国立感染症研究所・松山氏の発言に想う:「ワクチンへの過剰期待に懸念

9月5日


土曜日:統合医療(東洋医学・心身医学)

 

 

(第94回日本感染症学会で講演:8月20日)
国立感染症研究所ウイルス第三部第四室室長の松山州徳氏は、第94回日本感染症学会総会・学術講演会のシンポジウムで、『新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のウイルス学的特徴からの考察』について講演しました。
 

とても貴重な内容であるため、専門家対象の公演内容を、一般の方にも理解できるように、杉並国際クリニックの責任において、独自に質疑応答(Q&A)形式で編集し、コメントを付して、ご紹介することにしました。

 

その際に「ワクチンを接種したとしても再感染する可能性があり、過剰に期待し過ぎない方がいい」と述べました。

 

 

【松山州徳氏プロフィール】
1996年に日本大学を修了後、医学雑誌編集者として出版会社に勤務。
1997年より国立精神神経センターにてコロナウイルスの研究
2001年に博士号取得。米国留学。
2003年に国立感染症研究所に着任。
2010年より現職。重症急性呼吸器症候群(SARS)と中東呼吸器症候群(MERS)の細胞侵入メカニズムを研究し、これらの感染症対策への貢献をめざしている。
 

 

松山氏は講演冒頭で、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の特徴を解説。
今後も新たなコロナウイルスが登場すると考えるのが妥当だという。

 

理由:ヒトに感染するコロナウイルスは主に4種類が知られていたが、2002年にはSARS-CoVがコウモリから、2012年には中東呼吸器症候群(MERS)コロナウイルス(MERS-CoV)がラクダから、そして2019年には、SARS-CoV-2がセンザンコウもしくはコウモリからもたらされた。このように、コロナウイルスは頻繁に動物からヒトへと侵入するため。

 

コメント:

『今後も新たなコロナウイルスが登場する』という予測の認識は、私(飯嶋)も共有しています。ウイルスに対するワクチンは、ウイルス特異的といって新種が出現するごとに個別に新規開発しなければなりません。それには時間がかかり、<流行がピークを越えて終息する頃に、ようやく開発される>といった具合です。ですから、ウイルスなどの病原体の種類や身体の状態の個別差を考えずに普遍的に働きかける予防・治療手段が必要となります。新型ウイルス感染症の予防と治療のために、私が漢方戦略を推進しているのは、そのためです。

 

 


Q1  SARS-CoV-2の伝播力が強いわけ:

ではなぜ、SARS-CoV-2は他のコロナウイルスと異なり、高齢者で強い病原性を示し、かつ伝播力が強いのか?

 

 

A1 「完全には解明されていないものの、ウイルスの膜表面にあるスパイクタンパク質のプロテアーゼ(蛋白分解酵素)解裂部位の違いが、伝播力の違いを生み出しているのではないか」と指摘。


ウイルスは細胞に侵入する際、膜融合が起こる。この時、フーリンというプロテアーゼがスパイクタンパク質を切断することが重要だが、SARS-CoV-2では、この反応性が高い可能性がある。その結果、細胞内での増殖が早まり、伝播力が強くなる可能性があるため。


コメント:

伝播力が強い理由は、『細胞内での増殖が早まる』からだとすれば、細胞内での増殖力を抑制し、伝搬力を弱める工夫が大切であることがわかります。しかし、それ以前の段階で、細胞内にウイルスが多数侵入しない工夫が必要です。通常のマスク着用ではウイルスの吸入を免れることは不可能であり、ソーシャル・ディスタンスを確保してもウイルス粒子を全く吸入しないで済ますことは、ほぼ不可能です。ウイルス粒子を吸入しても、少量であったり、室内プールの空気中の水蒸気に含まれる次亜塩素酸により、ウイルスが不活化されたり、さらには、漢方薬の服用によってウイルスを吸入しても感染しにくく、しかも、発症しにくくなるように工夫することは可能です。

 

 


Q2. 今後開発されるワクチンで終生免疫を得られる可能性に期待できるか?

