国家試験より易しい肝臓専門医認定試験問題No2

第3週:消化器・肝臓病・腫瘍医学

 

前回はこちら

 


専門医試験問題といっても、国家試験レベルの知識が基礎となっていることは言うまでもありません。出題文の中では赤い文字の部分は国家試験レベルでは少々難しいかもしれません。

 

しかし、よく考えてみると、このような症例は、専門家ではなく、一般の方であるため、診断や治療方針の決定にあたっては、かなり専門性の高い内容にまで踏み込んでインフォームド・コンセントを取らなければならない時代であることを改めて認識しておく必要があるでしょう。

 

「難しくてわからないから、すべて先生にお任せしたいです。」という昭和の発想は通用しないと考えておいた方が良いでしょう。患者さんも大変な時代になってきましたが、説明する側の専門医も大変苦労しているかもしれません。

 

日本の医療制度は、フリーアクセスが可能なので、患者さんは自分の判断で診療科を選んで受診することができるので、とても便利だと考えられています。しかし、利便性には必ず落とし穴があるものです。

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

45歳の男性。B型慢性肝炎に対しアデホビルとラミブジン併用療法を行なっている。

 

3カ月前の検査では

赤血球450万/μl,

ヘモグロビン14.1g/dl,

白血球4,800/μl,

血小板18.9万/μl,

AST25IU/l,

ALT28IU/l,

γ-GTP32IU/l,

HBV-DNA検出せず,

であったが,最近,筋力低下,骨の痛みが生じたため受診した。

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

さて、患者さんの主訴は1)筋力低下と2)骨の痛みです。

 

もしあなたがこの男性の立場だとしたら、ただちに内科、それも肝臓専門医を受診するでしょうか?そのような方はむしろ少ないのではないでしょうか。

むしろ、大方が整形外科、場合によっては神経内科を受診するのではないでしょうか。

そうして、整形外科的に異常が見つからないと、心療内科の受診を勧められることになるかもしれません。そして、その場合ほとんどのケースが心療内科を標榜する精神科医を受診することになります。悲劇はそこから始まることがあります。

 

この症例の45歳の男性は、これらの主訴に対して、現在治療中の肝臓専門医を受診したとすれば、とても賢明な方だと思います。

 

1)筋力低下と2)骨の痛み、はいずれもB型慢性肝炎の一般的な症状ではないからです。

これは専門家ではない患者さんばかりではなく、多くの医師にとっても同様です。

否、もし患者さんが「お薬手帳」を持参していたとしても、B型慢性肝炎との関連に気づくことができるのは肝臓専門医に限られると考えてよいでしょう。

 

わたしは、この出題問題の行間を読む必要があると考えます。

それは、なぜ、一般外来診療において総合医と専門医の両面性が必要なのか、という問題意識にも繋がることです。

 

専門的な治療を施す場合は、治療の有効性と安全性の双方を、予め患者さんに十分に説明しておく必要があります。

その場合、肝臓専門医が、患者さんに対して、治療中の薬剤に基づく副作用として、1)筋力低下と2)骨の痛み、が生じるものがあることをきちんと説明しておく必要があります。

また、最近では、調剤薬局が服薬指導において副作用の説明をしてくれるので、それが手掛かりになることも少なくないことでしょう。提示症例のケースでは、このような患者教育が、予め十分になされていたものと想定することができそうです。