<コロナ蔓延下での実母入院騒動の顛末記>No5

 

 

前回はこちら

 

 

渡された文書情報(入院診療計画書)では、以下の通りでした。

 

病状(入院目的):意識障害振戦

 

病名(病態):非痙攣性てんかん重積

 

治療計画:抗てんかん薬による治療を行い意識が改善したら退院となります。

 

安静度・リハビリ:意識が改善するまではベッド上安静です。意識が改善したら安静度を拡大致します。

 

食事:絶食です。医師の指示が出ましたら病院食を提供します。

 

退院日:数日~1週間程度(頃予定)

 

 

コメント

てんかん発作がおきても通常は数分間で自然に消退します。しかし、発作が異常に長引いたり、いったん発作が終わっても意識が戻らないうちにまた繰り返したりする場合は、てんかん重積状態といいます。てんかん重積状態とは、国際抗てんかん連盟(ILAE)が1981年に作成した分類によると,「けいれん発作が30分以上続くか、または、短い発作でも反復し、その間の意識の回復がないまま30分以上続く状態」と定義されています。

 

ここで、「非痙攣性てんかん重積」と「痙攣性てんかん重積」との鑑別のポイントをまとめてみました。両者の鑑別が患者の救命のために重要であることがわかります。

 

 

非けいれん性てんかん重積状態(病院の診断)

 

症状

脳波検査では「てんかん発作性異常」が確認できたにもかかわらず、「けいれん発作を伴うことなく(非痙攣性)」意識障害が持続し、急性・遷延性(長時間にわたる)昏睡状態を示す状態を意味します。

 

これは、複雑部分発作あるいは欠神発作が長引いた状態ともいえます。非けいれん性てんかん重積状態の場合は、いつから始まったのか明らかでないものが多くみられます。その症状は多様で、凝視、繰り返す瞬目、さまざまな神経心理学的障害や認知・行動障害(失語や健忘など)・意識障害を呈します。

 

しかし、母のケースでは、明らかに「けいれん発作」が繰り返されていました。事務長(飯嶋園子)がそれを目撃しており、その具体的状況から総合的に判断するならば、「非痙攣性」という病名は妥当ではありません。事務長は、救急隊員にも、担当医師にも伝えたはずなのですが、家族からの貴重な病歴情報は完全に無視されていた模様です。

 

 

原因

小児期以降ではさまざまなてんかん症候群や脳症を原因とする場合や、抗てんかん薬を突然中断した場合にもおこります。脳炎、脳卒中や頭部外傷など、原因は多岐にわたります。

 

 

検査

バイタルサイン(血圧、心拍数、体温、呼吸状態)を確認します。脳波所見は必須です。

 

意識障害をおこしている患者では『非けいれん性てんかん重積』状態を疑って、なるべく早く『脳波検査』を施行します。

 

 

治療

患者の状態により必要であれば酸素投与、気管内挿管を行います。

 

原因疾患を治療し、重篤な意識障害や無呼吸などに迅速に対応します。

 

脳波診断』のうえ、抗てんかん薬による治療を行います。

 

 

 

そして、その後、新たな展開がありました。

 

第8日:1月22日(金)夕刻。

 

入院後、病院から初めての電話連絡。「病名の変更です。なので、入院は2,3日と申し上げておりましたが、数週間となります。こちらは急性期の病院ですので、急性期が過ぎた後は、リハビリ目的の病院に転院していただくことになります。そこは当方で紹介させていただきます。」とのことでした。病名は脳梗塞で、MRI検査で左尾状核等に複数の出血が発見されたとのことでした。

 

入院期間が長引くそうです。

 

独居老人の家を片付けることは本人が居ると「これも捨てないで、あれも必要だから」となってしまいがちです。

 

そこで、兄夫婦に母を旅行に連れていってもらい、その間に私たちが片付けをするという提案もしてみました。ところが、母から「来ないで!」と言われてしまいました。

 