 

A2.  ワクチンで終生免疫を得られる可能性は低い。

 

理由:SARS-CoV-2が血中に出現するウイルスではないため。
 

ワクチンで終生免疫を得られるウイルスは、麻疹ウイルスや水痘ウイルスなど、血中にウイルスが存在する疾患である。これらに対して、呼吸器ウイルスに対して終生免疫を獲得できるワクチンは今のところない。

 

例えば、インフルエンザワクチンでは終生免疫を獲得できず、重症化回避をもたらすにとどまる。SARS-CoV-2についても、ウイルスはほぼ肺胞に存在するため、免疫細胞に接する機会が少なく、抗体は作られづらい可能性が高い。

 

コメント:

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の撲滅は難しいため、将来、安全で有効なワクチンが使用できるようになったとしても、インフルエンザワクチンのように毎年接種しなくてはならなくなると考えます。しかも、年に複数回の接種が必要になるかもしれません。ワクチンを接種しても、ワクチン自体が免疫グロブリンではなく、接種された個体が自身で感染防御力をもつ免疫蛋白質を生成しなければ予防効果を期待することはできません。つまり、体力が消耗していたり、ストレスや疲労を蓄積させていたりすると、抗体蛋白を体内で合成する能力も低下してしまいます。このような状態に陥らないためにも、免疫力強化のために適した漢方薬の服用が望ましいと考えることができます。

 

 


Q3. 今後開発されるワクチンは信頼できるか?

 

A3.  現在のところワクチンの安全性に懸念がある。

 

理由:ワクチン投与により、むしろ「抗体依存性感染増強(ADE)
という有害反応が起きる可能性も否定できず、「ワクチンに対して過剰に期待しない方がいい」。
 

コメント:

「抗体依存性感染増強(ADE)」
という有害作用を示唆する重要な論文「香港大学の学生の新型コロナウイルス再感染例」が、つい最近、ネイチャー紙に発表されたばかりです。インフルエンザワクチンのように安全性と有効性が確立するまでには、相当の時間を要する見通しです。

 


Q4.なぜ現状で、日本のPCR検査が少ないのか?

 

A4. PCR検査を行える病院が少ないため。『日本における病原体PCR検査は患者に結果を返すためのものでなく、流行を把握するためのものであるため。
100万人当たりのPCR検査数を国別に比較すると、英国は日本の38.1倍、ロシアは36.9倍、イタリアは24.6倍と、外国では桁違いに多い。逆に言えば、それだけ日本では少ないことが明かである。


コメント:

これまでの保健所等で実施されてきたPCR検査は、治療に役立てるのが目的ではなく、集団での発生状況を分析するための手段に過ぎなかったのではないか、という私(飯嶋)の推測が正しかったことに対して、公の立場から明確な根拠を与えてくれたはじめての情報です。松山氏のこの発言は、重大な内容を含んでいます。それは、PCR検査に関して日本国家(加藤厚労大臣ら)が医療従事者を含めて国民全体を公然と騙し続けてきたことに他ならないからです。

 


Q5. なぜ日本ではPCR検査を行える病院が少ないのか?

 

A5.「インフルエンザ疑い患者に対してイムノクロマト法を使い、タミフルを処方するという仕組みが非常に進歩しているという日本特有の文化背景がある」ため、PCR検査の需要が少なかったから。

 

 

Q6. では今後、1日に10万検体をPCR検査できる体制作りを可能にするためにはどうすればよいのか。

 

A6. たとえば、10施設の検査会社でそれぞれ1万検体の検査を行うような体制よりも、1万施設の病院でそれぞれ10検体の検査を行うような体制が理想である。
  

コメント:

そもそも現行のPCR検査は無駄である、というのが私(飯嶋)の考えです。PCR検査によって新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が陽性なのか否かが判明しても、複数発生している遺伝子型が判明しない限り、予防や治療に役立ちにくいからです。また、ひとたび、PCR検査が陰性であったとしても、その後、いつでも陽性に転じる可能性が残るためです。なによりも、有効な治療薬が確立していないことも問題です。したがって、PCR検査に過剰な期待をかけることは、ワクチンに過剰な期待をかけることと同様にお勧めすることはできません。

 


Q7. 1万施設の病院でそれぞれ10検体の検査を行うような体制の実現に向けて必要な機器はあるか?

