当クリニックで行う„癌„予防対策 No3.大腸がん

8月19日(水)
   

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ARCHIVE 2020年6月17日 改訂版

わかりやすい臨床栄養学(第6版)190頁参照

2020年4月30日 第6版第1刷発行

執筆者代表:飯嶋正広(杉並国際クリニック)

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昨日、胃がんの予防で、「世界中が新型コロナに振り回されていますが、コロナを恐れるあまり足元をすくわれてしまうことがないようにしたいものです。

コロナの罹患者と比べてもダントツに多いのは、癌患者数です。」と書いたところ、さっそくご質問をいただきました。

それは「癌の中で一番多いのは胃がんですか?」というご質問でした。それは、私が医学生だった頃はYesでしたが、その後、肺がんがトップとなり、さらに大腸がんがトップに踊りでてきました。

ですから、現在の答えはNoです。このようなことがあるので、私は、医師になって30数年を経ていますが、毎年、医師国家試験の出題問題(これは臨床各科のすべてに領域や公衆衛生学が出題されます)を解いて、知識の修正を続けることにしているのです。

 

わが国における大腸がんの予測罹患数(2018年「がんの統計’18」)は15万2,100人(男:8万7,200人、女:6万4,900人で、ともに第2位)で、全癌腫の中で第1位です。予測死亡数は5万3,500人で肺癌に次ぐ第2位です。

 

欧米では大腸がんは消化器癌の中で最も多い癌腫ですが、わが国でも食生活の欧米化などに伴い、罹患率・死亡率はともに増加傾向にあります。わが国では、「大腸癌治療ガイドライン医師用2019年版」が刊行されています。

 


再発率が高いことも特徴であり、術後3年以内に85%以上、術後5年以内に95%以上が出現しました。

 

再発の傾向として、肝転移に比較して肺再発の出現時期は遅く、腹膜転移再発は結腸がんに多く、局所再発と肺再発は直腸がんに多いという結果でした。

 


予防策について

がんの1次予防とは、がんにならないよう日常生活に注意すること、2次予防とは定期的に検診を受けて、早期発見・早期治療して完治させることを言います。

 

1次予防の柱は食生活の改善と禁煙です。動物性脂肪を減らし食物繊維の多い野菜などをたっぷり摂ることです。赤肉(牛、豚、羊など)や加工肉(ベーコン、ハム、ソーセージなど)の摂取、飲酒、喫煙により大腸がんの発生する危険性が高まります。

 

ヨーグルトなどの乳酸菌は胆汁酸を酸化させる腸内細菌を減らすし、カリウムはニ次胆汁酸と結合して排出させる作用があり、ともに大腸がん予防効果が期待されます。

 

また、肥満の男性に大腸がんが多いことから、運動による体重コントロールも重要です。体脂肪の過多、腹部の肥満、高身長といった身体的特徴をもつ人で、大腸がんを発生する危険性が高いといわれています。

 


大腸がんはゆっくり進行するので、早期発見できれば100%完治させることが可能です。発症には遺伝的要因もかかわるため、家族の病歴との関わりもあるとされています。

 

祖父母・両親・兄弟にがん患者いる人や、特に家族性大腸腺腫症やリンチ症候群の家系では、近親者に大腸がんの発生が多くみられます。40代以上の人は必ず検診を受けましょう。

 

日本人を対象とした研究結果では、がん予防には禁煙、節度のある飲酒、バランスのよい食事、身体活動、適正な体形、感染予防が効果的といわれています。大腸がんを予防するには、食物繊維を含む食品の摂取が効果的であることがわかっています。

 

結腸がんの予防には、運動も効果的です。大腸がんの発生は、生活習慣と関わりがあるとされています。

 

大腸がん予防のキーワードは、「禁煙・食事・運動・検診」です。

 

 

杉並国際クリニックにおける検査の実際

 

便潜血検査でがんのリスク診断が可能

 

当クリニックでは、免疫法による「便潜血2日法」によって、これまで多くの大腸癌やポリープを発見するきっかけを得てきました。幸いなことに、これまでの30年間で、この検査がきっかけとなって大腸癌が発見され結腸切除術を受けた方で、腹膜転移など末期であった方は皆無でした。

 

また内視鏡的ポリープ摘出術で済んだ方が多く、特に、カルシノ―マ・イン・サイチューといって、ポリープの先端の粘膜内の微小癌を発見し、日帰り治療で済んでしまったケースもあります。

 

近年の身近な実例としては、郷里の水戸市在住の私の実母が、市の大腸癌検診で陽性の結果であったにもかかわらず、精密検査を受検していなかったため、督促状が届いていたというエピソードがありました。

 

そこで母を説得して大腸内視鏡検査を受けさせたところ、まさに上記の粘膜癌が発見されました。母は当時軽度の貧血を呈し、不眠の訴えも強く難渋していましたが、内視鏡的にポリープを摘出することによって、貧血についても、すっかり改善してしまい、以前ほど不眠を訴えなくなりました。

 

このように、たとえ微小の初期がんで、微量の出血であったとしても、これが毎日続くと明らかな貧血を来してしまう、逆に言えば、適切な処置によって、進行がんに発展する原因を除去し、日頃の生活の質(QOL)の改善にもつながるという教訓を新たにした次第です。

 

このように貧血を来すような出血を大腸がんが発生すると多くの場合、下部消化管内で出血します。そのため、採取した大便に血液が混ざっていれば、がんの恐れがあると判断することができます。

