第1週:呼吸器・腎臓病
尿検査に限らず、検査というものは異常があるのか、ないのかを調べるものです。
その場合、異常所見が有れば検査をした価値があるが、「異常所見が無ければ無駄をした、損をした」と感じる人たちがいます。
そう感じるだけでなく、「検査で異常がないのに金を払わせるのか?」というような下品な言葉まで平気で口にする方々も高円寺南診療所時代には稀ではありませんでした。
たしかに、事前確率が低い、つまり、異常所見が得られない確率が高いと予測されつつも実施する検査があります。
しかし、それはスクリーニング検査(ふるいわけ、しぼりこみのための検査)として臨床上とても大切な意味を持っているのです。
とくに尿検査のような安価で簡便で基本的な検査ほど、その重要性が高いといえます。スクリーニングをしないことによって、かえって無駄な検査を重ねてしまうことになりがちだからです。
今回は、試験紙法による尿検査の解説の後に、尿沈渣検査についても説明いたします。
一般尿検査の保険点数は26点に対して、尿沈渣検査の保険点数もほぼ同等で27点です。
試験紙法による一般尿検査の判断料は0円ですが、尿沈渣検査では、尿・糞便等検査判断料として34点が加わって61点。したがって、一割負担の方の自己負担額は60円、三割負担でも180円です。
この尿検査と尿沈渣検査で、腎癌や膀胱癌を早期に発見できたことまでを実際に経験しています。
それにもかかわらず、この60円なり180円なりの検査費用を負担に感じ窓口で苦情を申し立てるような方々に対しては、とうてい「まっとうな」医療を施すことはできないということになります。
これについては、以下の解説で十二分にご理解いただけるものと期待します。
ちなみに、第114回(令和2年実施)の医師国家試験問題全400問中で尿検査データが示されているものは26問(6.5%)でした。2001年頃の出題数が550問と比較すれば少なくなったとはいえ限られた時間で400問を回答させる試験であるため、尿所見データの記載は必要なものに限られていると考えてよいでしょう。
もっとも基本的な尿蛋白・尿糖のコンビ
国家試験では産科の問題のみ、妊娠糖尿、妊娠高血圧などのスクリーニングに必要です。
結果が陰性であるからといって文句を言う妊婦さんは少ないはずです。
114Ⅽ-51(高齢妊娠)尿所見:蛋白(-)、糖(-)
114F-51(妊娠12週のB型肝炎)尿所見:蛋白(-)、糖(-)
標準的な尿蛋白・尿糖・尿潜血のトリオ
杉並国際クリニックの初診時の尿検査項目です。以下、診断名が青い文字のもは尿所見がいずれも陰性、赤い文字のものは尿検査のうち一項目以上が陽性のもの。
症例によっては、尿沈渣検査が追加されます。尿所見が陰性である場合も、病気の診断や他の疾患との鑑別の必要上、尿沈渣検査が必要になることがあります。これについては、最後に解説します。
114B-47(甲状腺機能亢進症を合併した低カリウム性周期性四肢麻痺)
尿所見:蛋白(-)、糖(-)、潜血(-)
114C-72(脱水症、高カルシウム血症)尿所見:蛋白(-)、糖(-)、潜血(⁻)
114D-33(皮膚筋炎) 尿所見:蛋白(-)、糖(-)、潜血(-)
114D-42(偽痛風)尿所見:蛋白(-)、糖(-)、潜血(-)、細菌(-)
沈査に白血球を認めない
114F-38(夜尿症)尿所見:比重1.030、:蛋白(-)、糖(-)、潜血(-)
沈査は赤血球0~1/HPF, 白血球1~4/HPF
114F-42(関節リウマチ)尿所見:比重1.030、:蛋白(-)、潜血(-)
沈査は赤血球1~4/HPF, 白血球1以下/HPF
114F-60(サルコペニア、フレイル、抑うつ)尿所見:蛋白(-)、潜血(-)
114D-36(自己免疫性溶血性貧血)尿所見:蛋白(-)、糖(-)、潜血(3+)、
⇒潜血(3+)により血尿またはヘモグロビン尿があります。ヘモグロビン尿であれば血管内溶血を考えます。
114A-39(血管ベーチェット病)尿所見:蛋白(-)、糖(-)、潜血(-)、白血球(3+)
⇒白血球(3+)で尿路感染、蛋白(-)、糖(-)、潜血(-)にて、糸球体障害はなく尿細管から尿道にかけての炎症が示唆されます。
