第3週:消化器・肝臓病・腫瘍医学、原発性硬化性胆管炎(PSC)

全身倦怠感は非特異的な全身症状の一つであって、何らかの不調が起こっていることを示唆しますが、疾患を特定することが困難な漠然とした症状です。

このような非特異的な全身症状に気づいた場合には、その他の症状が出現していないかどうかを慎重に検索することが大切です。

もし、他の自覚的症状や多角的所見が見出されれば、疾患の診断や鑑別がかなり容易になります。

 

全身倦怠感に加えて掻痒感の訴えがあれば、原発性胆汁性胆管炎(PBC)や肝硬変の可能性を念頭に置きますが、その他に、原発性硬化性胆管炎(PSC)という疾患である可能性もあります。

 

かゆみが主訴である場合には、多くの方が皮膚科を受診されます。そこで皮疹が痒みの原因であれば、その皮疹は痒疹と呼ばれて皮膚科的治療を開始することでしょう。

しかし、皮疹を伴わない痒みの場合は要注意ということになります。

私が高円寺南診療所で「皮膚科」も標榜していた時代には、アトピー性皮膚炎や蕁麻疹の患者さんの他に、皮疹を伴わない痒みの患者さんを多数経験しました。

その中には何件もの皮膚科を受診して診断もつかず、治療もうまくいかないので、こちらを紹介されて受診された方も少なからずいらっしゃいました。

 

その当時を振り返って、しばしば困惑したのは、しばしば尿検査や血液検査を拒否する方がいらっしゃったことです。

 

「皮膚科できたのに、なぜ余計な検査を勧めるのですか。」と私を蔑むような眼で睨む多数の若い方が思い出されます。

そのような方々の中には生活習慣の乱れや人格のひずみ、人間関係のストレスに苦しんでいて、それが痒みを生み出しているケースが多数みられました。

それでも何とか検査に協力していただくと、尿検査で糖や蛋白あるいは潜血が検出され、糖尿病やネフローゼなどの内科疾患が診断され、尿の色調からウロビリノーゲン検査などを追加して肝臓や胆道系の病気を発見したことや、血液検査で臓器障害や癌の発見につながったこともありました。

 

ですから、「痒み」という症状は決して軽視してはならない症状であるということを覚えておいてください。

尿検査や血液検査で発見された内科疾患の治療によって「痒み」自体も緩和し、やがてすっかり消失して、やっと安眠できるようになったという方も多数例に及びます。

 

結果としては良いことをしたと思っていますが、医師としてはとてもストレスフルであり、時間や精神的エネルギーを傾注するために非生産的な日々が続いた時代でもありました。

ですから、平成8年に「アレルギー科」と「心療内科」の標榜が認可されたことを好機として、「皮膚科」の標榜を外すことができたときの解放感は格別なものでした。

 

私は、皮膚科専門医であっても、初診時には血圧測定や尿検査は実施していただきたいものだと考えます。

安価な検査で多くの医療情報が得られるうえ重要疾患の見落としは大分減らせるのではないかと残念に思います。

 

AIPは炎症性腸疾患(IBD)を合併することが多く、免疫異常や遺伝子異常の関与が推定されています。原因として大腸粘膜におけう防御機構の破綻による門脈内への持続的最近流入や免疫異常、遺伝的異常などが推定されるが解明には至っていません。

 

全身倦怠感や掻痒感などの主症状の他に、閉塞性黄疸や胆道感染症合併に伴う腹痛、発熱などが認められる場合は、原発性硬化性胆管炎(PSC)の診断に結びつきやすくなります。

 

一方、無症状で健康診断や医療機関受診の際に血液検査や画像診断によって偶発的に診断されることも少なくありません。

炎症性腸疾患(IBD)を合併する場合があるので、下痢や腹痛などの症状の有無を確認する必要もあります。

 

血液検査ではアルカリホスファターゼ(ALP)が指標となります。これは、内科外来で実施する検査項目に含まれていることが多いので発見の助けになります。

そして、血液生化学検査で胆汁うっ滞を疑うときは、一次画像検査としてまず腹部超音波検査を行います。

そして診断のためには肝生検は必須ではありません。しかし、病期の決定や予後予測のためには生検を行うことは有用だと私は考えています。

 

治療方法は、病名も類似していますが、原発性胆汁性胆管炎(PBC)の治療方法に準じます。

また、胆汁うっ滞による掻痒には陰イオン交換樹脂製剤を投与し、脂溶性ビタミン不足(ビタミンA、D、E、K)も内服薬で補う必要があります。

 

この疾患の予後は、診断時の症状の有無とALP高値が関連することが判明しています。つまり、診断時に症状がある場合には相対的に予後が不良ということです。

 

ですから、「症状なければ病気なし」は完全に否定されるべき誤った信念ですが、ましてや、「症状の消失が真の治癒ではない」という戒めと「軽微な症状を無視することは危険極まりない」という注意のお話をいたしましたが、必要な定期的検査を無駄であるとか、もったいないとお考えの方は、この辺りで御再考いただければ、と存じます。

 

もっとも、この記事をお読みになっている方は意識の高い方ばかりですので、釈迦に説法であることでしょう。

皆様にとって大切な方々で、上記のような懸念のある方がいらっしゃいましたら、是非、杉並国際クリニックのサイトを教えて差し上げてください。

杉並国際クリニックは完全予約制をとっているため、初診患者の受付はかなり制限せざるを得ません。

 

そのような方々のためにも、お役に立てるような情報提供を、私の気力と体力が続く限り、これからも励んでいきたいと思います。