今回、このような突然のエピソードが発生したことによって、「ようやく片付けができる機会が訪れた」と気合いを入れて行きました。

 

そこで、改めて驚くべき発見がいくつもありました。

 

母は(s)病院の先生に、3ヶ月に1回、定期的に受診をしていたのでした。

しかし、一番驚いたことは、その先生が処方してくださった薬をまったく飲まず、

自宅にためこんでいたことです。

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これは、明らかに、のみわすれていたのではなく、薬局から受けとったまま、いっさい手を付けた形跡もなく、そのままの形の薬の入った薬袋が何袋もでてきたのです。

 

 

母は一体、何のために、何を求めて欠かさず定期通院を続けていたのでしょうか?

超人気の院長先生という、いわばホストに通いつめていたのでしょうか?

 

この院長先生は母の血圧が高いことを心配してくださっていたらしく、

「このままだと脳梗塞になってしまいますから気をつけてください」と注意点を記載した

 

 

プリントまで渡してくださっていた模様です。プリントの内容はとても分かりやすく丁寧に書かれています。

 

しかし、目や耳が不自由になりつつあり、しかも、日頃から対人接触の機会が限られている独居の高齢者にとっては、病院で手渡されるチラシは、個人の特性を無視した「十把一絡げの、慇懃無礼な、一方的命令書」のように受け止められかねません。

 

実際にそのプリントの題名が、「脳梗塞を持った方へ」と記載してありました。

 

実物の写しを、ここにお示しいたします。

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想像するに気丈で、しかも人一倍負けん気が強い母は、「脳梗塞なんか持っていないわよ!」と激昂をしていたかのかもしれません。それを裏付けるかのように「」という文字の部分だけが千切り取られていました。

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悲しいとか虚しいとか、残念だとかの感情が呼び起こされることを通り超えて、ただただ呆れるばかりでした。しかし、普段強がってばかりいる母の奥深い寂しさが少しは伝わってきました。多忙であったため、コロナ禍であることをついつい良いことにして、母とのコンタクトの方法を工夫することを怠ってきた私自身の責任と反省もあります。

 

ただ、杉並国際クリニックの患者の皆様の中には、母のようなひどい方は御一人もいらっしゃらないという自信が私共にはあります。それは診察中の問診や行動記録表のチェックや検査データの説明などの折に、個別に確認しているので、服薬状況はその都度確認できているかれです。

 

血圧や尿pHの記録も、診察のたびごとに必ずチェックして、双方で確認することがずっと守られているのですから、私たちは、まじめで勤勉な患者さんに恵まれているということに改めて感謝し、有難く思われるのです。

 

今後、母のような服薬不良者の発生を防止するためにも、杉並国際クリニックでは3ヶ月処方を解禁する予定はありません。

 

それどころか、高齢者の皆様や日々多忙を極めていらっしゃる方の中には、新型コロナ感染リスク回避のためという背景も相まって1か月処方を希望される方も少なくありませんが、なるべくお断りしています。

 

その理由は、杉並国際クリニックでは分科的で断片的な日常診療によって一部の症状のみに焦点を当てて診るのではなく、専門的な総合診療(統合診療)によって患者さんの心身の全体像をも把握する努力を怠っていないからです。

 

毎回対面して、患者さんが普段ご自分で気が付きにくい微妙な変化を敏感にキャッチするためには、受診間隔が2週間を超えると急激に困難になると院長は考えているようです。今回、私は実母の健康管理上の不始末をまざまざと知ることによって、地味ながらもこまめな健康管理が如何に大切であるかを改めて深く認識できたように思われました。

 

<完>

 

 

今週は、週間特集: <コロナ蔓延下での実母入院騒動の顛末記>

 

という思いもかけないタイトルでした。けれども、自分のコラムを、はじめて皆様にお伝えする経験ができました。ですから、たとえささやかでも、皆様のお役に立てるならば幸いです。皆様ありがとうございました。