第5週:血液病・循環器

 

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提示の症例は、血液専門医試験の過去問です。2つの問いが設けられていました。
今回は、第二問目を通して、症例に対する理解を深めていきたいと思います。

 

先天性血小板減少症は特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の患者さんと同様には健常者と同じように妊娠でき、原則として自然分娩が可能ですが、難産により緊急帝王切開が必要になることを想定しておく必要があります。

 

分娩時までに血小板を5万/μL以上に増やすことが望ましいです。なお、ITP患者から生まれた新生児の約1割は一過性の血小板減少を示します。これは胎盤を通じて、母体から血小板に対する自己抗体が新生児(胎児)に移行したことによるものです。

 

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❶ 21歳の女性。

 

❷ 他院で9歳時に特発性血小板減少性紫斑病の診断を受け、

 

❸ γ-グロブリン大量療法、プレドニゾロン療法を受けたが、治療抵抗性であったため、

 

❹ 現在は治療を中止し無治療で血小板2万程度を推移している。

 

❺ 経過中出血傾向はほとんどなかった。

 

❻ 現在妊娠28週で血小板2.3万/μL、

 

❼ 出産を希望している。

 

❽ なお、母と弟も血小板減少を指摘されている。

 

本症例は、無事出産できた。出産後の本症例の対応として、適当なものはどれか。

a. 脾摘、b.ヘリコバクター・ピロリ除菌、c.新生児の血液検査、
d.出血傾向が無ければ無治療、e.トロンボポイエチン受容体作動薬

 

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本症例は出産前から、母児双方についてのケアの検討を考慮する必要があります。

出産後であれば、新生児に対して必要な検査を実施することも可能になります。

この症例が先天性血小板減少症であるとすれば、児への遺伝があるため、先天性血小板減少症の超早期診断のためにc.新生児の血液検査は必要であり、また、母児共にd.出血傾向が無ければ無治療でよいことになります。

 

また、本症例が仮にITPであったとしても、児への抗血小板抗体の移行の可能性を考慮して、出血症状の有無に関わらず、臍帯血または末梢血を用いて出生時にc.新生児の血液検査で血小板数の評価を行うことが奨励されます。もともと無治療で安定していた症例に対してa.脾摘やe.トロンボポイエチン受容体作動薬などの二次療法は直ちに適応にはなりません。

 

b.ヘリコバクター・ピロリ除菌は、ヘリコバクター・ピロリに感染している成人ITP患者に除菌療法を行なうと、6割の患者で数週間以内に血小板が増加します。このようなITPを海外ではヘリコバクター・ピロリ関連ITPと呼びます。

 

ただし、本例では、ヘリコバクター・ピロリが陽性であっても、薬剤の母乳への移行も考慮してd.出血傾向が無ければ無治療による経過観察が妥当です。