B型肝炎訴訟と給付金(No4)

 

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B型肝炎の母子垂直感染を予防するためには?

 

B型肝炎ウイルス(HBV)の母子感染経路には、出世前の胎内感染、出生時の経産道感染、出生後の母乳などを介する感染が挙げられます。この中で大半を占めるのが経産道感染です。ですから、母子感染防止は、経産道感染を主とした母子垂直感染の防止が目的となります。なお、B型肝炎母子感染防止は1992年にWHOが推奨し、勧告している方法(universal vaccination)がありますが、わが国では導入されていません。

 

妊婦のHBVの遺伝子型(ジェノタイプ)は、一般の日本人と同様にジェノタイプCが最多です。

 

母子感染防止では、HBs抗原陽性の妊婦全員が対象になります。HBs抗体は胎盤を通過しないのに対して、HBe抗原は通過します。そして感染とその後の経過には、妊婦のHBe抗原・抗体系の状態が関連します。

 

免疫機能が未熟な乳幼児、透析患者さん、免疫抑制剤を使用している方などがB型肝炎ウイルスに感染すると、免疫機能がウイルスを異物と認識できないため肝炎を発症しないことがあり、ウイルスが排除されず、ウイルスを体内に保有した状態< 持続感染 >になります。 このように、ウイルスを体内に保有している方を “ キャリア ”と呼びます。

 

HBe抗原陽性の妊婦では、予防措置を行わない場合に児がHBVキャリアになる頻度は85~90%になります。これに対して、HBe抗体陽性の妊婦でキャリアになることはほとんどありません。しかしながら、この場合でも、6~8%の児は生後2~3カ月で一過性にHBs抗原陽性となり、感染が成立します。

 

なお、成人は免疫機能が確立しているため、B型肝炎ウイルス(HBV) に感染しても、多くの場合は 不顕性感染で自然に治癒します。 ただし、一部の方では、 急性肝炎を発症し、一過性の感染を経て治癒します。どちらの場合も、 ウイルス は体から排除されており、HBVに対する免疫を獲得しています(しかし最近の研究で、健康上の問題はないもののごく微量のHBVが肝臓に存在し続けることが明らかになってきました)。

幸いなことに、わが国で最も多いジェノタイプCではジェノタイプBと同様にHBVの一過性感染により発症する急性肝炎では、キャリア化することはあまりありません。しかし、近年報告が増えているジェノタイプAのHBVに感染した場合、キャリア化する可能性が高くなります。

 

キャリアの方の約90%は一般的に、無症候期から肝炎期、肝炎沈静期と移行し、その後、無症候性キャリアのまま生涯を経過します。しかし、約10%の方は 慢性肝炎を発症し、 肝硬変、肝細胞がんへと進展する危険性があるとされています。 慢性肝炎になると、免疫によって攻撃された肝細胞は死滅しますが、肝細胞は再生能力が旺盛なため再生してきます。長年にわたり肝細胞の死滅と再生が繰り返されますが、細胞の再生が間に合わない場合、死滅した肝細胞の部分に、星細胞が線維を作り肝臓が形を保持するのを助けようとします。この線維が増えてしまうと、肝臓は硬くなりゴツゴツとした外見の臓器となります。この状態が肝硬変です。

 

肝硬変になると、肝細胞の多くが破壊され、血液の循環が悪くなるため、肝臓は本来の機能が果たせなくなります。そして長い年月の炎症により、肝がんを発症すると考えられています。

 

このようなことから妊婦のHBe抗原・抗体系の状態によって、母子感染予防プログラムに若干の違いが設定されています。

 

妊婦がHBe抗原陽性の場合は、児には出生直後と産後2カ月で、抗HBsヒト免疫グロブリン(HBIG)を投与し、産後も2,3,5カ月にHBワクチンを投与します。
一方、HBe抗体陽性の場合には、産後2カ月でのHBIG投与を省略することができます。

 

母子感染防止におけるHBワクチンの接種には、健康保険は適応されますが、被接種者および医師の責任と判断によって、任意に行なわれています。近年、母子感染予防対策が順調に進行し、若年のHBVキャリア数が減少し、キャリアの妊婦からの出生数が減少するとともに、母子感染予防の経験を持つ医師が少なくなってきていることが指摘されています。そのため、予防対策の重要性を再度確認しておくことが必要です。

 

なお、HBVキャリアの母親であっても、母子感染予防が適切に行われている限りは授乳を制限する必要はありません。