代表的な消化器疾患「こんなに辛い症状はあるのに、どんな検査をしても異常が見つからない。」No4

9月17日(木)
第3週:消化器・肝臓病・腫瘍医学  
 

前回はこちら

 

❶ 35歳の女性


❷ 摂食早期の満腹感と心窩部痛を主訴に来院した。

 

❸ 6カ月前から摂食早期の満腹感を自覚し、

 

❹ 特に脂っぽいものを食べると心窩部痛が出現するために受診した。

 

❺ 便通異常はない。

 

❻ 既往歴に特記すべきことはない。

 

❼ 身長158㎝、体重46㎏(6か月間で3㎏の体重減少)。

 

❽ 腹部は平坦、軟で、肝・脾を蝕知しない。

 

❾ 血液所見:赤血球408万、Hb12.8g/dL、Ht39%、白血球5,300、血小板20万。

 

❿ 血液生化学所見:アルブミン4.1g/dL、総ビリルビン0.8㎎/dL、AST21U/L、ALT19U/L、LD194U/L(基準120~245)、ALP145U/L(基準115~359)、
γ-GT14U/L(基準8~50)、アミラーゼ89U/L(基準37~160)、
尿素窒素15㎎/dL、クレアチニン0.7㎎/dL、尿酸3.9㎎/dL、
血糖88㎎/dL、HbA1c5.6%(基準4.6~6.2)、
総コレステロール176㎎/dL、トリグリセリド91㎎/dL、
Na140mEq/L、K4.3 mEq/L、Cl101 mEq/L。

 

⓫ 上部消化管内視鏡検査および腹部超音波検査に異常を認めない。

 

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<再診Step2>

❿ 血液生化学所見:アルブミン4.1g/dL、総ビリルビン0.8㎎/dL、AST21U/L、ALT19U/L、LD194U/L(基準120~245)、ALP145U/L(基準115~359)、
γ-GT14U/L(基準8~50)、アミラーゼ89U/L(基準37~160)、

尿素窒素15㎎/dL、クレアチニン0.7㎎/dL、尿酸3.9㎎/dL、
血糖88㎎/dL、HbA1c5.6%(基準4.6~6.2)、
総コレステロール176㎎/dL、トリグリセリド91㎎/dL、
Na140mEq/L、K4.3 mEq/L、Cl101 mEq/L。

 

 

A)栄養評価指標
   

・蛋白質栄養⇒血清アルブミン、尿素窒素⇒いずれも正常範囲
   

・脂質栄養⇒総コレステロール、トリグリセリド⇒いずれも正常範囲
   

・電解質(ミネラル)栄養⇒Na、K、Cl⇒いずれも正常範囲ですが、Ca(カルシウム)、P(リン)も確認しておきたいところです。

 

 

 

B) 代謝指標

・糖質(炭水化物)代謝⇒血糖、HbA1c⇒いずれも正常範囲
  

・核酸(プリン体など)代謝⇒尿酸⇒正常範囲です。
しかし、痛風認定医の立場からコメントするならば、35歳の女性の尿酸値想定をする積極的な意味は乏しいと思います。その理由は、高尿酸血症といって痛風を来す病態は概ね男性にみられること、逆に低尿酸血症を疑うのであれば、その前提としての医療情報が必要です。

 

 

C) 栄養・代謝関連臓器機能指標

・肝機能⇒AST、ALT⇒いずれも正常範囲
  

・胆道系機能⇒総ビリルビン、γ-GT⇒いずれも正常範囲
  

・膵(外分泌)機能⇒アミラーゼ⇒正常範囲
            

心療内科指導医・専門医の立場からコメントするならば、この症例における重要な鑑別疾患の一つである摂食障害においてアミラーゼが亢進することがあります。<食べ吐き(唾液アミラーゼ)>や<下剤を使用しての誘発性下痢(膵アミラーゼ)>が激しい場合に、消化酵素を消耗して、代償的に産生が増えることが考えられます。

 

・腎機能⇒クレアチニン、尿紙窒素⇒いずれも正常範囲
  

・その他⇒LD、ALP⇒いずれも正常範囲

 

血液生化学検査においては、栄養障害を疑う所見は得られず、全身状態は比較的良好な水準を維持していることが確認できました。ただし、以下のように、症状は6カ月以上続き、体重減少については進行性であるため単なる経過観察で済ませず、可能な限り原因を検索する必要性があります。

 

❷ 摂食早期の満腹感と心窩部痛を主訴に来院した。
  

❸ 6カ月前から摂食早期の満腹感を自覚し、
  

❼ 身長158㎝、体重46㎏(6か月間で3㎏の体重減少)。

 

そこで、5)診療計画の評価としては、消化管をはじめ腹部の諸器官に焦点を当てて精査することになるでしょう。その際、❺ 便通異常はない、とのことから、下部消化管についての精査を優先させることなく、上部消化管の精査をきちんと行うことになります。

 

なおリウマチ専門医の立場からは、体重減少を伴う場合は、骨栄養・骨代謝についても確認しておくことが望ましいと考えます。30代の女性であっても体重減少が明らかなケースでは骨量(骨密度)測定は有意義な検査だと考えます。

 

 

⓫ 検査オーダー:

上部消化管内視鏡検査、腹部超音波検査、ヘリコバクター・ピロリ菌検査、骨量測定
    
  

 

昨日話題にあげた当院のケースについてです。

※患者さんの承諾を得ています

 

 血液所見:赤血球448万、Hb14.0g/dL、Ht44.6%、白血球5,000、血小板25万
⇒血液所見において、貧血その他の異常を認めません。

 

 骨塩定量検査(DIP法)YAM比94%⇒骨年齢54歳相当(実年齢+21歳)

 

 血清Ca(カルシウム)9.3㎎/dl(基準値:8.6~10.1㎎/dl)⇒正常範囲

 

 血清P(リン)2.4㎎/dl<2.5㎎/dl⇒低リン血症

 

 血清ALP187U/L(基準値:110~360U/L)⇒正常範囲

 

 血清25-OHビタミンD12.0ng/mL<20.0 ng/mL⇒ビタミンD欠乏症

 

当クリニックの症例は、貧血その他の一般的な栄養障害は認められなかったものの、骨代謝異常(ビタミンD欠乏症)が見られました。低リン血症は、ビタミンD不足を反映し、その結果、骨塩量が低下したことが予測されます。30歳代であっても、貧血等の有無に関わらず、骨塩定量やCaやPに加えてビタミンDの定量を行うことが必要になるケースがあることが示唆されました。