当クリニックで行う„癌„予防対策 No2. 胃がん

8月18日(火)

 

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ARCHIVE 2020年6月16日 改訂版

世界中が新型コロナに振り回されていますが、コロナを恐れるあまり足元をすくわれてしまうことがないようにしたいものです。

 

コロナの罹患者と比べてもダントツに多いのは、癌患者数です。

胃癌だけでも、日本では1年間に約13万5,000人(2016年、厚労省癌登録)が診断されています。そのうち約70%が65歳以上での発症です。若年者では減少傾向にあります。

 

わが国で作成された癌診療ガイドラインとしては「胃癌治療ガイドライン(第5版)」(2018、日本胃癌学会)、内視鏡的治療については日本消化器内視鏡学会、日本医癌学会が合同で作成した「胃癌に対するESD/EMRガイドライン」があります。欧米では胃癌の罹患数が少ないため、日本のガイドラインが世界をリードしています。

 

コロナパンデミックによって、少しずつ理解されるようになってきた事実は、「症状が無ければ健康である」とは言えないということだけでなく、「症状が無ければ病気ではない」とも言えないことです。これは<早期がん>も同じことです。

 

早期胃がんの多くは検診によって診断され、その場合には無症状である場合が多いです。進行すると腹痛、出血、狭窄に伴う経口摂取量の低下、体重減少などの症状が現れてきます。


胃癌全体の治療成績は改善していますが、これは検診などによる早期診断の普及による成果の影響が大きいからであると考えられています。

そして、延命治療が主体となるステージⅣ胃癌の予後は依然として不良です。


ステージⅠでは積極的に内視鏡的治療が導入されQOLが維持されています。しかし、残胃の新たな発癌には注意が必要であり、内視鏡検査によるフォローアップやヘリコバクター・ピロリの除菌など、さまざまな配慮が必要です。

これに対してステージⅣでは、今後は薬物治療の発展に伴い明らかに切除不能な症例において転移巣における完全寛解などを契機として、外科的切除に踏み切るケースが増える可能性があります。

また、外科医的に切除可能な遠隔転移については積極的に切除する可能性も考慮されるようになってきました。

 


予防と検診

 

1)予防

日本人を対象とした研究結果では、がん予防には禁煙、節度のある飲酒、バランスのよい食事、身体活動、適正な体形、感染予防が効果的といわれています。

胃がんのリスクを下げる一次予防としては、「塩分を抑えた食生活」と「ピロリ菌※1の除菌」の二つがあります。塩分の摂り過ぎ、特に塩辛い食品の食べ過ぎは胃がんリスクを向上させます。

 

とりわけ和食の味噌汁や漬物、塩辛などは塩分濃度が高いので注意が必要です。一日当たりの塩分は6g以下を目安に摂りすぎに注意しましょう。

 

また、胃がんの発症に深く関わるといわれているのが「ピロリ菌」です。検査でピロリ菌感染が判明した場合は、胃がんの罹患リスクが高まる可能性があるため、除去治療を行うことで発症リスクをある程度下げる可能性があります。ただし、ピロリ菌を除菌したからといって、リスクがゼロになるわけではありません。

 

除去後3年ほど経過すると、がんの発見率が再び増えるというデータもありますので、ピロリ菌を除去した後も定期的に胃がん検診を受診することが大切です。

特に下記のような方はピロリ菌感染が疑われる可能性がありますので、一度ピロリ菌検査を受けることをおすすめします。


胃潰瘍あるいは十二指腸潰瘍と診断された方

 

胃MALT(マルト)リンパ腫※2と診断された方

 

特発性血小板減少性紫斑病※3と診断された方

 

早期胃がんに対し内視鏡での治療を行った方

 