 

A7. 20分でPCR検査結果が出力される「cobas Liat」や、21ターゲットを同時に測定できる「FilmArray」など、簡易にPCR検査を行える研究機器がある。このような機器を積極的に導入できれば、ドイツや英国が構築している検査体制も実現可能かもしれない。
  

コメント:

わが国の感染者数や死亡数より多いドイツや英国の検査体制を今後、わが国で実現する必要性の根拠は乏しいと思います。もっとも、疫学的研究を目的とするだけなのであれば、コストの問題以外には反対する理由はありません。

 

 


Q8. 日本はCOVID-19に関する論文数が少なく、また研究のスピードも遅いのはなぜか?

 

A8. 国内ジャーナル育成が不十分であり、研究の事前準備がなされていないため。米国人は『Science』などの米国の科学雑誌に論文を送り、中国人は『Nature China』などの中国の科学雑誌に論文を送り、すぐに掲載されるという現実がある。一方、日本でも『Japanese Journal of Infectious Diseases (JJID)』という、感染症に関する論文誌を発刊しているが、まだ世界の一流論文誌と肩を並べられるほどには成長していない。
   

2020年1月10日、SARS-CoV-2の全遺伝子情報が公開された。ドイツのグループがこの情報をもとにリアルタイムPCR法を確立し、世界保健機関(WHO)のウェブサイトにプロトコルが掲載されたのは3日後の1月13日。その10日後には『Eurosurveillance』に論文として掲載された。
   

コメント:

日本の医学研究者や医師の能力水準が低いからではありません。国内の医学ジャーナル育成が不十分なのは、そもそも日本の政府が医学研究のための科研費を国力や研究開発のニーズに見合うだけの額を計上していないのが最大の原因だと考えます。

 

 


Q9. 米国や中国では、研究成果を出すのが速いのはなぜか?

 

A9. 彼らの研究グループは、コウモリに感染するコロナウイルスやMERS-CoVなど、他のコロナウイルスを検出するためのプロトコルを既に開発しており、SARS-CoV-2の登場より前に、考えられる可能性を全て準備していたため応用が早かったのだろうと考えられるため。

 

中国のグループは、レムデシビルとクロロキンがCOVID-19に効果が あるという論文「Remdesivir and chloroquine effectively inhibit the recently emerged novel coronavirus (2019-nCoV) in vitro」を『Cell Research』に1月25日に提出している。

この論文は1月28日に受理され、翌週の2月4日には公開された。このスピード感で公開まで行えた背景として、『Cell Research』のオフィスは上海にあり、編集長も中国人であることが挙げられるという。このような編集体制の論文誌に中国のグループから論文が届いたため、すぐに掲載に至った。

 

「同様の研究成果を日本のグループが提出したとしても、この緊急時において、簡単に査読には回らず、スピーディーな対応もしてくれないだろう。われわれは、自分たちの科学を自分たちで評価できない国になっている。国内の雑誌を育て、科学の評価体制を強化することが非常に重要だ」と強調し、松山氏は講演を締めくくった。

 

コメント:

研究成果を出すのが速い理由が、内輪での査定(論文査読)によるのであれば、必ずしも良いことばかりではありません。発表が拙速に過ぎて、取り消される論文の数も増えています。これは、世界的疫病(パンデミック)の状況においては、新しい研究成果を少しでも早く発表しなければならない、というプロの心理が働くためであるということは否定できません。

 


<まとめ>

 『愚者は経験のみに頼り、賢者は歴史にも学ぶ』という言葉があります。その弊害に陥り、100年前のスペイン風邪の歴史的経験からも、大局的に学ぼうという謙虚な姿勢が乏しい傾向が感じられます。私が『漢方戦略』に力を入れている理由は、まさに『歴史に学びつつ、最新の研究治験とすり合わせて最善を尽くす』戦略が肝要だと考えているからです。