内科医が診る代表的な泌尿器疾患、男性下部尿路症状(LUTS)

8月1日(月)

 

 

男性下部尿路症状(LUTS)とは、排尿症状(尿を出すときの症状)、畜尿症状(尿を溜めるときの症状)、排尿後症状などを包括して用いられる用語であり、さまざまな症状を含んでいます。

 

LUTSは非常に頻度が高い疾患であるため内科医が初期対応する機会が多くなってきました。わが国におけるLUTSの罹患率は、2003年の住民ベース(40歳以上)の疫学調査では、

男性では夜間頻尿(1回以上:71.7%)、昼間頻尿(8回以上:51.7%)、尿勢低下(週1回以上:37%)、残尿感(週1回以上:26.3%)、尿意切迫感(週1回以上:15.8%)、切迫性尿失禁(週1回以上:7.3%)の順でした。

 

LUTSの中で最も生活に影響を及ぼしていたのは、男性では夜間頻尿であり、この症状は加齢とともに生活への悪影響は大きくなっていきます。

治療の目標は、排尿に関する困窮度を軽減することに尽きるのですが、その前提としては、癌など生命に関わる疾患の可能性を除外することに努めなければなりません。

 

 

男性下部尿路症状(LUTS)の診断:

全症例に行う基本評価と症例を選択して行う選択評価の二段階で実施しています。基本評価には、

①症状と病歴の聴取、

②CMI健康調査票、

③身体所見、

④尿検査、

⑤血清クレアチニンおよび血清PSA測定を行います。

 

また、選択評価としては、

①排尿記録、

②残尿測定、

③尿培養、

④尿細胞診、

⑤前立腺超音波検査

などがあります。

 

 

鑑別疾患としては、感染症(膀胱炎、前立腺炎、尿道炎)や膀胱結石症、膀胱癌など多岐にわたります。そのため尿検査、超音波検査でスクリーニングを行うことは大切です。

もし、結石や膀胱癌が疑われた場合や血清PSAが高値の場合は、泌尿器科専門医に紹介して、膀胱協検査やCTなどの画像検査で精査します。

 

管理・治療の目標:LUTSは患者本人がその症状に困っていなければ治療対象にはなりません。

しばしば、相談を受けるのは夜間尿ですが、夜間に1回だけであれば病的ではないことを伝えると安心していただける場合が少なくありません。

また、夜間2回排尿のために起きることがあっても、本人がまったく困っていなければ、通常の場合、治療の対象とはしません。ただし、排尿障害に起因する合併症の可能性が高い場合には予防策を講じることになります。

 

LUTSの治療方法:

治療は

①行動療法、

②薬物療法、

③手術療法、その他

に別けられます。

 

泌尿器科が専門でないにもかかわらず杉並国際クリニックでLUTSの症例が多いのは、画像診断として超音波検査を有効に駆使できることと、心療内科専門指導医として行動療法に対する専門的なサポートを実施していること、などが挙げられます。

しかも、行動療法は薬物療法を始める前に広く適応されるべきであるとされていますが、実際には泌尿器科専門医でさえ必ずしもその通りには行われていないようです。

 

LUTSの行動療法には、生活指導、骨盤底筋訓練、膀胱訓練、物理的刺激療法などが含まれます。生活指導とそしては、一般的に運動や食事指導、禁煙は推奨グレードではCですが、長期的には大切な要素だと考えます。

たとえば肥満者であれば食事指導による減量はガイドラインでは推奨Aとなっていて改善効果が明かです。

夜間多尿があれば適切な生活指導を考慮する他、心身医学的アプローチを選択します。

骨盤底筋体操は過活動膀胱に対しては推奨グレードBです。

畜尿症状の改善のためには統合的な行動療法は推奨グレードBです。

運動の推奨グレードはCとされますが、この場合の運動は陸上での運動を前提としたものです。水氣道®のような水中での立位歩行運動により受ける水圧を利用できる運動は各種の陸上での運動より明らかな改善効果を観察しています。

なお、物理的刺激療法としては電気や磁気が用いられていますが、鍼灸も物理的刺激療法に含まれます。したがって、鍼灸療法の活用をもっと普及させてもよいのではないかと考えています。

 

なおLUTSと関連が深い前立腺肥大症については明日のテーマとします。