【完全版】統合医療(東洋医学・心身医学)、新型ウイルス感染症の漢方戦略(結の巻)

 

前回はこちら

 

ウイルス感染症は、表面に現れる症状の特徴だけをみれば「発熱」する疾患です。

そして、ウイルス感染症では短期間に高熱化して正気(自然治癒の基礎となるエネルギー)を消耗し、過剰な発熱は腎気(生まれながらにもっている生命力と自然免疫力)を圧迫することになるため、腎虚(腎気が乏しい人)にとっては過剰な発熱が命取りになります。

したがって、ウイルス感染症は熱との闘いであることには間違いありません。

 

そこで、一般の方々が発症時には当然のように「しっかりと解熱させるべきだ」と考えがちになるのはやむを得ないことです。

しかし、無理やりに熱を下げることと自然の経過で熱が冷めることとは雲泥の差があります。「熱を下げることが正しい治療であり、熱が下がれば治癒する」というは危険な思い込みは、かえって病気を長引かせ、重症化させ、死亡という最悪の結果をもたらすために是正されなければなりません。

なぜならば、生体は発熱することはウイルスに対抗するために必要な生体反応だからです。

 

ですから、やみくもに熱を下げることは避けなければなりません。

とくに強力な解熱剤を使用して急激に体温を下げると、生体はますます貴重な生気を消費して熱を産生しようとします。

そこで、さらに繰り返して解熱剤を使用するならば、再び体温の急降下と再度の急上昇をもたらすという悪循環に陥り、蟻地獄におちて死ぬまで抜け出せないという最悪の状況を自ら招いてしまうことになります。

とりわけ、元来虚弱体質である人や基礎疾患を抱えた人では生気が不足しがちであるため状況はより深刻化します。

 

それでは、こうしたジレンマに陥らないようにするためには、どうしたらよいのでしょうか。そのためには、正しい方向性を見失わないことと、その場の状況の見極めが必要です。

 

正しい方向性とは、正気の働きを妨害するようなことはせずに、むしろこれを適切に促すことです。

つまり、生体が望んでいること、すなわち正気の働きを助けることです。

ウイルスの邪気に対抗するために生体の生気が熱を産生しているのであれば、これを強硬に妨害するようなことはせずに、せいぜい行き過ぎた反応を緩和するにとどめるような養生法を試みることです。

 

正気を消耗させてしまうほどの過剰な発熱が生じているときには、病邪がもたらす邪気(病原が生産する有毒エネルギー)と闘おうとしている正気の働きを妨げている可能性のある要因を見極め、これを除去しなくてはなりません。

 

不安や恐怖、怒りや焦り、不信感や迷い、さらに自信喪失、絶望感、自暴自棄などのネガティブな感情も邪気を助け、正気の働きを妨げてしまいます。

 

私はそのような場合には、「冷やす(解熱)」ことと「清ます(清熱)」ことを区別して対処することが有用であると考えています。

そして新型コロナウイルスは決して猛毒性ウイルスではなく、正気との力関係で、結果的に猛毒性を発揮する場合があると理解しておいた方が良いでしょう。

これは、漢方治療でも例外ではありません。それは「冷やす(解熱)」ことで生体活動を抑え込むのではなく、むしろ必要な発熱を助けることで「清ます(清熱)」こと、で自然の経過で熱が「清める」ようにして命を守る方法です。

 

「毒を以て毒を制する」という言葉がありますが、「熱を以て熱を制する」という漢方の戦略は、この言葉よりもっと奥の深い人類の叡智に根ざしているのです。

 

 

Step4治癒後

通常の感冒では4日くらいで解熱して治ります。症状が7日間前後続いた後に、約8割は自然軽快して治ります。またかなり重症化してから治癒に向かう人もいます。

 

推奨基本薬1:『玉屏風散(ぎょくへいふうさん)』

 

推奨基本薬2:『板藍根(ばんらんこん)』

 

推奨基本薬3:『独活寄生丸(どっかつきせいがん)』

 

などの基礎薬は、症状消失後も、周囲で流行している期間中は、112回で継続することが望ましいです。とくに、体質的背景に腎気の弱さがある人には、これらの継続投与が有益です。

 

漢方を少し勉強した人の中には、たとえば、推奨基本薬2:『板藍根(ばんらんこん)』は体を冷やすのでよろしくないのではないか、とお考えになる向きもありますが、それは大丈夫です。それは、生体活動を抑え込む解熱作用ではなく、生体活動を助ける清熱作用だからです。

推奨臨時追加薬D:『地竜(じりゅう)』も同様に理解していただければよろしいでしょう。

 

それから、治癒後には治医と充分に相談しながら、従来の体質改善のための治療の強化や基礎疾患の継続的・計画的管理のさらなる充実といった、それまでの養生法の流れに、徐々に、かつ円滑に復帰していけるように心がけてただくことが大切です。