 

この検査では、特殊な抗体を用いて便表面の血液を検出するので、出血量が少なくてもがんのリスク診断が可能です。

 

このような背景により、便潜血検査は、大腸がんの疾患リスクを診断するために行います。検査方法は、2日分の大便を検査専用のスティックで採取し、便に血液が混ざっていないかを診断します。近年は大便を1日に1回ずつ2日に分けて採取する「便潜血2日法」が主流です。

 

「便潜血2日法」は、厚生労働省から死亡率減少に効果的であると認められた大腸がんの検査方法です。 自宅で採便するだけなので、大腸がんの検査が初めてという方にとっても、受診しやすくおすすめです。

 

 

便潜血検査のメリットとデメリット

 

便潜血検査は、一般的に検査専用のキットを使って採便後、医療機関へ提出します。

来院する手間がないため、時間に余裕がない方でも気軽に検査が受けられるのがメリットです。

ただし、便に血液が混じっているかどうかを調べる検査なので、潜血反応の有無に関わらず大腸がんを患っているケースもあります。大腸がんのスクリーニングをする暫定的な検査であることは理解しておきましょう。

 

メリット

• 来院なしで気軽に検査を受けることができる

 

• 大腸内視鏡検査など他の大腸がん検診の検査項目中では、検査費用が安い

 

• 採便なので身体的な負担はない

 

 

デメリット

• 潜血反応があっても確実に癌であるとの診断はできない
(偽陽性)

 

• 潜血反応がなくても確実に癌ではないと言い切れない
(偽陰性)


• 検査を化学法で行う場合は食事制限・薬剤制限がある(免疫法では制限なし)⇒当クリニックでは免疫法を採用しているため、食事・薬剤の制限はありません!

 

 

便潜血検査にかかる費用

 

便潜血検査にかかる費用は、受診方法によって異なります。

会社の健診で実施する場合や自治体で実施している検診であれば、年齢によって無料または補助があることが多いです。人間ドックや任意の医療機関で受診する場合は自由診療(全額自己負担)となります。
 

また、自治体よっては制度を設けていないケースもあるので、気になる方は住まいを管轄する自治体のがん検診窓口に問い合わせてみましょう。

 

 

自費の場合


■費用 免疫法では2,000円程度(※医療機関によって異なる)
自費で受診する場合の費用は、免疫法では2,000円程度、酵素法では1,000~2,000円程度が一般的です。

任意の医療機関での受診となります。人間ドックの検査項目として設定されている場合や、オプションで検査を追加できることもあります。

大腸がん検診と一緒に、全身の健康状態をチェックするのも良いでしょう。

 

 

自治体からの助成・補助利用の場合

 

■費用 無料~1,000円ほど(※加入健康保険組合により異なる)
地元自治体(市区町村)による住民健診や職場での検診の場合、自己負担額はそれぞれ異なります。

 

たとえば、40歳以上は数百円、70歳以上の場合や住民税非課税世帯に属する場合は検診費用が無料となる自治体もあります。詳しくは各自治体のがん検診ホームページ、またはがん検診窓口へ問い合わせてみてください。

 

 

便採取時の注意事項

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通常、便潜血検査キットには採便方法の説明が添付されているので、採便前に必ず確認しましょう。採便時に注意したいのは、トイレの洗浄水に便が浸かってしまわないようにすることです。

洗浄水には消臭成分や消毒液が含まれているため、便に洗浄水がついてしまうと正確な判定ができなくなってしまいます。

 

また、採取するときには、便の表面をまんべんなくこするようにするのがポイントです。採便用のスティックには先端に溝があるので、この溝が埋まるまで採取します。

便の量が少ないと正確に検査が行えないこともあるので、採取量は守るようにしましょう。

 

便潜血2日法の場合、検査当日を含む3日以内の便を提出します。

そのため、連続する3日間のうち1日1回・2日間の便をとる必要があります。

便秘がちで毎日は便通がないという方など、3日間で排便ができないときは、最初に取った便を冷蔵庫で保管しておきましょう。

室温が高いところへ便を保管しておくと、ヘモグロビンが変性(タンパク質の構造が壊れること)してしまい正しい結果が得られなくなります。便を冷蔵庫に保管することに抵抗がある方は、直射日光を避けた25℃以下の涼しい場所で保管します。

 

また女性の方は、生理中は採便できません。生理期間中に検査が重なる場合、生理終了後2~3日間を空けて検査を行うようにしてください。

 

 

検査結果の見方と内視鏡検査の判断について

 

検査結果には、陽性(+)か陰性(-)が記載されます。

 

陰性(-)であれば潜血反応なし、陽性(+)であれば潜血反応ありです。

 

もし結果が陽性だった場合は、大腸がんの恐れや下部消化管に何かしらの異常が発生していると考えられるので、速やかに大腸内視鏡検査を受けましょう。

 

潜血反応が出た場合、その原因として挙げられるのは大腸がんや大腸ポリープ以外に、痔や生理などでの出血です。痔を患っていると便の中に血液が混ざることがあります。また生理の経血や不正出血による混入も挙げられます。

 

便潜血検査の結果だけでは、具体的にどのような疾患が発生・進行しているのかまではわかりません。原因判明のためにも陽性反応が出た場合には、速やかに大腸内視鏡検査を受診することが大切です。