第1週:呼吸器・腎臓病、咳嗽の臨床No1

感染性咳嗽と感染(かぜ症候群)後咳嗽

 

咳は、急性上気道炎・気管支炎や、それが治癒した後に咳だけが残る感染後咳嗽、タバコ気管支炎、降圧剤(ACE阻害薬)の副作用等、身近な原因で生じる極めてありふれた症候です。喘息でない一般成人住民の約10%に3週以上続く咳を認めます。そして、しつこく続く咳を訴える患者がアレルギー科や呼吸器内科の外来に集中するといわれています。

 

 

杉並国際クリニックで咳をしている患者さんが少ない理由


ところが長くアレルギー専門医としての外来診療を行っている杉並国際クリニックの待合室でたびたび咳をしている患者さんに遭遇したことがあるでしょうか。完全予約制を導入したこともあるかもしれませんが、すでに10年以上も前から、咳が続いているような患者さんは激減しました。

 

それには、明確な理由があります。第一に過去30年間、厳格な禁煙指導を徹底してきたことによって、当クリニックでの喫煙者の比率は3%以下であることです。つまり、タバコ気管支炎の患者さんの受診はほぼ皆無となりました。

 

第二には、生活指導や水氣道®の励行により、日頃から感染予防を強化し、免疫力を高めるための戦略をとっているからです。インフルエンザや肺炎のワクチン接種も計画的に実施してきたことも重要だと考えています。

 

第三には、アレルギー専門医として喘息やアレルギー性鼻炎の計画的診療を日常的に行なっていること、第四には、国民の3人に一人の割合に達する高血圧に用いる降圧剤としてACE阻害薬以外の薬剤を選択していること、第五には、インフルエンザの迅速検査キットを診断のために使用しないこと、最後に、新型コロナウイルス対策のために導入した漢方薬レシピによるセルフメディケーションが奏功していること、などを挙げることができます。
 

健康成人でも1年間に2回程度「かぜ症候群」=「急性上気道炎」に罹患すると考えられ、何らかの慢性疾患のために通院加療中の方はそれ以上の頻度になることもあります。

 

杉並国際クリニックに1年以上定期通院している皆様のほとんどは1年に2回未満となることが観察されています。昨年までは、1年簡に何度もかぜをひいていたという方の中にも「今年はコロナの年だったにもかかわらず、全く風邪をひかなくなった」という多数の皆さまの声を聴いています。

 

咳嗽の診療でまず念頭においているのは、咳が多臓器からの転移を含めた肺腫瘍、肺結核、間質性肺炎ならびに新型コロナウイルス感染症等、重篤化し得る疾患の初発症状や主訴となり得ることです。病的な咳は、患者の消耗や生活の質(QOL)低下をもたらします。しかし、咳嗽を主訴として外来受診する患者の多くは発症後1週以内であり、その原因の80%以上は感染症による感染性咳嗽とされています。

 

感染性咳嗽とは、ウイルスや細菌等の病原微生物による気道感染症(上気道炎、気管・気管支炎ならびに肺炎)によって惹起される炎症の症状の一環として咳嗽がみられる病態です。これに対して、感染後咳嗽とは、病巣局所の原因微生物(ウイルスあるいは細菌)が免疫力あるいは抗菌薬等の投与で既に排除されているか、少なくなっているにもかかわらず、咳嗽が後遺症譲渡して残っている状態です。

 

初期に感染性咳嗽を疑う重要なポイントは随伴症状です。特に発熱を伴う咳嗽の原因の多くは感染性咳嗽です。

 

感染(かぜ症候群)後咳嗽は、ウイルスあるいは細菌によるかぜ症候群後あるいは気道感染後、3週間以上続く咳嗽です。その臨床像は、中高年女性に多く、咳嗽発生は昼間もみられるが、就寝前から夜間、朝が中心です。

 

以下が、感染性咳嗽を疑う所見です。

 

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(初期所見)

1.37℃以上の発熱または炎症反応上昇の存在
      

2.上気道炎症状の先行または随伴
        

・鼻症状(鼻汁、くしゃみ、鼻閉)
        

・咽頭痛、嗄声、頭痛、耳痛、
        

・全身倦怠感 等

 

<参考所見>

咳嗽に好発時間はなく、1日中続く場合が多い

 

(経過中の所見)

1.自然軽快傾向である
        

2.経過中に膿制度の変化する痰がみられる
 

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感染性咳嗽のほとんどは8週以内に軽快します。最も頻度の高い病原体である

 

・ライノウイルスの例では、発症10日目の持続率が目安になりそうです。

鼻汁(約60%)、鼻閉(約40%)、咳嗽(約20%以上)

 

・新型コロナウイルス感染症では、発熱に次いで咳嗽(有症状者の約60%)、嗅覚・味覚障害があるときはこれを疑います。

 

・マイコプラズマの初期症状は咳嗽と咽頭痛が有意に多く、鼻症状が少ないのが特徴です。

 

・百日咳では発作性の咳き込み(約90%)が有意に多いが、咳き込み後の空嘔吐(約半数)がみられます。特異度が高い症状は吸気性笛声ですが頻度は約14%で低いです。

 

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以下が、感染(かぜ症候群)後咳嗽の診断基準です

1. かぜ症候群(症状:鼻汁、くしゃみ、鼻閉;流涙、咽頭痛、嗄声、咳嗽等)
あるいは気道感染が先行し、咳嗽が3週以上持続している

 

2. 胸部エックス線写真:咳嗽の原因となる異常所見(-)

 

3. 他の遷延性・慢性咳嗽の原因が除外される:

咳喘息、アトピー喘息、胃食道逆流症による咳嗽、喉頭アレルギ―、
副鼻腔気管支症候群、ACE阻害薬による咳嗽、喫煙による咳嗽等を除外

 

4. 非特異的咳嗽治療薬により咳嗽は改善する:
ヒスタミンH₁受容体拮抗薬、麦門冬湯、吸入抗コリン薬、中枢性鎮咳薬
(吸入抗コリン薬は保険適応外)

 

上記の1~4をみたす。

 

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この咳嗽は結果的には自然軽快します。

しかし、一定期間以上咳嗽が続くことにより、睡眠障害、胸痛、不安、抑うつならびに生活の質(QOL)低下に繋がり、さらなる気道障害を惹起すると考えられるため、非特異的な治療薬剤による咳嗽治療が重要視されています。
 

以上のように、感染(かぜ症候群)後咳嗽の診断のためには、他の遷延性・慢性咳嗽について熟知しておいて、慎重にこれらの原因疾患と鑑別を行うことが必要になります。

 

そこで、次回(明日)は、遷延性・慢性咳嗽をテーマに取り上げることにします。