114D-48(ファンコーニ症候群)尿所見:比重1.014、蛋白(1+)、糖(2+)、
潜血(1+)、
沈査は赤血球5~9/HPF,1日尿蛋白1.1g/日、
尿中β₂⁻マイクログロブリン54630μg/L(基準200以下)
⇒尿蛋白(1+)程度にもかかわらず高度蛋白尿、アルブミン尿ではない。
尿中β₂⁻マイクログロブリン54630μg/L 近位尿細管の再吸収障害
114D-53(顕微鏡性多発血管炎)尿所見:蛋白(3+)、糖(-)、潜血(2+)、
沈査に赤血球30~49/HPF,顆粒円柱1~4/HPF,
⇒蛋白(3+)は中等度以上の蛋白尿、潜血(2+)より、顕微鏡的血尿、顆粒円柱は細胞性円柱尿の一つであり、糸球体病変が存在。
ケトン体までを含むもの
杉並国際クリニックでもしばしば行われている尿検査項目です。とくに栄養障害が認められるケースや糖尿病の患者さんには必須の検査です。循環器疾患でも検査しますが、感染症や心不全にともなう全身衰弱が認められる場合には必ず確認しておく必要があります。
なお、尿所見には異常が見られなくても尿沈渣で異常が発見される場合もあります。
そして尿沈渣で異常がある場合には、尿蛋白(-)でも尿中の蛋白濃度を測定することがあります。それは、尿検査で検出できる蛋白はアルブミンであって、グロブリン蛋白を検出することができないからです。
114A-69(感染性心膜炎)尿所見:比重1.016、蛋白(-)、糖(-)、
ケトン体(-)、潜血(-)
沈査に赤血球,白血球を認めない。
⇒尿路感染症は否定的
111B⁻42(大動脈弁狭窄症による心不全)尿所見:蛋白(-)、糖(-)、
ケトン体(-)、潜血(-)
114A-26(グラム陽性菌による菌血症)
尿所見:色調は黄色、比重1.010、pH6.0、蛋白(-)、糖(-)、ケトン体(-)、潜血(-)、沈査に赤血球0~1/HPF,白血球10~19/HPF,
⇒尿所見に異常なし
114A-29(2型糖尿病、糖尿病性腎症)尿所見(空腹時):蛋白(3+)、糖(3+)、ケトン体(1+)、潜血(-)
⇒蛋白(3+)により腎障害、糖(3+)により糖尿病、ケトン体(1+)によりインスリンの作用不足が示唆されます。
114B-44(熱中症)尿所見:蛋白(1+)、糖(-)、ケトン体(-)、
114B-46(急性腎盂腎炎の疑い)尿所見:黄色で混濁、蛋白(±)、糖(-)、
ケトン体(-)、潜血(1+)、
沈査に赤血球を認めず、白血球100以上/HPF
114C-56(前立腺肥大症、水腎症、腎機能障害)尿所見:蛋白(-)、糖(-)、
ケトン体(-)、潜血(1+)、
沈査に赤血球5~9/HPF,白血球5~9/HPF,
⇒症状が現れる程度までの尿路感染症は否定的
114D-21(アミロイド腎症)尿所見:蛋白(3+)、糖(-)、ケトン体(-)、
潜血(1+)、
沈査に赤血球5~9/HPF,
随時尿の尿蛋白/Cr比は4.6g/gCr(基準0.15未満)
114D-53(結石性急性腎盂腎炎)尿所見:蛋白(1+)、糖(-)、ケトン体(-)、潜血(1+)
沈査は赤血球10~50/HPF, 白血球50~99/HPF
114D-71(高血糖高浸透圧症候群)尿所見:蛋白(±)、糖(4+)、ケトン体(-)
⇒ケトン体(-)により、少なくとも著しいケトーシスは否定的
114E-41(尿閉)尿所見:蛋白(2+)、糖(-)、潜血(2+)、ケトン体(-)
沈査は赤血球30~50/HPF, 白血球1~4/HPF,細菌(-)
⇒ 血尿のみで炎症性所見はない
114E-47(1型糖尿病)尿所見:蛋白(1+)、糖(4+)、ケトン体(4+)、潜血(-)、
⇒ 尿糖(4+)糖尿病、ケトン体(4+)著しいケトーシスでインスリンの作用不足、
蛋白(1+)糖尿病腎症を合併している可能性
特別な項目、ウロビリノーゲン、ビリルビンまでを含む例
114D-52(胆道系の癌)尿所見:蛋白(-)、糖(-)、
ウロビリノーゲン(-)、ビリルビン(1+)
⇒ビリルビン(1+)より、血清ビリルビン濃度
なお第114回(令和2年実施)の医師国家試験問題の中で、尿検査所見が示されないまま、尿沈渣所見が提示された出題がありました。それは一種の腎臓癌の診断に繋がる症例でした。
114A-55(腎盂癌)尿所見:沈査は赤血球100以上/HPF
