新型コロナウイルス感染症 診療の手引き「第5.1版」


COVID-19診療手引き(最新版)、デルタ株や後遺症など追記/厚労省


 
 

厚生労働省は、「新型コロナウイルス感染症 診療の手引き」について、最新の知見を踏まえて更新した「第5.1版」を作成し、6月5日付で都道府県などに周知しました。


最新版では、懸念される変異株の概要を更新し、インドで最初に検出された「デルタ株」について、推定される感染性や重篤度、ワクチンへの影響などが詳しく記載されました。


また、症状の遷延(いわゆる後遺症)について、日本国内の複数の調査(厚生労働科学特別研究事業)の中間集計報告が追記されています。
 

 

診療の手引き・第5.1版の主な改訂ポイントを以下に紹介します。

 

1【病原体・疫学】

・変異株について更新、WHOの意向を受けて、感染・伝播性が懸念される変異株(VOC:Variants of Concern)の呼称にギリシャ文字を使用

 

・主要な変異株(VOC)の概要を更新し、B.1.617.2系統の変異株(デルタ株)をVOCとして追加


・国内発生状況を更新 →2021年6月29日までのデータを追記

 

 

 

2【臨床像】

・重症化マーカーとしてTARC(CCL17)低値を追加

 

・症状の遷延(いわゆる後遺症)について:

 

厚生労働科学特別研究事業の中間集計報告を追加⇒

日本国内の複数の調査(厚生労働科学特別研究事業)では、中等症以上の患者512名において、退院後3カ月の時点で肺機能低下(特に肺拡散能)が遷延していた。

 

また、 軽症者を含む525名において、診断後6カ月の時点で約80%は罹患前の健康状態に戻ったと自覚していたが一部の症状が遷延すると、生活の質の低下,不安や抑うつ,睡眠障害の傾向が強まることがわかった。

 

嗅覚・味覚障害を認めた119名において、退院後1カ月までの改善率は嗅覚障害60%、味覚障害84%であった。

 

(第39回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料2021.6.16)

 

 

 

<杉並国際クリニックからのコメント>

 

『診断後6カ月の時点で約80%は罹患前の健康状態に戻ったと自覚していた』、また『嗅覚・味覚障を認めた119名において、退院後1カ月までの改善率は嗅覚障害60%、味覚障害84%であった』と記載されています。

これは、『診断後6カ月の時点で約20%は罹患前の健康状態に戻らなかった』こと、そして『退院後1カ月までに改善しなかった方の率は嗅覚障害40%,味覚障害16%であった』ことを意味します。

 

なお、この手引きには、これまでも感染者の後遺症についての報告はありましたが、ワクチン接種後の副反応との比較についての言及はありません。

 

生活の質の低下、不安や抑うつ,睡眠障害の傾向については、ワクチン接種後の患者さんの訴えとも共通する症状のように観察されます。

 

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3【症例定義・診断・届出】

 

・病原体診断について更新

 

 

 

4【重症度分類とマネジメント】

 

・ECMO、血液浄化療法について更新

 

・ワクチン接種後に生じる血小板減少症を伴う血栓症(TTS)について追加(参考)

 

⇒【参考】ワクチン接種後に生じる血小板減少症を伴う血栓症

(TTS : thrombosis with thrombocytopenia syndrome)
アデノウイルスベクターSARS−CoV2ワクチン (アストラゼネカ製, ヤンセン製)の接種後(4~28日)、 きわめてまれ(10万人接種あたり1〜11名)に重篤な血栓症の発生が報告されている、女性に多く(約80%)、脳静脈や内臓静脈などに血栓が生じることが特徴である。

 

血液検査では血小板減少, Dダイマー高値,抗血小板第4因子抗体(ELISA)陽性(国内未承認)を認める。このため、血小板減少症を伴う血栓(TTS)と記載されることが多いが、本症の医学的な名称は統一されていない。

 

自己免疫性ヘパリン起因性血小板減少症との類似が指摘されている一方、ヘパリン類は使用を避けることが望ましく、 アルガトロバン、直接作用型経口抗凝固薬(適応外使用)などの使用が想定される。

詳細は日本脳卒中学会・日本血栓止血学会『アストラゼネカ社COVID-19ワクチン接種後の血小板減少症を伴う血栓症診断と治療の手引き第2版(2021.6)を参照すること。

 


 <杉並国際クリニックからのコメント>


重篤な血栓症が10万人接種あたり1〜11名発生するとした場合、仮に日本人の50%がこのワクチンを接種したと仮定した場合:


日本の人口を1憶5千200万人(152×10万人)とすれば、

 

152×0.5×(1~11)=76~836人


これは重篤な方のみの予測値ですので、「きわめてまれ」とはいえ、中等症や軽症を含めれば「まれ」であるとは言い難いのではないかと考えることも可能でしょう。

しかも血栓症は中等症であっても、生命予後や生活の質(QOL)に大きな影響を与える病態であることにも注意を要します。

 

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・患者急増の際の入院優先度判断の考え方について追加(参考)

 

5【薬物療法】

・有効性を認めなかった薬剤に蛋白分解酵素阻害薬カモスタット(フォイパン®)を追加

 

・抗インフルエンザウイルス薬ファビピラビル(アビガン®)を妊娠する可能性のある婦人に投与する場合の注意喚起を更新

 

・蛋白分解酵素阻害薬ナファモスタット吸入薬(フサン®)の開発中止について記載

 

・企業治験中のAT-527(ポリメラーゼ阻害薬)、GSK3196165IV(抗GM-CSF抗体)、GSK4182136(モノクローナル抗体)、REGN-COV2(中和抗体薬)を追加

 

 

6【院内感染対策】

・環境整備について更新

 

 

7【退院基準・解除基準】

・期間計算のイメージ図を更新

 

参考文献・参考サイト:

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 第5.1版