労働衛生コンサルタント(産業医)として、職場ストレス関連の突然死予防を語る ④

7月30日(木)

 

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昨今の産業医の役割の拡がりと重要性について
産業医は医師免許を有した上で、特定の条件を満たすことで産業医として認定されます。
そのため実に高度な専門知識を持ち合わせていることになります。
そして近年産業医の存在は必要不可欠になっています。

我々の仕事内容に責任がかかり、業務に負担がかかればその分、産業医に与えられる役割と重要性はより増してくるでしょう。

 

 

産業医の役割

まず事業所の労働者の人数が50人を超えた時点で14日以内に、産業医を選任する必要があります。産業医設置の条件を満たしているにも関わらず、定められた期間内に設置していなければ処罰の対象になるので注意が必要です。

それだけ産業医の存在は重大で、必要ということでもあるでしょう。

 

産業医の主な役割は、労働者たちの健康管理です。
とくに現代社会において長時間労働は大きな社会問題になっています。

 

その長時間労働の対策や改善指導をすることや、労働者たちの健康管理をすることも産業医の役割になります。

 

<ここで産業医の役割について、改めてざっくり見てみましょう。>

 

 

【従業員との面談】

まず産業医は、長時間労働者や過重労働者と面談することが義務付けられています。そして同時に希望者がいれば、面談をする必要があります。

面談を通じて労働者の異変や問題に気付くこともあるでしょう。
同時に企業に対し、問題改善のための指導や対策法を助言することもしていきます。

 

 

【職場の巡回】

定期的に職場巡回をすることも産業医の大切な役割です。

職場巡視をしながらチェックリストを作成します。
仮に何か問題があると判断すればすぐに指摘をし、改善点があれば指導をしていきます。

事業所内で重大な事故が起こらないためにも巡回は大切です。
特に危険業務が伴う事業所では、この巡回がとても重要になってくるでしょう。

 


【健康診断結果のチェック】

労働者の健康診断結果のチェックをすることも専門的知識を持つ産業医の仕事です。

有所見者がいれば情報収集や面談をしていきます。
必要とあれば医療機関の受診を促し、就業制限が必要と判断すれば検討をしていきます。

 

 

【ストレスチェック】
産業医はストレスチェックの計画から実施まで携わる必要があります。

ここで高ストレスと判断された労働者が発生したら、対応をしていき必要に応じて面談をします。場合によっては就業制限の検討もしていきます。

 

 

【健康指導・保健指導】
健康指導や保健指導が必要な労働者に対して、産業医は面談を通じて指導をします。

この際適切な指導をすれば、労働者の健康状態の改善が見込まれるでしょう。

 

 

【休職者への対応】
休職者への対応も産業医の大切な業務内容です。必要に応じて面談をし、復職を望んだ場合は復職できる状態かどうかしっかり判断をします。

 

 

【衛生委員会への参加】
産業医は衛生委員会へ参加をし、アドバイスをする必要があります。
また議事録への署名捺印をする必要があります。しかし委員会参加は強制ではありません。産業医が参加できなかった場合は後日、議事録にしっかり目を通す必要があります。

 

 

【衛生講話】
会社側から希望があれば、産業医は希望に沿った内容の講和をしていきます。
労働者に向けた研修で講和をすることもあれば、衛生委員会の中で講和をすることもあります。

 

 

産業医が重要な理由

それではどうして産業医が重要になってくるのでしょうか。
その理由について見ていきましょう。

 

 

【専門知識がある⁉】
産業医は医学的な専門知識を有していることになっています。しかし、実際には産業医の質にもよります。産業医の資格は、その気になった医師であればだれでも取得できる資格であるため、最低限度の質を保証することはできません。
いずれにしても、産業医の資格を維持するためには、更新のための講習会に参加する必要があるため、永年にわたり産業医資格を維持している医師は勤勉で誠実であることは期待できそうです。そして、実際に労働者の健康管理や職場の安全対策において重要なポジションに就いています。

 

