運動生理学的トレーニング理論の限界と水氣道の可能性No10

 

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水氣道稽古の12の原則(7)反復性の原則(2)

 

身体が動くうちに筋力の維持・向上に努め始めましょう!

 

身体が動くうちに筋力を維持・向上させることが、廃用症候群(生活不活発病)の予防になります。

 

 

つまり、生活に不自由を感じていない、あるいは気づけていないか自分がまだ健康だと考えているうちに予防するスタンスこそが大切です。

 

介護保険料を支払っている以上、必要に応じて介護サービスを受ける権利があるのは当然のこととしても、すべての人が介護サービスを受けるようになって当然であるかのような意識が高まり続けることは、本人にとっても社会にとっても決して幸福なことではないはずです。

 

むしろ、高齢者になっても要介護状態にならないようにする「介護予防」という視点がもっと強調されて、具体的な対策が嵩じられなくてはなりません。

 

杉並国際クリニックは、「介護施設との連携もなければ、在宅医療や往診すらしない、地域住民に寄り添わない医療機関である」という批判は甘んじて受け入れています。

 

高円寺南診療所の30年の業績において、そのような体制を構築できなかったことは紛れもない事実だからです。

しかし、その代わり、あるいは、それ以上のものを創出できたとことを自負しています。

それが20年の実績がある「水氣道」です。要介護者の自然増を前提とする治療や介護志向の医療が主流であるならば、あえて主流に組みせず、逆に、予防や抗老化を志向し要介護者を減らしていけるような健康管理の拠点になろうというのが杉並国際クリニックであると宣言したいと思います。

生涯現役、自宅からの独歩通院を目標とする患者さんを支援する医療機関の取り組みがそろそろ正しく評価されても良いのではないか、と私は考えています。

 

廃用症候群にならないためには、いきなり「寝たきり」にならないことが大切だと強調されますが、これはあまり教育的ではないメッセージだと思います。

なぜなら、相当な高齢者で、しかもサルコペニアでフレイルの状態に近づいている人でも、自分は当分の間「寝たきり」にはならない、と勝手に思い込んでいることが多いからです。

 

しかし、寝たきりにならないためには、自分はまだ「寝たきり」にはならないという根拠に乏しい思い込みを捨てなくてはなりません。

「寝たきり」はある日突然に生じることを予め受け止めておく必要があります。

なぜならば「寝たきり」の原因として、病気やケガがありますが、病気やケガは長い人生において、いつ襲い掛かってくるかもしれないからです。

 

要介護者が増加の一途をたどっている最大の理由は、超高齢化社会という背景があるにせよ、それより大切なことがあると思われます。それは、「寝たきり」は、いつでもすぐに襲ってくるものだという厳しい現実から顔を背け、目を反らしてしまいがちだからです。その結果、有効な対策を立てて実行すべきことを先延ばしにしてしまうことになります。

 

いつ陥ってしまうかわからない「寝たきり」状態に対しては、その直接の原因となる病気やケガに気をつけることはいうまででもありうません。

しかし、過度に用心し過ぎて鍛錬を怠ることによって、かえって病気やケガを招いてしまいかねないことにも注意する必要があります。

 

むしろ、仮に病気やケガになって長期入院などで一時的な寝たきり状態になっても、あきらめたり、ラクを考えたりしないで、なるべく身体を動かし続けることができるように、日頃からの訓練を継続して、万一に備えておくという心構えと週間の確立が大切です。
 

高齢者ばかりでなく、40歳くらいの方の中にも、動かないでいる状態や動かなくても済んでしまう生活が続くと、それが悪しき習慣(悪癖)になってしまい身体を動かすのを嫌がる人もいます。

 

前回説明しましたが、ひとは40歳を超えると少しずつ筋肉量が減少していき、高齢者では猶更です。

ですから健康状態に配慮しながら、高齢者においては杖や車いすなどを使用する機会をできるだけ減らし、非高齢者においても座りっぱなしの生活にならないよう、自分で身体を動かすように工夫することは、廃用症候群を防ぐ方法です。

 

ただし、もし本格的な廃用症候群になった場合は、家族や介護スタッフ、医療関係者が協力してリハビリに努めましょう。高齢者の場合、短期間で回復するわけではありませんが、途中でやめるとそのまま「寝たきり」になってしまいます。

 

