急性咽頭炎の診断・治療および事後管理に関する問題点と当クリニックの方針
(杉並国際クリニック令和3年初版)その4(全4回)
どの診療指針が正しいかということは、慎重に見定めなければなりません。
私は従来から、いわゆる権威とか権力が発する情報やメッセージに対してはやや懐疑的な立場に立って吟味してきました。ですから教科書に書いてあることは鵜呑みにはできません。
たとえば、医師国家試験の出題問題の正解ですら、年次的に変化し、劇的な変革があったかと思えば、ふたたび元の鞘に収まった、というような事例はたくさんあります。
また、現在世界的に流行している証拠に基づく医療という風潮も、その限界を認識しておかなければ日常臨床における個々の患者さんに対して不利益をもたらすことがあり得ます。
とくに、日常的な急性咽頭炎の診断・治療のあり方の問題においては、様々な価値観が錯綜していることがわかります。そうした価値基準は純粋に科学的な、すなわち医学的な立場に立脚するものばかりではありません。
医療コストをなるべく抑えるべきであるとする行政サイドの価値基準を忖度できることが望ましい臨床医とされているからです。
たしかに、患者さんの経済的負担を増やさないような選択をすることは臨床医にとっては大切な心掛けではあります。
しかし、その結果の責任は事実上、もっぱら主治医にあります。現実の問題として、医療行政による指導や療養担当規則の枠の中での医療を徹底しようとするならば、大きな壁にぶつかることがしばしばあります。
たとえば、保険診療による給付が可能であっても無効な薬剤など山ほどあります。白内障のための点眼薬が効かないことは有名ですが、そればかりではありません。効果がないばかりではなく有害な場合ですらあります。線維筋痛症の治療薬に至っても同じことです。
また、一口に医師といっても、公衆衛生医と臨床医の考え方や行動基準は必ずしも一致しません。
その理由は、公衆衛生医は多くの場合、不特定多数の大衆の健康利益について考える一方、臨床医は、目の前の自分が診ている患者さんの利益を一番に考えるからです。つまり、社会全体の健康価値と特定の個人の健康価値が必ずしも一致するばかりではなく、ときには大きく対立してしまうことがあるということです。
抗菌剤の適切な使用により、耐性菌の発生を防ぐことが重要であるという総論的認識に関しては公衆衛生医と臨床医との間に違いはありません。
しかし、臨床医は、各論的には体質も気質も社会的背景や環境の異なる個性豊かな個人の健康を考ええなければならない立場です。
たとえ社会全体にとっては望ましい医療選択ではあっても、当の本人にとっては著しい損害となる場合があるということを強調しておきたいと思います。
一般に、感染症の診療においては、症状が緩和してからの事後管理を真剣に考慮すべきであると考えています。適切な事後管理の実施のためには、事前の準備が必要です。
たとえ有効性が統計学的有意に高いとされる抗菌薬を使用しても100発100中ということはありません。
したがって、外れた場合の対応を責任もって行えるようにするための準備と配慮が必要になります。
外れた人は不利益を被っても大多数の人々にとって利益となれば可、というような思想は行政や公衆衛生学的な立場からは肯定されても、医療現場の臨床医にとっては言語道断であるということです。
望ましい結果が得られなかった場合、なるべく早く次の手を打つ必要があります。もし、そのための判断材料が準備されていれば、患者さんの不利益は最小限で済みます。
原因菌を調べても、その菌がどの抗菌剤に有効なのかは実のところ完全には予測できません。その場合でも、薬剤感受性試験を事前に行っておけば、後日適切な抗菌剤を選択することができるのです。
事後管理
• 約2週間~1カ月後に尿検査(血尿・蛋白尿)などで腎炎の有無確認。
• 溶連菌感染後の続発症:
① 急性糸球体腎炎が約2%、軽症も併せると20%発症。
② リウマチ熱(心炎、多関節炎など)が約3%発症。
• これらの続発症を予防するため、解熱後もトータル10日間の抗菌薬が必要とされますが、3日間投与で済む抗菌剤を選択したいところです。
• 溶連菌感染症が強く疑われてもマイコプラズマや百日咳が否定できない場合はペニシリン系・セファロスポリン系の抗菌剤ではなく、当然のことながらアジスロマイシン(ジスロマック®)等を第1選択すべきです。実際にマイコプラズマによる急性気管支炎や肺炎に対してジスロマック®を投与すると多くの症例が3日以内に解熱します。
そのことから、3日以上経過しても解熱しない場合には、耐性マイコプラズマの可能性を考慮して、テトラサイクリン系(レダマイシン®)、ニューキノロン系(クラビット®)に変更するが、効果の確証は得られていません。
そこで、杉並国際クリニックにおいては、このような事態に備えて抗菌薬投与の際には、尿検査および細菌培養と薬剤感受性検査はなるべく実施するようにしたいと考えているのです。
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