アレルギー専門医が診る皮膚疾患  、薬疹・蕁麻疹・皮膚掻痒症

8月12日(水)

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慢性的な痒みは、日常生活、すなわち、睡眠、就業、学業などのすべてに大きく影響し、また精神的にも大きな負担になります。

 

したがって、これらの影響と負担を少しでも緩和できるようにすることが治療目標になることは言うまでもありません。

しかし、これに加えて、同時に大切なことは、痒みの原因となる潜在的な基礎疾患を発見する継続的な努力を忘れず、少しでも見落としを減らすという地道な方針を堅持することです。

 

慢性的な痒みを来す可能性のある皮膚粘膜疾患群の中から、原因が特定されているものから特定困難なものという観点から、薬疹・蕁麻疹・皮膚掻痒症という順に解説を試みることにします。

 

 

<薬疹>
薬疹は、比較的多い皮膚粘膜疾患です。薬疹とは、「経皮投与を除く全身投与により体内に摂取された薬剤自体またはその代謝産物の直接的作用ないし間接的作用によって誘導される皮膚粘膜病変」です。

 

原因薬の中止により速やかに軽快する軽症例が多くを占めますが、まれに原因薬を中止しても病勢が進行し、生命予後を脅かし、後遺症を残す可能性のあるタイプがあります。

 

スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)、中毒性表皮壊死融解症(TEN)、薬剤性過敏症症候群(DIHS)などは、こうした重症薬疹に含まれます。

 

近年、SJSとTENは病態の多くが共通し、オーバーラップ(SJS/TEN)することが明らかになってきました。を来すことがあります。

 

薬疹の発症機序には多様性があり、

①アレルギー機序、

②毒性によるもの、

③原因薬の薬理作用を反映するもの、

④免疫環境を変化させるもの、

などがあります。

 

この中で、アレルギー機序(①)によるものが狭義の薬疹とされ、原因薬の中止が必要なことが多いです。しかし、分子標的薬など作用機序を反映する薬疹(③)では、薬疹を治療しながら原因薬の継続が可能です。

 

軽症から中等症の通常の薬疹では生命予後は良好であり、後遺症の問題もありません。

これに対して特に注意を要するのは、急性期の皮疹が軽快した後も、SJS/TENでは眼や呼吸器の後遺症を残す可能性、DIHSでは感染症や自己免疫疾患などを続発する可能性があるということです。

 

これらのケースでは、その後も定期受診していただきます。いずれの場合でも、原因薬をお薬手帳などに記載して医療機関受診時に担当医に示し、自主的に再発防止に努めていただくことが必要です。

 

なお薬疹に関しては、奥が深いため、今後も、折に触れて取り上げていきたいと思います。

 

 

<蕁麻疹>
蕁麻疹は特定の薬剤や食物に対する過敏症として単回のみ発現するもの、特に明らかな誘因なく長期にわたって浮腫性紅斑や膨疹が出没するもの、特定の刺激によって繰り返し膨疹が誘発されるものまで種々の病型があります。

 

急性蕁麻疹に対して慢性蕁麻疹は難治症例の割合が大きくなります。わが国では「蕁麻疹診療ガイドライン」(改訂版)が2018年11月に公表されました。

 

原因不明の特発性蕁麻疹(急性蕁麻疹、慢性蕁麻疹)の場合、原因追及のために無計画に血液検査や特異的IgE検査をしても解決につながらないことが多いです。もっとも、検査で異常が見いだせないから特発性蕁麻疹というので当然のことになります。特発性蕁麻疹では非鎮静性の第二世代抗ヒスタミン薬を中心とした内服療法が治療の中心になります。そして、慢性蕁麻疹では軟膏等の外用療法は無効であるため内服療法で病勢を抑制することが最初の治療目標になります。刺激誘発型の蕁麻疹の場合、誘発刺激を確認するための各種の負荷試験が診断に有効ではあります。その場合、基本的には確認された誘発刺激をできるだけ避け、併せて非鎮静性の第二世代抗ヒスタミン薬による内服療法が軸となります。

