栄養療法における注意点>

  
亜鉛として成人50 ~ 100mg/日,小児1 ~ 3mg/kg/日または体重20kg未満で25mg/日,体重20kg 以上で50mg/日を分2で食後に経口投与する.症状や血清亜鉛値を参考に投与量を増減する.


亜鉛投与による有害事象として,消化器症状(嘔気,腹痛),血清膵酵素(アミラーゼ,リパーゼ)上昇, 銅欠乏による貧血・白血球減少,鉄欠乏性貧血が報告されている.血清膵酵素上昇は特に問題がなく,経過観察でよい.

 

亜鉛投与中は,定期的(数か月に1回程度)に血清亜鉛,銅,鉄を測定する.
血清亜鉛値が250µg/dL以上になれば,減量する.

 

また,銅欠乏や鉄欠乏が見られた場合は,亜鉛投与量の減量や中止,または銅や鉄の補充を行う

 

 


これまでの亜鉛を投与した研究に関する系統的レビュー/メタ解析によると、
  

- 成人における風邪の罹病期間が33%短縮、
  

- 小児5,193 人では肺炎の罹患率が13%低下、
  

- 成人2,216 人での重度の肺炎の死亡率が低下

 

といった亜鉛の効果が見出されました4)。

 

 
さて、肥満や糖尿病、高齢者などは、COVID-19の高リスク群です。

これらの人々では、亜鉛が低値であることがわかっています。またこれらの疾患で服用される薬剤で亜鉛が低下することもわかっています。具体的には、降圧利尿剤、ACE阻害剤、ARBなどの高血圧治療薬、スタチン剤などです。

 

亜鉛不足はCOVID-19 感染の予後が悪くなること、重症化することなどが報告されています4)。

 

それではCOVID-19感染に対する亜鉛投与の有効性はどうでしょうか?
 

亜鉛の単独投与では細胞内の濃度を上昇させるのが難しく、亜鉛イオノフォアの併用投与が必要ですが、米国では、亜鉛+イオノフォアの投与により、COVID-19患者の院内死亡率が24%低下したという報告もあります4)。

 

ただ、亜鉛の単独投与ではもちろん死亡率改善効果はなく、他の薬剤との併用投与で効果が認められていました。現在、亜鉛単独投与ではなく、ビタミンCやビタミンDとの併用投与によるランダム化比較試験が進行中です。

 

亜鉛サプリメントは、適切な摂取量であれば、高い安全性が示されています。免疫能の維持など保健機能のための一般的な亜鉛サプリメントの摂取目安量は、1日あたり10mg~20mg前後です。症状の改善を目的とした場合、予防よりも多い量を数日間、摂取します。

 

例えば、風邪に対する亜鉛の有用性を検証した臨床試験では、亜鉛を1日あたり80mgの用量で、数日間の投与が行われています4)。

 

本邦でも、亜鉛の摂取不足が示されており、特に、COVID-19の高リスク群である肥満や糖尿病などの生活習慣病有病者で顕著です。さらに、亜鉛の免疫調節作用や抗ウイルス作用は確立しており、積極的に摂取する必要があります。亜鉛は牡蠣などの魚介類に多く含まれる他、サプリメントや医薬品からも摂取することができます。

 

しかし、亜鉛のみを補うと銅の吸収が阻害されて銅欠乏症になる可能性があるため、亜鉛をサプリメントや医薬品から補う場合は併せて銅をはじめとした他のミネラルと一緒に摂ることをおすすめします。

 

ただ、市販のサプリメントなど我流で亜鉛を摂取しすぎると銅や鉄が低下することがあります。ですから、医療機関で定期的に血液検査をして医学的にモニターするなどして管理しておく必要があります。

 

参考文献
1)ミネラルの事典.糸川嘉則編.朝倉書店 2003
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と栄養・睡眠・運動


2)東口 髙志ら:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療と予防に関する栄養学的提言 . 日本臨床栄養代謝学会 2020 ; 2 ; 84 – 94 .

 

3)ビタミン D が不⾜すると新型コロナウイルス感染症が重症になる

 

4)蒲原 聖可:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防および治療に関する亜鉛の臨床エビデンス . 医と食 2021 ; 13 ; 51 – 59 .

 

5)医療法人信岡会 菊池中央病院2019、亜鉛と感染症