B型肝炎訴訟と給付金(No5)

 

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セカンド・オピニョン例

 

70代男性。母親が集団予防接種によってB型肝炎ウイルスに感染後、肝硬変による肝がんにて死亡したと推定されている。すでに兄弟が原告として手続きを開始した関係で、自分もHBV感染者であることを証明する検査を受けたところ、HBs抗原陰性、HBe抗体低力価陽性であった。そこで「自分も二次感染者として補償を受けられないか」との相談について。

 

給付金等の支給を受けるための条件として、集団予防接種等とB型肝炎ウイルス感染との因果関係を主張するケースが主となります。そのためには、原告が母子感染ではないということを立証する必要があります。

 

本件訴訟における国の責任期間は、「予防接種法」の施行日である昭和23年7月1日から、注射の1人ごとの取り替えを指導した昭和63年1月27日までの期間とされています。また、平成18年最高裁判決において、B型肝炎ウイルスに感染したのち、持続感染化するのは、免疫機能が未発達な幼少期(遅くとも6歳ころまで)に感染した場合であるとされました。このため、満7歳の誕生日の前日までの間での集団予防接種歴が必要です。

 

2011年6月28日「B型肝炎訴訟の和解」が成立したことに基づき、不適切な集団予防接種等によってB型肝炎ウイルスに感染した患者に対する給付金支援が行われていることについては、今週のシリーズで既にご説明した通りです。

 

肝疾患診療連携拠点病院、肝疾患専門医療機関、および、がん診療連携拠点病院(肝がん、死亡の場合のみ)の医師は「B型肝炎ウイルス持続感染者の病態に係る診断書」の作成を求められることがあります。杉並国際クリニックは、その対象外ではありますが、むしろセカンドオピニョンを求められ、肝臓専門医に対して疑義を唱えることはしばしばあります。

 

対象として一次感染者に加えて、集団予防接種等による二次感染者も救済対象となります。それを証明するための最も確実な証拠は何か、ということが大切です。

 

母親がB型肝硬変、かつ兄弟姉妹にHBV感染者が少なくとも一人いることは母子感染の関与を示唆する事象です。しかし、これは最も確実な証拠とは言えません。

 

母子感染の場合、遺伝子型(ゲノタイプ;ジェノタイプ)が同一であることが必要条件です。ジェノタイプ検査は、成人期の感染ではないことを証明するために必要な検査でもあります。しかし、これだけで十分な条件とするには根拠が弱いと考えられます。さらに母親と本人のHBV分子系統解析結果が一致することは、母子感染を証明する極めて確実な証拠となります。ただし、本検査は、肝臓病専門医療機関であっても、検査会社へ委託して実施しています。検査費用は保険給付対象外であるため、原告が立て替え払いをする必要があります。後日和解が成立した場合には、給付金等と併せて支払基金から検査費用として6万3千円が支給されます。

 

ついで、給付金額決定のためには、病態診断が必要であることも、すでに説明した通りです。具体的には、無症候キャリアなのか、B型肝炎の持続感染があるのか、肝硬変、肝がんなど重症度にしたがって、給付額が異なってきます。