皮膚科専門医に紹介すべきケースとしては、以下が挙げられています。
① 発症後概ね6週間以上経過し、なお病勢が軽快しない慢性蕁麻疹
② 血圧低下、強い腹痛、呼吸困難などを伴う場合
③ 堪えがたいほどの症状(重度かつ広範囲の浮腫性紅斑、膨疹、激しい掻痒)が頻繁に繰り返される場合
④ 出現パターンが不規則(膨疹が毎日規則的に出没を繰り返すのではない場合)を示す場合で、直接的誘因が明かにできない場合

しかしながら、上記のうち②は、皮膚科専門医がではなく救急医療に繋げるべきケースであり、急性期を過ぎた後も内科的観察が必要となるものと思われます。むしろ、すでに皮膚科を受診していて、上記①、③、④の理由で杉並国際クリニックに問い合わせてくる例が増えているのが現状です。

<皮膚掻痒症>
わが国では、汎発性皮膚掻痒症に関しての信頼に足る疫学情報は乏しいです。2012年に日本皮膚科学会から「皮膚掻痒症診療ガイドライン」が公表されています。皮膚掻痒症とは、皮膚病変が認められないにもかかわらず痒みを生じる疾患です。この疾患は皮膚に病変が存在しないにもかかわらず、スキンケアや保湿は薬物治療の効果を上げる上で重要であるため、すぐに効果がでなくても怠りなく続けることが大切です。しかしながら、どの治療が最も効果的か、根気よく、いろいろな薬剤や治療法を試みることになります。非常に難治な痒みでは単に皮膚科専門医を頼るばかりでなく、積極的に悪性腫瘍を含めた基礎疾患の検索するための内科その他の科の医師に委ねざるを得ないということになります。

皮膚掻痒症は症状のある部位の拡がり具合によって汎発性皮膚掻痒症と限局性皮膚掻痒症に大別できます。汎発性皮膚掻痒症で最もよく見られるのは加齢による乾皮症が原因と考えられるものです。その他の原因としては、内分泌・代謝疾患(糖尿病、腎不全、肝障害、甲状腺機能異常など)、血液疾患(ホジキンリンパ腫をはじめとする各種のリンパ腫、真性多血症など)、その他の悪性腫瘍、神経疾患(多発性硬化症など)があります。さらに、妊娠、薬剤、精神・心因性疾患(皮膚心身症)なども原因となります。しかしながら、これらの疾患で誘発される痒みは抗ヒスタミン薬の効果が限定的であり、痒みの機序の多くは不明であるといわざるを得ません。

比較的明らかなのは血液透析患者や慢性肝疾患患者の痒みであり、これらはオピオイド受容体を介した中枢性の痒みが関与しています。また、胆汁うっ滞に伴う痒みにおいてはLPAの関与が示唆されています。その他、神経支配領域に一致する痒みでは、脊椎から皮膚に至るいずれかの部位が圧迫されて生じると推測できるものがあります。

初診時に必要な検査:加齢によるドライスキン、慢性腎不全ないし透析患者、原発性胆汁性肝硬変(PBC)などのように原因が明かなものは特段の検査は不要です。しかし、受診までの経過や治療反応性の面からみて頑固な痒みが続いている患者では、スクリーニングとして一般血液検査、腎機能、肝機能、糖尿病、甲状腺機能などの内科的検査が必要です。

治療方法:①生活指導とスキンケア、②内服療法、③外用療法、④その他の治療があります。その他の治療には、狭域UVBなどの紫外線療法が有効なことがあります。ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液(ノイロトロピン®)やプラセンタの注射、各種選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)、ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA)などが選択肢として挙げられます。また、杉並国際クリニックならではの水氣道®による心身の鍛錬も長期経過を改善しています。

皮膚掻痒症は、わが国のガイドラインでは明らかな皮膚病変が無いのに痒みを訴えることから診断されるために、二次性皮膚病変であってもこれが認められる場合は、汎発性皮膚掻痒症とは診断されなくなります。これに対して、欧州のガイドラインでは、結節性痒疹は痒みと持続的掻破による二次的病変とされ、皮膚掻痒症に含めて考える立場であり、私も欧州の見解に賛成です。腎不全、糖尿病、肝不全などでは、痒疹、とくに結節性痒疹を伴っていることはしばしばですが、明らかな基礎疾患を見いだせない場合もあります。その場合であっても、外来加療経過中に原因疾患が明かになっていくことも少なくはありません。何らかの基礎疾患に起因するものでは、疾患の状態・病勢に左右され、また疲労度や精神状態やストレス強度などによって症状が変動することがあります。