水氣道、運動生理学的トレーニング理論の限界と水氣道の可能性No9

 

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水氣道稽古の12の原則(7)反復性の原則(1)

 

反復性の原則

 

反復性の原則とは、技術や体力に関係なく、トレーニングの効果を得るには、計画的に繰り返し行う必要があるという原則です。

 

その場合、反復して身体に与えられる運動刺激は適切であることが必要です。

これは、毎回のトレーニングにおいて同一の運動動作を一定程度以上繰り返すメニューを確保するということにとどまらず、全体のトレーニングを繰り返し、長い時間かけて規則的に継続して行うことで、効果が高くなるという意味も含んでいます。

そのため、反復性の原則は、「継続性の原則」と呼ばれたり、「反復・継続性の原理」と呼ばれたりすることがあります。

 

つまり運動の効果を得るためには、時間の要素が不可欠であり、繰り返し、規則的に、長期間行うことが大切になります。その理由は、トレーニング刺激による身体の適応(=体力の向上)には時間がかかるため、体力を向上させるにはどうしてもある程度の期間継続する必要があるからです。

 

 

トレーニング初期段階は神経と筋肉を繋げていく時期です。

 

現状で使えていない筋肉を使えるようにする「神経と筋肉の促通時期」が、一般的に4~8週間ほどあります。

その時期は、筋肉量に変化は見られません。実際に筋肉量に変化などが起こるのはこの後になります。

 

水氣道の会員ばかりでなく、杉並国際クリニックにおいて健康管理を続けている皆様にはお馴染みのフィットネス・チェック(体組成・体力検査)を概ね季節ごと(春・夏・秋・冬、3カ月ごと)に実施していることも、このような理由によるものです。

 

 

「反復性の原則」の本質から外れたトレーニングの影響

 

トレーニングは1回頑張ったからと言って、すぐに効果が現れるものではありません。

また、一定以上の期間を継続して行わないと筋肉は減っていってしまうため、1回やっただけ、短い期間だけ、では効果はでません。トレーニングの効果は長期間のトレーニングによって、初めて目に見える大きな効果を期待することができるので、いかに優れた施設や指導者、トレーニングメニューやプログラムがあったとしても継続しなければ効果は表れません。

 

ですから、「反復性の原則」とは、「トレーニングの効果を得るためには定期的・継続的なトレーニング実施が必要。どんなに優れたトレーニングでも数回だけのトレーニングや極端に少ない頻度でのトレーニングなどでは効果は得られない」といった意味です。

 

「可逆性の原理」のところで改めて説明しますが、短期間のトレーニングで鍛えた身体は、運動を辞めてしまうと短い時間で元に戻ってしまいます。

逆に長い時間をかけてトレーニングを行った場合、筋肉や神経がゆっくりと成長、身体の中で定着するため、少しトレーニングを休んだだけでは、一期に元に戻ることがありません。そのためにも、トレーニングは継続して行うことが必要になります。
 

たとえば絶対安静の状態で筋肉の伸び縮みが行われないと、1週間で10~15%の筋力低下が起こると言われています。高齢者では2週間の床上安静でさえ下肢の筋肉が2割も萎縮するともいわれています。

 

また病気やケガのない一般人でも40歳を境に人の筋肉量は減少していきます。そして、高齢になるにつれて筋肉量は減少していき、単純に筋肉量が減少していけば運動機能の低下が起こるため、しらずしらずのうちに人は動かなくなっていきます。日常生活で動く機会が減ってきてしまうと生活不活発病という、いわゆる「廃用症候群」が起こってしまいます。
 

これは、トレーニング効果が消失する以前に加齢に伴う筋肉の減少、又は老化に伴う筋肉量の減少(以下、サルコペニア)も注目されています。

この病態は栄養障害、虚弱(以下、フレイル)とも関連が強く、転倒予防や介護予防の観点からも重要です。フレイルとは、高齢者の身体機能や認知機能の低下を表し、「虚弱な状態」を意味します。日本老年医学会が2014年に提唱した概念であり、介護業界では要介護の予備軍として非常に注目を浴びています。

 

運動機能低下に加えてうつ病や認知症などの「認知機能の低下」、寝たきり・閉じこもりなどの要素が加わることでフレイルが加速していきます。また、この状態には低栄養の関連性が強いと厚生労働省も発表しています。
 

こうしたサルコペニアやフレイルは高齢者の身体機能障害のリスク因子、転倒リスク因子として注目されています。

また、これらは同時に「ロコモティブシンドローム」(運動器症候群、通称「ロコモ」)をもたらしてしまいます。ロコモは「足腰の衰えなどが原因で、日常生活に支障を来している状態」のことを指し、原因には主に「加齢による衰え」や「筋肉・関節・骨など運動器自体の病気やケガ」が挙げられます。これは高齢化社会を迎え、国が「メタボリックシンドローム」(メタボ)の次に国民に浸透させようとしている言葉です。
 