内視鏡検査で慢性萎縮性胃炎と診断された方


※1

正式名はヘリコバクター・ピロリ。胃や小腸に炎症および潰瘍を起こす細菌で、胃がんや悪性リンパ腫の一部の発生に関連していると考えられています。


※2 

悪性リンパ腫の一つで、血液細胞の中で細菌やウイルスに対処する白血球の一種・Bリンパ球の一部が増殖したものです。


※3

血小板減少の原因となる疾患・薬物などが認められずに血小板の減少をきたす出血性の疾患で、指定難病となっています。

 

2)検診

がん検診の目的は、がんを早期発見し、適切な治療を行うことで、がんによる死亡を減少させることです。わが国では、厚生労働省の「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針(平成28年一部改正)」で検診方法が定められています。

 

胃がんの検診方法として「効果がある」とされているのは「問診」に加え、「胃部X線検査」または「胃内視鏡検査」のいずれかです。男女ともに、50歳以上の方が対象となっています。検診の間隔は2年に1度※ですが、気になる症状があるときには、検診を待たずに医療機関を受診しましょう。


※当分の間、胃部X線検査は40歳以上、1年に1度の実施も可です。


なお、検診は、症状がない健康な人を対象に行われるものです。がんの診断や治療が終わったあとの診療としての検査は、ここでいう検診とは異なります。

 


1.胃がんについて

胃がんは、50歳代以降に罹患する人が多く、わが国のがんによる死亡原因の多くを占めるがんです。早期の胃がんは自覚症状がないことが多いですが、胃の痛み、不快感、食欲不振、食事がつかえるなどの症状がある場合には検診を受診せず、すぐに医療機関を受診する必要があります。

 

2.科学的根拠に基づく胃がん検診

 

1)胃がん検診の方法
胃がんの死亡率を減少させることが科学的に認められ、胃がん検診として推奨できる検診方法は「胃部X線検査」または「胃内視鏡検査」です。「ペプシノゲン検査」や「ヘリコバクターピロリ抗体検査」あるいはその併用検査等は、死亡率減少効果の有無を判断する証拠が現時点では不十分であるため、対策型検診(住民検診)として実施することは勧められていません。


(1)胃部X線検査
発泡剤(胃をふくらませる薬)とバリウム(造影剤)を飲み、胃の中の粘膜を観察する検査です。
バリウムを飲むことにより、便秘やバリウムが腸内で詰まって腸閉塞を起こすことがまれにあります。
過去にこの検査で問題があった方や、水分制限を受けている方は、検査を受ける前に医師にご相談ください。
検査当日は朝食が食べられません。
放射線被ばくによる健康被害はほとんどありません。

(2)胃内視鏡検査

 

 

3)胃がん検診の対象年齢
胃がん検診が推奨される年齢は50歳以上の健常者です。

 

4)胃がん検診の検診間隔
2年に1度定期的に受診することが推奨されています。

 

5)胃がん検診の精密検査
検診で「異常あり」という結果を受け取った場合は、必ず精密検査を受けてください。胃がん検診における一般的な精密検査は胃内視鏡検査です。

 

1次予防ががんの発症を抑えることを目的としているのに対し、2次予防とは、検診により、できるだけ早期の段階で病気を見つけ出すことを目的としています。

 

日本の胃がん検診は、2次予防として造影検査が盛んに行われ、内視鏡検査はおもに精密検査として位置づけられ進化してきました。

 

結果として、両検査の診断能・治療技術は世界でも最高水準に高められ、早期胃がんの5年生存率は95%以上に達しています。

 

平成21年度消化器がん検診全国集計によると、造影検査による胃がんの発見率は0.088%で、6,093,665人中5,359人に胃がんを発見できました。

 

この発見された胃がん症例の中には、精密検査で行う内視鏡検査により、検診の造影検査で指摘された所見とは異なる部位に発見される胃がんが相当数含まれています。

 

つまり、造影検査は胃がんを発見するだけでなく、発症リスクの高い症例を拾い上げていると予想されます。

 

