内科医が診る代表的な泌尿器疾患、膀胱炎

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膀胱炎は代表的な尿路感染症で細菌による暴行粘膜の炎症です。

尿路感染症は、腎、尿管、膀胱、尿道に起こる非特異的炎症で、多くの場合、腸内細菌の上行性感染です。男性10~20%、女性50~60%に尿路感染症の既往があるとされ、頻度が高い疾患です。

そのため泌尿器科ばかりでなく内科で診療されることが多い疾患群です。

後述しますが、人口高齢化に伴い、内科的基礎疾患を有する複雑性膀胱炎が増加しているため、内科医はこれまで以上に膀胱炎の診療に対して責任を負わなくてはならない時代になってきたように思われます。

膀胱炎は適量の水分摂取と保温に努め、十分な休養を勧めることが基本ですが、抗菌薬の処方も不可欠です。ただし、近年では不適切な治療が問題になっています。

 

尿路感染症における薬剤耐性菌の増加は世界的な問題になっています。

主な原因菌であるグラム陰性菌におけるキノロン耐性、基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生の誘導が問題になっていることから、キノロン系、第3世代セファロスポリン系薬を第1選択薬にすることは避けるべきであるとされています。

 

これらを踏まえて、成人の膀胱炎に対する外来診療に関しては、日本では日本感染症学会(JAID)と日本化学療法学会(JSC)による「JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015」に示された最新の推奨治療法に準じて行うことが推奨されています。

 

急性単純性膀胱炎は、尿路や全身に基礎疾患のない尿路感染症です。

これを疑う臨床症状は、頻尿、排尿時痛、尿混濁が3大主徴とされます。

排尿時痛は排尿終末で強まることも特徴です。発熱はみられず、逆に発熱がみられる場合には腎盂腎炎の合併を疑います。

強い膀胱刺激症状がみられ、性的活動期の女性と閉経後の女性に好発します。

細菌感染が原因であるため抗菌化学療法で速やかに改善することが多いですが、その場合、決められた期間の内服が重要です。

その反面、再発する症例も散見されます。1割ほどの患者で治療が不成功となる可能性があるため、内服が終了する頃までには必ず再診し、治癒の確認が必要です。とくに、症状が改善しない、

あるいは悪化した場合、または発熱が生じた場合は早期に再診していただく必要があります。これに対して、発疹、下痢、外陰部の痒みが生じた場合は、内服を中止して早期に再診していただく必要があります。

 

特に、高円寺南診療所が杉並国際クリニックに改称し、外国人診療が本格化すると、性的活動期の女性の膀胱炎が増えてきました。

再発を繰り返す彼女たちの特徴として顕著なのは、パートナー共々入浴習慣がなく、せいぜい性行為の後にシャワーを浴びる程度であることが多いことに気が付きました。

毎日入浴する習慣のある日本人女性では急性単純性膀胱炎は少ないように感じられます。

 

これに対して、複雑性膀胱炎は、尿路の基礎疾患(尿路の先天異常、神経因性膀胱、前立腺肥大症、膀胱結石、膀胱癌など)や免疫系に障害を来す全身性疾患(糖尿病、ステロイド、抗ガン薬投与中など)に合併した膀胱炎です。

これらは小児から高齢者に至るすべての年齢層にみられ、男性にも発症することや慢性の臨床経過をたどることが特徴です。

 

再発性膀胱炎は、過去6カ月間で2回以上、または過去12カ月に3回以上の膀胱炎症状を認め、少なくとも1回は尿培養で確定診断されている状態を指します。

遺伝的に尿路上皮が大腸菌に対して親和性が高い患者が存在しますが、再発をするケースは限られています。

 

初診時に必要な検査は、①検尿、②尿沈渣、③尿培養です。かつては急性単純性膀胱炎の主たる原因菌が大腸菌であるため尿培養は必須ではありませんでしたが、最近では、大腸菌の薬剤耐性化が進行しているために必須となってきました。

初期治療において失敗する例が1割ほどありますが、その場合でも、あらかじめ尿培養によって薬剤感受性を調べておくことによって確実な二次治療が行えるというメリットは大きいです。

一方、複雑性膀胱炎においては抗菌薬投与前に必ず尿培養と④薬剤感受性検査を実施します。検尿で肉眼的血尿を伴い、上記のような臨床症状が乏しい場合は、悪性腫瘍も考慮して、スクリーニング検査として⑤腹部超音波検査、⑥尿細胞診を行う必要があります。

 

膀胱炎との鑑別が必要になる鑑別疾患は、膀胱炎と同様の膀胱刺激症状を来す疾患です。膀胱癌、膀胱結核、膀胱結石、過活動膀胱、間質性膀胱炎、出血性膀胱炎などがあります。

 

これらのうちで、過活動性膀胱は非細菌性膀胱炎であり、尿意切迫感(畜尿時に急激に生じる我慢できない尿意)を主症状とし、頻尿や切迫性尿失禁を伴う症候群です。

排尿日誌や過活動膀胱症状問診票が診断と管理のために有用です。

また出血性膀胱炎も非細菌性膀胱炎であり、多くはウイルス感染またはウイルス感染に伴うアレルギー性炎症です。その他の原因として、抗癌剤が知られています。

 

経過・予後について、急性単純性膀胱炎では抗菌薬の内服による治療が開始されれば、症状は数日以内で速やかに消失します。

再発を繰り返すこともありますが、一般的には良好な予後です。これに対して、慢性膀胱炎では基礎疾患の除去により治癒する例から、細菌尿が持続し再発・再燃を繰り返す例までさまざまです。

 

最後に、妊婦の急性単純性膀胱炎について注意点を挙げておきます。

妊婦においては無症候性細菌尿も積極的に治療すべきとされています。

ただし、妊娠中の抗菌剤投与に関する安全性は確立していないため、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ抗菌剤を投与することになっています。