内科医が診る代表的な泌尿器疾患、前立腺肥大症

8月4日(火)

 

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下部尿道の性差の際立った特徴として、男性には前立腺があり、前立腺肥大による排尿症状ならびに畜尿症状への影響が大きいことです。わが国では、2008年発行の「男性下部尿路症状診療ガイドライン」と2011年発行の「前立腺肥大症診療ガイドライン」を基盤とし、これらを合併する形で、2017年に「男性下部尿路症状・前立腺肥大症診療ガイドライン」が発行されました。

 

前立腺は、膀胱の尾側にあるクルミ大の臓器です。内部に尿道が貫通していますが、加齢とともに肥大し排尿困難を来すことがしばしばあり、これを前立腺肥大症と呼んでいます。

 

前立腺肥大症の病態には、前立腺肥大、腫大した前立腺による閉塞、下部尿路症状(LUTS)の3要素が関与するとされています。診療ガイドラインによる前立腺肥大症の定義としては、「前立腺の良性過形成による下部尿路機能障害を呈する疾患」とし、付帯的状況として、「通常は前立腺腫大と膀胱出口部閉塞を示唆する下部尿路症状を伴う」と定めています。

 

前立腺肥大症を疑う症状としては、尿勢低下や尿線狭小などの排尿症状の他に、頻尿や尿意切迫感などの畜尿症状にも注意するひつようがあります。

 

診断のためには国際前立腺症状スコア(IPSS)が有用です。これは前立腺肥大症に伴う下部尿路症状7項目の頻度(0~5)を患者さん自身に記載してもらいます。合計点数により軽症、中等症、重症に分類します。ただし、前立腺肥大症では畜尿症状の合併が多いため、これに加えて、過活動膀胱症状スコア(OABSS)を使用します。

 

国際前立腺スコア

 

過活動膀胱症状スコア

 

 

残尿測定は、排尿直後の残尿量を測定する検査です。超音波検査は低侵襲のため、残尿量測定に頻用されています。残尿量は個人においても変動するため、複数回の実施が推奨されています。その際には併せて前立腺の容量も測定するようにしています。残尿量が100mL以上であれば、泌尿器科専門医に紹介することになります。

 

排尿日誌も有用です。計量カップを除き特別な機器や費用を必要としないので、頻尿を訴える患者さん、とりわけ夜間頻尿が主症状の場合には今後はさらに積極的に実施していただこうと考えています。1回排尿量、排尿した時間を連続で24時間記録していただきます。ただし、日によって排尿状態は変化し得るので3日以上記録していただくようにします。また、高齢者では夜間多尿指数(夜間尿量/24時間尿量)が0.33以上であれば夜間多尿と診断します。

 

確定診断は、他の疾患が否定され、超音波検査で前立腺肥大が認められ、下部尿路症状があれば、前立腺肥大症に伴う下部尿路症状と診断します。ただし、前立腺が形態的に肥大していなくても、平滑筋が収縮して尿道を圧迫する症例(機能的閉塞)もあります。

 

治療方法としては薬物療法など保存的治療で十分な改善が得られない場合には手術療法を考慮します。

 

薬物療法で安定している場合は定期的な外来管理の際に、尿検査や症状質問票、残用測定などを適宜施行します。新たな薬剤を開始したり変更したりした場合には2週間後の再診とし、症状の変化の確認ならびに必要に応じて残用測定や排尿記録などを確認します。