本邦は、世界的に見て、胃がんの発症率・死亡率の極めて高いことが知られています。

 

発見時の胃がんの病期(進行の程度)がその後の生命予後と密接に関連していることから、早期発見・早期治療が強く求められてきました。

 

これまで日本では上部造影検査が胃がん検診の中核を担ってきました。

 

しかしながら、内視鏡検診による死亡率の減少効果を示した報告(2013年および2015年Hamashimaら)をもとに、平成28年(2016年)2月、厚生労働省は「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」において、消化管造影検査に加え内視鏡検査が胃がん検診の検査方法として認められました。

 

さらに、胃がん発症リスクの高い症例の拾い上げを胃がん検診に生かすため、血清ペプシノーゲン検査とHピロリ菌抗体検査を組み合わせた、ABC検診法を取り入れている自治体があります。

 

ABC検診の導入は、胃がん発症リスクを知ることで、消化管検査による胃がんの発見を効率化できるものと期待されます。

 

 

杉並国際クリニックにおける検査の実際

 

杉並国際クリニックで行っている胃がんの検査は造影エックス線テレビ透視撮影法で行っています。

ただし、その目的は、胃がん発見のためだけに行っているのではありません。胃の検査は、食道をはじめ十二指腸に至る上部消化管全体を調べることができます。

 

当クリニックで実施している胃X線造影検査は造影剤(バリウム)を飲んで、胃の中に病変があるかどうかをみる標準的な検査です。

バリウムを飲んだ後に胃を膨らませるため発泡剤を飲みます。撮影法には、

充盈法(じゅうえいほう:胃をバリウムで満たして撮影する)、

 

二重造影法(にじゅうぞうえいほう:空気とバリウムのX線吸収の差を利用して撮影する)、

 

圧迫法(あっぱくほう:バリウムが充盈された胃を圧迫して撮影する)などがあり、

これらのすべてを組み合わせて検査します。

 

その中でも二重造影法は、胃粘膜の模様を描出して診断します。

 

ただし、検診目的の胃X線造影検査でがんが見つかった場合は、内視鏡で精密検査を行うために医療連携先の東京警察病院等にご紹介いたします。

 

また、既にがんが診断されている場合に、がんの広がりや深さを診断するために精密検査として胃X線造影検査を行う場合もあります。

 

 

よくある質問
Q1.胃のバリウム検査の後、下剤だけではなく水分をたくさん摂るのはなぜですか

 

A1. バリウムが長時間腸内に残っていると大腸で水分が吸収され、だんだん硬くなり排泄が大変になってしまいます。
出来るだけ自然な排便を促すため、検査後はたくさんの水(水分)を飲んでいただいています。
 

とはいえ、日頃から便秘気味である方は少なくありません。そこで、当クリニックではセンノシド(プルゼニド®)という下剤を少量処方させていただいておりますが、これで不都合を生じた経験はこれまでの30年間で一例もありませんので、ご安心ください。

 

 

Q2. バリウムで胃の検査をするとゲップしたくなるのですが、がまんしなければなりませんか

 

A2. 極力がまんしていただくようお願いします。
バリウム検査時に使用している発泡剤という薬は、水と接触すると空気を発生し、胃を膨らませる働きがあります。
通常、胃はしぼんだ状態で、なおかつ内部は多くのひだで覆われおり、その中に埋もれている病変を露出させるために空気で胃を膨らませる必要があります。

 

ゲップにより空気が抜けて胃がしぼむと、病変を見つけることが難しくなってしまうため極力がまんしていただけるようお願いします。

 

 

Q3. ボタンの無い服を着て行ったのに着替えるのはなぜですか

 

A3. ボタンや金属が無ければ基本的に検査は出来ますが、検査や処置の内容によっては造影剤などが服に付いて汚れてしまう場合があります。そのため、汚れても良いように検査着に着替えをしていただいています。

 

わかりやすい臨床栄養学(第6版)189頁参照

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