リハビリのゴールを設定し、焦らずコツコツ反復・継続して行うことが重要です。

もっとも、独歩で外来通院が可能な方であれば、水氣道に継続的・計画的に参加することによって廃用症候群は確実に予防できるばかりでなく、気力や体力を含め生活の質を向上させることが可能です。

 

 

 

廃用症候群の原因
 

特に高齢者では、知らないうちに進行し、気がついた時、あるいはある朝突然に「起きられない」「歩くことができない」などの状況になってしまうことが少なくありません。
 

過度に安静にしたり、あまり身体を動かさなくなったりすると、筋肉がやせおとろえ、関節の動きが悪くなります。そしてこのことが、さらに筋肉や脳神経の活動性を低下させて悪循環をきたし、ますます全身の身体機能や精神機能に悪影響をもたらします。最悪な状態では、「寝たきり」となってしまうばかりではなく、「認知症」をももたらしてしまうことがあります。

 

 

廃用症候群の診断
 

廃用症候群には決まった医学的検査はありません。動くことができない病気になったり、安静にしている時間が長く、普段できていたことができなくなってしまったりした場合には「廃用性筋萎縮」が考えられます。また、動かせていた関節の動ける範囲が狭くなれば「関節拘縮」と考えられます。廃用症候群は医師だけでなく看護師や介護従事者、家族が見つけることもあります。

 

 

廃用症候群の予防
 

廃用症候群は、治療を必要とする疾患によって安静臥床を余儀なくされている状況で、運動をしないこと、寝ていること、日常生活に支障をきたす手足の位置や関節の角度(不良肢位:ふりょうしい)で長時間を過ごすことにより生じます。
 

たとえば、下肢を骨折して、ベッド上での生活が長くなると、骨折した下肢の筋肉が萎縮したり、関節が拘縮してしまったりするだけでなく、起立性低血圧や、静脈血栓症、誤嚥性肺炎や褥瘡を起こしやすくなります。
 

これらの廃用症候群を予防するために、一般的に言われていることは、「できるだけ寝た状態を存続させないように」ということです。そのために座位時間を増やしたり、ベッド上で上肢や下肢を動かす運動を行ったりします。また、精神心理面では「人とのかかわりが薄れると精神機能の低下をきたすので、言葉をよくかけ、面会をよくするようにしましょう。」とアドバイスすることが多いです。

 

 

新型コロナウイルス感染症対策と廃用症候群
 

新型コロナウイルス感染症の感染が再び拡大する可能性がある状況で、毎日ご不安に感じられている方も少なくないと思われます。特に高齢者の方におかれましては感染予防を心掛けながら健康を維持していくことが大切です。
 

ただし、消極的な感染予防を続けていくことには盲点があります。免疫力の温存・強化を図るためには、養生と鍛錬を続ける必要があるからです。とはいえ、天候に関わらず屋外で安心して継続的に実施できる運動は少ないです。季節や天候に関わらず、あるいは感染症のパンデミックにあっても継続可能なエクササイズとしては自宅で行える体操がお勧めです。

 

お勧めではありますが、それを実行できる人ばかりではありません。それは、ある意味では当然のことです。

なぜならば、前述したように人間は社会的動物(アリストテレス)であって、とくに精神心理面では「人とのかかわりが薄れると精神機能の低下をきたす」ことになるからです。

 

通年性・全天候型で、しかも次亜塩素酸を含んだプールの水、50%以上の湿度など、ウイルスの不活化に効果のあるプール環境での「感染は極めて低い」ことは、生涯エクササイズとしての水氣道の大きな強みであり、安全性が確保された上に、養生と鍛錬を反復して継続できる貴重なエクササイズであるともいえるでしょう。

 

ですから水氣道会員に廃用症候群なし、なのです。

 

 

廃用症候群のケア・治療
 

高齢者が一度廃用症候群になると、元の状態まで改善させることは難しくなります。

つまり廃用症候群は治療よりも予防が重要です。心機能の低下や誤嚥性肺炎は普通の病気と同じように投薬を中心に治療を行います。せん妄の時には精神神経系の薬を使用することもあります。

 

可能であればできるだけ早く元の生活に戻すことが大切です。自宅から入院して廃用症候群になった場合は、入院のきっかけとなった病気が治ったら速やかに自宅に戻ると廃用症候群を防ぐことができます。やむを得ず長期臥床が必要であった場合は、早いうちから病気の治療を妨げない範囲でリハビリを行うことも重要です。しかし、後になればなるほど、効果は限られてきます。