代表的な神経疾患:後期(高貴)高齢者を診る、の巻

9月22日(火)
第4週:神経病・内分泌・代謝病

 

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後期高齢者といっても個人差が大きいので一般化し過ぎるのは問題があります。しかし、後期高齢者のコミュニケーションは、一般に、流暢さが低下し話題の寄り道・脱線が増える「迂遠」と呼ばれる状態になります。これは、本人にとっては「言葉が喉まで出かかって出ない」などという形で体験されます。生活歴や家族歴の聴取には根気が必要です。

 

こうしたときに付き添いの家族等や周囲は、つい話をせかしてしまったり、本人の気持ちとは違うことを話題にしてしまったりすることがありますので注意が必要です。

 

周囲の対応としては、話が脱線をおだやかに修正しながらゆっくりと話を聴くことが大切です。

また、周囲から話しかける際には、要点をしぼって、ゆっくりと話すようにして、1回に話す内容は1つに絞るようにします。

世代の差から来る語彙の違いもコミュニケーションのギャップにつながりますので、高齢者が慣れた情緒表現を使うように心がけることも大切です。

 

⑩ 生活歴:1)妻と二人暮らし。

 

⑪ 生活歴:2)65歳で退職。

 

⑫ 生活歴:3)日常生活は自立しているが、症状出現後は外出機会が減少した。

 

⑬ 生活歴:4)喫煙歴はない。

 

⑭ 生活歴:5)飲酒は機会飲酒。

 

⑮ 生活歴:6)几帳面な性格である。

 

⑯ 生活歴:7)2か月前に運転免許を自主返納した。

 

⑰ 家族歴:特記すべきことはない。

 

 

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<初診No2>

 

後期高齢者の診療において留意しなければならないことは、高齢者の健康機能を総合的に評価することです。具体的には身体面、精神心理面、生活機能面、社会環境面などがありますが、それぞれの側面における機能評価ツールを用いたアプローチが用いられることがあります。しかし、すべてを実施しようとすると煩雑に過ぎるため、実際には、簡単なCGAスクリーニングテストを行います。CGAとは「高齢者総合機能評価」の略称です。そして、その結果に基づいて、必要であると判断された場合には、より詳細で専門的な評価へとステップアップしていきます。

 

⑩ 生活歴:

1)妻と二人暮らし。⇒後期高齢者では介護認定等も考慮し、妻の年齢や健康状態の凡その把握も必要です。後期高齢者夫婦の  老々介護の課題もあります。また、同居していない家族との関係も、介護者(キーパスン)、療養環境(生活空間、社会的資源)など将来の介護支援の資源の確認のために把握しておく必要があります。

 


<社会環境面>

⑪ 生活歴:

2)65歳で退職。⇒ 定年まで勤務し、退職後12年を経過。多くは年金生活者であるため自由時間の使い方、副業、趣味などの活動内容を確認しておくと、身体活動水準や認知機能水準、社会活動水準等を評価しやすくなります。

 

<社会環境面>

⑫ 生活歴:

3)日常生活は自立しているが、症状出現後は外出機会が減少した。

・「日常生活は自立している」⇒基本的ADL(歩行、入浴、排便など)は維持されていて、要支援・要介護状態までには至っていないようです。<生活機能面>

    

・「症状出現後は外出機会が減少した」⇒ 社会活動水準は、症状出現を契機に低下した模様です。
その原因が症状の身体面によるものか、精神心理面によるものか、その他の要
因によるものかの確認が必要です。この状態が半年ほど続いているため、特に
下半身を中心と知る筋肉量の低下(サルコぺニア)を来している可能性があり
ます。

この状態がさらに続くならば、手段的ADL(服薬、電話、外出など)が制限され、いずれ廃用症候群、フレイルなどの状態に至り、やがて、要支援・要介護状態に移行し易くなります。

 

<生活機能面>

⑬  生活歴:4)喫煙歴はない。⇒肺気腫等の疾患の可能性は少ない。
                

 

<身体面>
⑭  生活歴:5)飲酒は機会飲酒。⇒アルコール性肝障害、アルコール依存症等は除外。
                

 

<身体面>
⑮  生活歴:6)几帳面な性格である。⇒「うつ病」患者の病前性格として、まじめで几帳面な性格傾向があることは知られています。

 

<精神心理面>
⑯ 生活歴:

7)2か月前に運転免許を自主返納した。
⇒責任感のあるお人柄。自主返納という判断力(認知機能)<精神心理面>や行動力(外出)<社会生活面>が維持されていることを示唆します。

 

⑰ 家族歴:

特記すべきことはない。⇒遺伝性疾患・家族性疾患の可能性は低いと考えられますが、後期高齢者の場合には、情報収集が不完全になりやすいことの注意し、折に触れて確認するようにします。

 

 

<参考> 

CGA7 高齢者総合機能評価:評価内容、成否、解釈、次のステップ

CGA7は高齢者総合機能評価(CGA)を短時間で行うため長寿科学総合研究CGAガイドライン研究班が作成した簡易版CGAスクリーニング検査です。意欲、認知機能、基本的ADL、手段的ADL、情緒に関して7つの質問項目から構成されており、5分程度で容易に実施できます。CGA7の位置づけはスクリーニングツールであり、異常が検出された場合は標準的方法での評価が必要であるとされています。しかし、CGA7は独歩で定期受診可能な多くの高齢者に有用であり、また単独でも長期入院の高リスク群を特定するのに有用であることが示唆されています。たとえば、入院時CGA7を実施することでより早期かつ効率的な治療および退院支援の実施が期待されています。

 

20年の歴史をもつ水氣道®は、生涯継続可能なエクササイズとして漸次改良がくわえられてきた結果、高齢になっても総合機能が良好に維持できるようにデザインされています。また、水氣道の稽古に参加し、3カ月ごとのフィットネス・チェックにより、早期に弱点を検出し、その後のエクササイズ・プログラムで強化することができます。今後は、定期的なフィットネス・チェックの際にCGA7を併用して、更なる充実を図ることを計画しています。

 

 

<まとめ>

主訴である「食後の全身倦怠感(半年ほど前から)」と「物忘れ(半年ほど前から)」を説明しうる情報はこの段階に至っても不十分です。その理由は、後期高齢者の主訴が非特異的である場合は、高齢者の健康機能を総合的に評価することが病態解明と検査・治療・予後予測のすべてにおいて重要な役割を果たすからです。具体的には「高齢者総合機能評価」(CGA)スクリーニングにより、身体面、精神心理面、生活機能面、社会環境面など、全人的な評価をすることが求められます。すなわち、高齢者医療は極めて心身医学的であって、全人医療の実践に他なりません。これは、日頃から、すべての後期高齢者が(高貴)な存在であると心得て、敬意をもって接する習慣と共に育まれていくスキルなのだと再認識させられます。