『抜毛症の患者さん』を支援する、第6回:標準的治療法の限界と薬物療法による補助

 

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杉並国際クリニック版 抜毛症診療マニュアル
(令和3年3月9日初版)

 

第6回:標準的治療法の限界と薬物療法による補助

 

標準的治療法(行動療法:習慣逆転法)の限界と問題点

 

習慣逆転法の問題点:

1) そもそもの限界と問題点は、癖は無意識に行われることにあります。

 

2) 習慣逆転法をはじめるには、自分が癖をしていることに気づく必要があ 
ります。しかし、気付きを得ることが困難なため習慣逆転法を始めることを難しくしています。

 

3) そのため、癖をしていると指摘してくれる人が必要となってきます。

 

4) しかし、協力者がずっとあなたを監視することは困難です。

 

5) 協力者なしで習慣逆転法を行ったとすると本当は癖行為をしているの 
に気づかない場面が多くみられると考えられます。

 

6) その分、治療機会を失うため、治療効率が落ちてしまうことになりがち  
です。

 

個別の病態に応じた補助的療法としての薬物療法

 

抜毛症の治療には、抜毛症の初期であればSSRIなどの抗うつ薬が有効とされる報告も多く、患者の皆様お一人お一人の状況に応じて、行動療法や精神療法などの働きかけも併せた治療も大切です。

 

 皮膚の自覚症状を伴う場合:

皮膚に対する、抗ヒスタミン薬やステロイド薬も症状緩和としても有効となる場合があります。

 

 強迫症を背景とする場合:

SSRIの単独投与から開始します。我が国で強迫症に適応がある薬物は、フルボキサミン(ルボックス®・デプロメール®)とパロキセチン(パキシル®)の2剤です。

 

• 薬の量と期間については、うつ病に用いるよりも、より高用量でより長期間の投与が必要です。

 

• 効果が十分でない場合には、SSRIの種類の変更、強力なセロトニン作動性の効果を有する三環系抗うつ薬であるクロミプラミン(アナフラニール®)への変更、増強療法を行います。

 

• 我が国では強迫症に対する保険適応がない薬剤であっても、すべてのSSRI、SNRIのベンラファキシン(イフェクサー®)、三環系のクロミプラミン(アナフラニール®)が強迫症に有効であると言われています。

 

• SSRIのエスシタロプラム(レクサプロ®)と三環系のクロミプラミン(アナフラニール®)を用いる場合には、心電図検査でQT延長という所見が現れていないかのチェックが必要です。

 

• 増強療法としては、SSRIに少量のクロミプラミン(アナフラニール®)を加える方法と、抗精神病薬を加える方法があります。

 

• 増強療法に用いる抗精神病薬としては、リスペリドン(リスパダール®)、ハロペリドール(セレネース®)、ピモジド(オーラップ®)の有効性が高いとされています。なお、オーラップ®はQT延長に特に注意が必要な薬剤です。また併用にも注意が必要で、パロキセチン、フルボキサミン、セルトラリン、エスシタロプラムとは併用禁忌となっています。

 

 うつ病または不安症群が併存する場合:

SSRIまたはクロミプラミン(アナフラニール®)が特に有用となります。

当クリニックでは、重症度に応じてアナフラニール漸増法を用いることがあります。

例)使用薬剤:

クロミプラミン(アナフラニール®)10㎎錠と25㎎錠を組み合わせて投与量を調整

 

・軽症:10~50㎎、10㎎⇒20㎎⇒25㎎⇒30㎎⇒35㎎⇒40㎎⇒45㎎⇒50㎎

 

・中等症:50~75㎎、50㎎⇒55㎎⇒60㎎⇒65㎎⇒70㎎⇒75㎎

 

・重症:75~100㎎、75㎎⇒80㎎⇒85㎎⇒90㎎⇒95㎎⇒100㎎

 

 

 抜毛行為については、デシプラミン(ノルアドレナリンの再取り込みを阻害する三環系抗うつ薬)よりもクロミプラミン(アナフラニール®)の方が効果的なようです。またオランザピン(ジプレキサ®2.5㎎⇒5㎎⇒7.5㎎⇒10㎎と漸増)も役立つことがあります。さらにN-アセチルシステイン(グルタミン酸受容体部分作動薬)が効果的であることを示唆するエビデンスもあります。なお、低用量のドパミン受容体遮断薬(ガナトン®)が効果的であるとした限定的なエビデンスもあるが、リスク-ベネフィット比を注意深く評価する必要があり、そのため、当クリニックでは、ガナトン®50㎎錠、1日1回帰宅直後投与から開始することがあります。