ただし、「サルコペニア」、「ロコモ」や「メタボ」などの概念は主に身体的側面を捉えた概念であるため、心身の両側面をとらえる「フレイル」や「廃用症候群」(生活不活発病)とは異なる次元の概念であると言えます。

 

廃用症候群とは、病気やケガなどの治療のため、長期間にわたって安静状態を継続することにより、身体能力の大幅な低下や精神状態に悪影響をもたらす症状のことをいいます。

廃用症候群では、さらに、気分的な落ち込みが顕著に現れてうつ状態になったり、前向きに取り組むやる気が減退したりと、精神的な機能低下も見られます。意欲低下などの精神的な機能低下により、身体活動の継続が阻害され、ますます「廃用症候群」が進行してしまうという悪循環に陥ってしまうことになります。

 

 

反復性の原則は「廃用症候群」予防トレーニングの鉄則

 

廃用症候群(生活不活病)とは過度に安静にすることや、活動性が低下したことによる身体に生じた様々な状態をさします。この状態は、反復性の原則を無視することによってもたらされる心身の状態であるということができます。
 

トレーニングを中断したままベッドで長期に安静にした場合には、生理的な変化として以下の「廃用症候群の症状の種類」に示すような症状が起こり得ます。病気になれば、安静にして、寝ていることがごく自然な行動ですが、それを長く続けると、心身の両面において廃用症候群を引き起こしてしまいます。

 

 

廃用症候群の症状の種類

 

廃用症候群を発症すると、「運動器障害」「循環・呼吸器障害」「自律神経・精神障害」を引き起こします。

 

<身体諸器官系統の衰え>

「運動器障害」(サルコペニアやロコモティブ症候群「ロコモ」と共通)

 

• 筋萎縮・・・筋肉がやせ衰える(サルコペニア)

 

• 関節拘縮・・・関節の動きが悪くなる

 

• 骨萎縮・・・骨がもろくなる

 

 

「循環・呼吸器障害」(メタボリックシンドローム「メタボ」に関連)

 

• 心機能低下・・・心拍出量が低下する

 

• 起立性低血圧・・・急に立ち上がるとふらつく

 

• 誤嚥性肺炎・・・唾液や食べ物が誤って肺に入り起きる肺炎

 

• 血栓塞栓症・・・血管に血のかたまりがつまる

 

 

「その他の身体障害」

 

• 逆流性食道炎・・・胃から内容物が食道に逆流し、炎症がおきる

 

• 尿路結石・尿路感染症・・・腎臓、尿管、膀胱に石ができる、細菌による感染がおきる

 

• 褥瘡(じょくそう)・・・「床ずれ」といわれる皮膚の傷や感染

 

 

 

<精神神経系の衰え>

 

「自律神経・精神障害」

 

• うつ状態・・・精神的に落ち込む

 

• せん妄・・・軽度の意識混濁のうえに目には見えないものが見えたり、混乱した言葉づかいや行動をするようになったりする

 

• 見当識障害・・・今はいつなのか、場所がどこなのかわからない

 

 

反復性の原則の前提としての栄養

 

脳卒中を始めとする疾病予防の重要性は言うまでもないですが、後期高齢者が要介護状態になる原因として無視できないものとして、「認知症」や「転倒」と並んで「高齢による衰弱」があります。これはまさしく老年医学で言う「虚弱:フレイルティ(frailty)」を含んでおり、低栄養との関連が極めて強いのです。

 

このフレイルの原因としてサルコペニアが重要です。ですからサルコペニアを予防することが、ロコモ、フレイルばかりではなく、廃用症候群(生活不活発病)やメタボの予防になります。

 

サルコペニアは筋肉の減少であるため、筋肉を増やすことが必要です。そのためには、まず「栄養をしっかり確保すること」が重要で、特にタンパク質を摂取することが重要視されています。牛ヒレ肉や豚ヒレ肉などのお肉の摂取や、赤身のマグロやかつお、いわしなどの魚の摂取もタンパク質を多く含む食品として知られています。しかし、蛋白質は動物性蛋白のみならず大豆などの植物製品を積極的に摂取することが望まれます。

 

また蛋白質の代謝のためにはミネラルやビタミン栄養をしっかり摂取することが必要であり、そのためには牛乳をはじめとする乳製品の活用が大切です。

 

このように栄養を確保した上で、次に重要なのが適度な運動を行うことです。栄養状態が不良な状態で運動を行っても全く意味がないばかりか、むしろ逆効果であったりするので、栄養状態が良いということが予防のための基本的な前提条件です。栄養はエクササイズを反復・継続するために要求される最低限の体力のみならず気力の確保のためにも不可欠だからです。