統合医療(東洋医学・心身医学)、新型ウイルス感染症の漢方戦略(縁の巻)

前回はこちら

 

Step5治癒後症状遷延期
 

解熱して抗体を獲得した後も全身倦怠感その他の症状が持続するケースが報告されています。イタリア・Fondazione Policlinico Universitario Agostino Gemelli IRCCSのAngelo Carfì氏らは、COVID-19を発症して入院し、その後回復した患者の経過を調査。回復後もなんらかの症状が持続していると訴えた患者が87.4%に上ったとJAMA(2020年7月9日オンライン版)に報告しています。最も多かったのが倦怠感(53.1%)で、次いで呼吸困難(43.4%)、関節痛(27.3%)、胸痛(21.7%)の順でした。
 

以上から、Carfì氏らは「COVID-19から回復した患者の87.4%が1つ以上の症状持続を訴えており、特に倦怠感と呼吸困難の頻度が高かった」と調査結果をまとめました。その上で、「COVID-19においては急性期だけに注目するのではなく、長期的な影響を見るため、退院後もモニタリングを継続する必要がある」との見解を示しました。しかし、その対策については明らかにされていません。
 

感染症治癒後にこのような症状が遷延するような患者さんは、私は最近久しく診ていません。その理由は、このような状態にならないように、初期の段階から、あるいは予防としての漢方指導をしているからだと考えています。それでも他のドクターからの相談(今年は学会参加等の機会が皆無であったため、専らインターネットやズームです)で提案した処方を御紹介します。結果的には著効したそうですが、実は私自身は処方経験がない処方です。

 

積極治療秘薬Ⅱ:『竹葉石膏湯(ちくようせっこうとう)


相談された症例は、「発熱が続いた後、解熱したけれど咳だけが残り、体調もすっきり回復しないので、外出も憚られ、在宅勤務も家事すらもできない」という患者さんについてでした。


患者さんは生来虚弱体質で風邪をひきやすい体質だったそうです。小児喘息があり治癒して久しいのですが、いったん風邪をひくとなかなか咳が治りきらず長引いて口が渇いて詰まった感じがして、ときにはかつての喘息の時のように激しく咳き込み苦しいとのことでした。このように発熱が続いて発汗過多となり、解熱しても脱水が生じると、痰が切れにくい頑固な空咳が続くことがあります。このような時は体調がすっきりせず、平熱であっても熱がこもったように感じられることがあります。その場合は、このような場合は、熱性疾患後期から治癒後にも続く余熱を冷まし、脱水傾向にある体中の組織や細胞に潤いを与える処方が役に立ちます。
 

竹葉石膏湯は咳を鎮め、痰を切れやすくする麦門冬湯(ただし大棗を欠いています)をもとに名称の由来となった2つの構成生薬、竹葉と石膏を加えた生薬構成になっています。竹葉と石膏の働きはともに炎症を鎮め余熱を冷ます働きがあります。竹葉にはのぼせを抑える働きがあり、石膏には口渇を改善する働きがあります。清熱剤は体温を下げる解熱剤ではなく遷延する過剰な熱を取り除くことによって、潤いを取り戻す働きをもっています。

そして体の潤いは心の潤いに通じているのです。

 

咳については、11月2日(火)から6日(金)までの5日間、毎日解説をしますので、是非、ご参考になさってください。

 

咳は主として喉頭部の不快感を認識して、意識的に咳払いをするような随意性の調節が存在することは知られていましたが、大脳皮質による調節もなされています。いずれにせよ無意識的に出てしまう咳は反射によるものです。咳反射は、これまで迷走神経支配の知覚神経により延髄の脳幹部にある咳中枢を介する反射であると理解されてきましたが、近年、咳が出るときは、「咳衝動」という感覚が先行して大脳皮質に伝わり、それが咳反射を調節していることがわかってきました。
 

「咳衝動」はある程度ではありますが、意識的にコントロールすることが可能ですが、体力や気力が低下して注意力や集中力が低下した状態では、それが難しくなります。さらにストレスなどネガティブな情緒状態が加わると「咳衝動」が発生し易くなることが予測されます。

 

漢方薬の素晴らしさは、体調だけでなく、同時に気分も調整してくれるところにあります。病気が長引いてなかなか良くならないと、誰しもがイライラしがちです。心のイライラは粘膜のイライラに結びつきます。漢方はこうした場合に素晴らしい効果を発揮してくれるのです。

 

 

旧くて新しい常識⑧ 漢方なら後遺症にも対応可能です

 

感染症への罹患や周囲の感染者発⽣に伴う⾃宅待機や隔離、感染症の診療や対策への従事、感染症をめぐる状況による経済・⽣活⾯への甚⼤で⻑期な負の影響は抑うつ傾向を増悪させる要因になります。

うつ病の発症に繋がるリスクは⼤きいと考えられます。不安と関連した精神疾患としては、感染予防策として、⼿洗いの徹底や除菌が強く叫ばれる中で、「⾃分⾃⾝あるいは周囲の⼈間・事物にウイルスが付着しているのではないかという汚染・洗浄に関する過剰な不安や恐怖(強迫症)、他者と対⾯することや交流することに関する過剰な不安や恐怖(社交不安症)、⽣活場⾯でのあらゆることに関する過剰な不安や⼼配 (全般不安症)等を引き起こしたり、増悪させたりする可能性があります。

 

COVID-19 感染がもたらす⼼理社会的影響はこの他にも、統合失調症を含む精神病性障害、双極性障害、上記以外の不安症群,ストレス因関連障害及び⾝体症状症、摂⾷や睡眠等の⾏動に関する障害、発達障害、依存症等、様々な精神疾患の罹患感受性への影響や疾患を増悪させる要因となることが想定されています。

 

 

予後と漢方的予防: 漢方的には、舌に膩苔(じたい)という厚い苔のある人と瘀血(血液ドロドロ状態)の人は重症化しやすいとのことです。

 

厚い膩苔があると「気血水」が滞りやすい「痰飲」の状態で、痰が詰まりやすくなります。食生活習慣と漢方薬の工夫によって痰飲状態を解消できます。瘀血は高血圧の人に多いので、当院では駆瘀血作用のある漢方薬を高血圧の人に出しています。