⇒赤血球100以上/HPFにより血尿
<解説>
尿潜血(顕微鏡的血尿)とは顕微鏡1視野(400倍)の中に5個以上の赤血球が認められるときです。1μL中の数にすると20個となります。
尿色調や潜血反応陽性で血尿を疑う症例における尿沈渣の診方は、
1) まず円柱の存在及び赤血球の存在を確認することが重要です。円柱は尿細管腔を鋳型として形成されたものであり、その円柱内に成分を封入している場合、その成分は円柱形成部位およびそれより糸球体側からの由来と推定できます。
そこで成分として赤血球が認められたとき(3個以上で赤血球円柱)、その出血は腎糸球体由来と考えます。
2) また、この成分円柱は尿細管腔での閉塞時間や炎症の程度により変性し顆粒円柱となります。このように赤血球円柱のみならず顆粒円柱も腎糸球体からの出血を一部推定しうる所見と考えられます。
このように、血尿の検査結果においては、まず円柱の有無・種類について確認する必要があります。
全く自覚症状がない血尿を無症候性血尿といいます。無症候性血尿では尿路系腫瘍を疑い、尿中細胞診検査が施行される場合があります。このように、血尿がみられた場合は、尿定性、沈渣所見をはじめ、問診、診察と合わせて末梢血、生化学、免疫血清、画像診断、腎生検など総合的に鑑別を行う必要があります。
そこで、尿沈渣検査について、より具体的に紹介いたします。
尿沈渣検査
尿の沈殿物を顕微鏡でみる検査で、「赤血球」「白血球」「上皮細胞」「円柱」などの成分が増加していないかを調べます。腎臓や尿路の診断が主な目的ですが、泌尿器以外の疾患が影響することもあります。
とくに、試験紙による尿検査で尿潜血反応が(+)で、しかも赤血球(+)である場合は、尿沈査で円柱の有無を確認します。円柱(+)の場合は糸球体性血尿、円柱(-)の場合は非糸球体性血尿です。
非糸球体性血尿を呈する疾患には以下のものがあります。(下線を施した病名は、高円寺南診療所~杉並国際クリニックでの診断実績がある疾患です。)
出血性膀胱炎、尿路結石症、特発性腎出血、尿路上皮癌(膀胱癌、腎盂尿管癌)、
腎細胞癌、腎動静奇形、腎梗塞
尿沈渣
赤血球 0~2/毎視野(HPF) HPHとは顕微鏡で400倍に拡大したときの1視野あたりの個数を意味します。
赤血球は5/HPF以上で顕微鏡的血尿と診断し、腎・尿路系の出血性病変を疑います。
白血球は5/HPF以上で膿尿と診断し、尿路感染症を疑います。
扁平上皮細胞は、膣トリコモナス尿道炎、細菌感染による尿道炎、尿路結石症の他、前立腺癌のエストロゲン治療中でもみられます。
硝子円柱:全身性の血流障害、蛋白尿を呈する腎疾患、脱水を疑います。
顆粒円柱は、腎実質障害を疑います。
白血球 4以下/毎視野(HPF)
扁平上皮 4以下/毎視野(HPF)
硝子円柱 (-) (±)
顆粒円柱 (-)
その他の沈査物としては、以下のように細胞類、円柱類、病原体類、結晶類などがあります。
<細胞類>
・尿路上皮細胞:膀胱炎、腎盂腎炎、尿管結石
・尿細管上皮細胞:腎実質疾患、腎虚血、腎血漿流量減少をきたす疾患、薬物による腎障害、薬物アレルギー
・卵円形脂肪体:重症ネフローゼ症候群、重症の糖尿病腎症、Fabry病、Alport症候群
・上皮性異型細胞:膀胱癌、腎盂癌、腎細胞癌、前立腺癌、膀胱原発腺癌、子宮頸癌、腎・尿路系原発の扁平上皮癌
・非上皮性異型細胞:悪性リンパ腫、白血病
<円柱類>
・上皮円柱:腎・尿細管障害
・ろう様円柱:ネフローゼ症候群、腎炎末期の腎不全
・脂肪円柱:ネフローゼ症候群
・赤血球円柱:IgA腎症、紫斑病性腎炎、急性糸球体腎炎、膜性増殖性腎炎、ループス腎炎、ANCA関連腎炎
・白血球円柱:ネフロンでの感染症および炎症性疾患、急性糸球体腎炎や腎盂腎炎などの活動期、間質性腎炎
・空胞変性円柱:重症の糖尿病腎症
・フィブリン円柱:糖尿病腎症
<病原体類>
・細菌:腎盂腎炎、膀胱炎
・酵母様真菌:尿路感染症
・膣トリコモナス原虫:膣トリコモナス症
<結晶類>
・通常結晶類:尿路結石症、カルシウム代謝異常
・異常結晶類:先天性代謝異常、重症肝障害
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