労働者の健康状態に異変が生じればいち早く察知し、適切な指導やアドバイスをすることは大事なポイントです。しかも危険業務が伴う事業所であれば、重大な問題に繋がる状態が放置されていてはいけません。職場巡視で内部をくまなくチェックし、少しの問題点も見逃さずキャッチすることが大切です。職場の安全や労働者の健康を守るためには、このような業務の重要性を認識している産業医は重要な存在であり、労働衛生に無関心な臨床医ではとても務まりません。

 

 

従業員と企業を救う産業医ならではの医療行為

産業医の医療行為は、従業員を救うことが期待できますが、それはどういったものなのか、見ていきましょう。

 

その1:従業員の心の支えになる

人間は1人では生きていくことはできず、特に心の支えになる人物がいることは、生きていく上で大切になるでしょう。労働者にとって会社や仕事はストレスを抱えやすい場面で、同時に相談もしにくいかもしれません。
会社の悩みは会社の人物に相談すればより的確なアドバイスをもらえるかもしれませんが、社内の人物に相談することは、なかなか困難を極めるかもしれません。
悩みを溜めこんでおくと思わぬ健康被害が発生することがあるため、信頼できる誰かに悩みを打ち明けることで気持ちが楽になるでしょう。社内の状況をある程度把握している産業医であれば専門的視点から特に、従業員に寄り添った対応ができる産業医であればそれだけ、従業員の心の支えになるでしょう。それと同時に職場に対して直接的に意見や勧告もできる産業医としての医療行為の一環としての助言やアドバイスをもらえることができ従業員を救うことが期待できます。

 

産業医に相談できることは仕事に限ったことでなく、家庭の悩みやその他、相談しづらい話があれば面談の時間を設けて相談することも可能です。相談することで思わぬ助言やアドバイスをもらうことができ、問題解決に向けて動き始めるかもしれません。

 

その2:健康経営に取り組める

企業は労働者なくして成り立つことはできません。労働者の健康管理は大切で、労働者の健康に配慮することにより、企業の経営面においても成果が期待できるでしょう。

企業側が健康管理を経営的視点から考え実践することが大切で、こういった考えや実践が健康経営を意味します。勤務内容が激烈な企業であればそれだけ1人1人の負担が増加し、気付かぬ内に労働者たちの健康が蝕まれているケースもあるでしょう。また、1人の労働者の不調は他の労働者にも思わぬ影響を及ぼし、不調者が増えるという負の連鎖を引き起こす可能性もあります。そこでは当然、健康経営において、こういったことはあってはならないことといえるでしょう。企業内部で労働者の健康状態を把握した上で、状況改善をすることができれば理想的ですが、実際それを実現することは困難を極めることになるでしょう。 そこで、健康経営の実現に貢献を期待できるのが、産業医です。

 

産業医は健康経営に貢献するため、労働者たちの健康管理や面談をする役割があります。産業医が専門的立場から、面談や健康指導などの産業医業務をすることで、健康経営の実現を図ることができるでしょう。産業医との面談が必要な労働者は面談を通じ、助言やアドバイスをいただくことが大切です。同時に事業所側も、労働者の負担やストレスを軽減させるため、業務に関する工夫や改善をすることが大切になるでしょう。

 

そのためにも産業医の意見を聞き、問題改善に向けて働きかけることが大切です。

 

 

【メンタル問題に対応】

古くから塵肺や珪肺症などの職業病に対しては呼吸器内科医が、現場の労災事故等の内容から整形外科医が、また過労死に関しては循環器内科医としてのバックグラウンドをもつ産業医が活躍していますが、現代社会はメンタル問題が急浮上し、重要視されています。特にメンタル問題はあなどってはいけません。日本人の場合には、メンタル不調を訴えることが、まだ少なく、ストレスが身体化したり、メンタル問題を抱えて大きな病気に発展してしまったりする労働者もいれば、悲しいことに尊い命を絶ってしまった労働者も存在します。

 

そのような問題を引き起こしてしまわないためにも、心療内科や精神科のバックグラウンドをもつ産業医の存在はますます重要になってきています。

 

今後の産業医はメンタル問題やストレス関連疾患、心身症などに対して適切な指導をしていくことが大切です。