検診で発見することの多い生活習慣病No1 メタボリックシンドローム

8月27日(木)

令和2年6月から、杉並国際クリニックは完全予約制となりましたが、初診予約者の傾向に明らかな変化が現れてきました。それは、喫煙者の割合の減少です。

その原因は、事前の問診項目の一つに、当クリニックの公式サイトを読んでいただいたかどうか、という質問項目があるためかもしれません。

 

喫煙者は喫煙の有無を質問されること自体を不快に感じる傾向があり、「禁煙指導」という活字を見るなり受診を避ける、という極端な受診行動を選択される方も少なくないようです。

逆に、喜ばしい傾向としては、今後は、どうしても「杉並国際クリニック」に通院して健康管理をはじめたいという積極的な選択をしてくださる方の中には、初診日を迎える前に、予め禁煙を開始した、という感心な方もおられるということです。そうした方の健康改善の進捗は顕著であることが多いので、とても希望が持てます。


喫煙習慣の有無に関しては、あらゆる機会に確認しておく、ということが責任ある医師としての当然の基本的姿勢あると考えています。

 

本日の国家試験問題も最新のものですが、「高円寺南診療所」時代に多数経験してきた典型例ともいえます。本日は、初診で確認できる項目に限定して検討を加えてみることにします。

 

❶ 42歳の男性

 

❷ 健康診断で異常を指摘されたため受診した。

 

❸ 既往歴:特記すべきことなし

 

❹ 家族歴:特記すべきことなし

 

❺ 喫煙歴:20本/日を13年間

 

❻ 飲酒はビールを500mL/日

 

❼ 身長167㎝、体重78㎏、腹囲104㎝

 

❽ 脈拍68/分、整。血圧138/76㎜Hg

 

❾ 心音と呼吸音とに異常を認めない

 

❿ 血液生化学所見:
総蛋白7.5g/dL,アルブミン4.2g/dL,総ビリルビン0.6㎎/dL,

AST45U/L, ALT52U/L, γ-GT130U/L(基準8~50)、

尿素窒素28㎎/dL, クレアチニン1.0㎎/dL, 尿酸7.9㎎/dL,

空腹時血糖130㎎/dL,HbA1c6.8%(基準4.6~6.2)、

トリグリセリド250㎎/dL,HDLコレステロール33㎎/dL,

LDLコレステロール142㎎/dL

 

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❶ 42歳の男性 ⇒男性では、とくに生活習慣病が増えてくる年代

代表的な生活習慣病:肥満、メタボリックシンドローム、高血圧、脂質異常症、糖尿病、これらに加えて男性では高尿酸血症が重要

 

 

❷ 健康診断で異常を指摘されたため受診した

⇒自覚症状に乏しい。健康診断であるから基本的な検査項目に限られる。

概ね生活習慣病の早期発見が目的となっている。

今回の健康診断での異常とは、具体的にどの項目なのか?

 

 

❸ 既往歴:特記すべきことなし
⇒既往歴は、主に本人の申告によるものであるため、初診時にすべてを把握することは困難です。継続診療によって、少しずつ整理され、次第に全貌が明らかになっていくことが多いです。

 

 

❹ 家族歴:特記すべきことなし
⇒家族歴の、既往歴以上に、本人の記憶が頼りです。後日になって「そういえば、父は・・・でした。」という報告を受け、それが遺伝性の稀な病気の発見や診断に役立つことがあります。また、患者さんの体質・気質傾向の把握にも大いに役立つ貴重な情報です。

 

 

❺ 喫煙歴:20本/日を13年間

ブリンクマン係数(BI)=20×13=260>200

35歳以上のニコチン依存症でBI≧200の場合は、禁煙治療の保険適応がある
  

ニコチン依存症を判定するテスト TDS(Tobacco Dependence Screener)

 

ニコチン依存症とは

やめたくてもやめられない喫煙習慣のことをいい、治療が必要な病気とされています。

 

ニコチン依存症スクリーニングテスト(TDS、Tobacco Dependence Screener)は禁煙治療保険診療におけるニコチン依存症診断基準として使用されており、心理的依存も含めたニコチン依存症の診断に利用されています。

 

ニコチン依存症の診断基準として、TDSのスコア5点以上が用いられています。TDSのスコアにより、ニコチン依存症の程度の目安を知ることができます。

 

 

❻ ビール500mL/日⇒アルコール摂取量の基準とされるお酒の1単位とは、純アルコールに換算して20gです。ビール500mlはビール中びん1本に相当し、これはエタノール(純アルコール)換算で20g/日、これはお酒の1単位に相当します。

 

『常習飲酒家』は一日平均エタノール60g(3単位)以上を5年以上飲酒を続けている人
『大酒家』は一日平均エタノール100g(5単位)以上で5日間以上継続して飲酒する人
⇒この症例は、飲酒家ではありますが、『常習飲酒家』、『大酒家』のいずれにも該当しませ
ん。

 

参考までに、以下にアルコール性肝障害の診断基準を紹介します。

  

2011年アルコール性肝障害診断基準

1過剰の飲酒 (エタノール60g以上)
※ただし肥満者は60g以下でも、女性やALDH2活性欠損者は2/3程度でも起こしうる

 

2 禁酒によりγGTP ,AST(GOT),ALT(GPT)が明らかに改善する

 

3 肝炎ウイルスマーカー、抗核抗体、抗ミトコンドリア抗体いずれも陰性

ただし、近年、生活習慣病に伴う『非アルコール脂肪肝炎』がクローズアップされて
きました。これまで『適量飲酒者』とされてきた群の中にも肝障害から肝癌へ発展する例があります。

 

現在、国内での正確な患者数はわかっていませんが、人間ドックを受ける人で非アルコール性脂肪肝に罹患している人が30~40%であることから、推定で1000万
~2000万人の潜在患者がいると考えられています。非アルコール性脂肪肝炎に進展するのはそのうちの10~20%に相当する100~200万人位と考えられています。

 

肝がんの成因として、非アルコール性脂肪肝炎を含むB型肝炎やC型肝炎が原因でもない、いわゆる非B非Cの肝がんの頻度が全国的に確実に増え続けていますが、その中の成因として『非アルコール性脂肪肝炎』が注目されています。

 

 

❼ 身長167㎝、体重78㎏、腹囲104㎝
 体格係数(BMI)=(体重㎏)/(身長m)²=78/1.67²=28.0≧25
 ⇒肥満症(肥満度Ⅰ)
 男性の腹囲≧85㎝⇒メタボリックシンドローム必須項目に該当するため、以下の選択項目を確認する必要があります。

 血圧(収縮期/拡張期)、トリグリセライド、HDL-コレステロール、空腹時血糖値を確認する必要があります。

 

 

❽ 血圧138/76㎜Hg⇒高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)では高血圧に該当します。そして、正常血圧(120/80㎜Hg未満)以外のすべての人に生活習慣の修正が必要とされます。収縮期血圧138㎜Hg>130㎜Hg⇒メタボリックシンドローム選択項目に該当します。

 

この段階で、メタボリックシンドロームの選択項目のうち、もう一つ以上が該当すれば、メタボリックシンドロームの診断が確定します。初診時に実施した血液検査の結果は再診時に揃うので、明日は再診時を想定して更なる詳細な検討を加えていきたいと思います。