労働衛生コンサルタント(産業医)として、職場ストレス関連の突然死予防を語る ①

7月27日(月)     

 

産業医とは何者か?

 

私が産業医について書くのは、私自身が産業医資格をもっているからばかりではなく、職業関連不調の患者さんがご自分の職場に「産業医」が置かれていることを全く知らない方がほとんどであるからです。そして、最近では企業の産業医から、従業員を当クリニックに紹介を受けることも増えてきたからです。

 

以下の文書の出典は、厚生労働省のファイルです。少し、うんざりするかも知れませんが、役所の文章は法律に則って厳密に表記せざるを得ないことも確かです。そのため少しだけ辛抱してお読みいただければ、と存じます。

 

厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署

 

文書についてのご質問は、最寄りの都道府県労働局又は労働基準監督署、もしくは杉並国際クリニックまでお問合せください。

 

産業医について ~その役割を知ってもらうために~

 

●事業者の皆様へ

職場において労働者の健康管理等を効果的に行うためには、医学に関する専門的な知識が不可欠なことから、常時 50 人以上の労働者を使用する事業場においては、事業者は、産業医を選任し、労働者の健康管理等を行わせなければならないこととなっています。

 

産業医を選任することで・・

・労働者の健康管理に役立ちます

・衛生教育などを通じ職場の健康意識が向上します。

・職場における作業環境の管理などについて助言が受けられます。

 

→ 健康で活力ある職場づくりに大きく役立ちます。

 

コメント:

産業医を選任することが企業にとってメリットがあるかどうかは必ずしも保証できません。それは、産業医の能力や、企業がどれだけ労働者を大切にし、かつ、労働者の健康管理の向上が、企業の業績の向上に直接結びつくことについての理解の程度にもよるからです。
産業医の仕事は三管理といって、1)労働者の健康管理、2)労働者の作業管理、3)労働者の作業環境管理がそれにあたります。小規模零細医療機関等では、院長(管理者)である医師が産業医の役割を兼ねることがほとんどです。そして、職員の健康管理が杜撰であるならば、医療機関としての社会的責任を果たせなくなることは言うまでもありません。しかし、それは、医療機関に限ったことではなく普遍的な真理だと思われます。

 

 

① 産業医の選任

 

事 業 者 は 、 事 業 場 の 規 模 に 応 じ て 、 以 下 の 人 数 の 産 業 医 を 選 任 し 、 労 働 者 の 健康管理等を行わせなければなりません。

 

(1)労働者数 50 人以上 3,000 人以下の規模の事業場 ・・・ 1名以上選任

 

(2)労働者数 3,001 人以上の規模の事業場 ・・・ 2名以上選任
また、常時 1,000 人以上の労働者を使用する事業場と、次に掲げる業務(※)に常時 500 人以上の労働者を従事させる事業場では、その事業場に専属の産業医を選任しなければなりません。
※労働安全衛生規則第 13 条第 1 項第 2 号

 

イ 多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務

 

ロ 多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務

 

ハ ラジウム放射線、エツクス線その他の有害放射線にさらされる業務

 

ニ 土石、獣毛等のじんあい又は粉末を著しく飛散する場所における業務

 

ホ 異常気圧下における業務

 

ヘ さく岩機、鋲打機等の使用によつて、身体に著しい振動を与える業務

 

ト 重量物の取扱い等重激な業務

 

チ ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務

 

リ 坑内における業務

 

ヌ 深夜業を含む業務

 

ル 水銀、砒素、黄りん、弗化水素酸、塩酸、硝酸、硫酸、青酸、か性アルカリ、石炭酸その他これらに準ずる有害物を取り扱う業務

 

ヲ 鉛、水銀、クロム、砒素、黄りん、弗化水素、塩素、塩酸、硝酸、亜硫酸、硫酸、一酸化炭素、二硫化炭素、青酸、ベンゼン、アニリンその他これらに準ずる有害物のガス、蒸気又は粉じんを発散する場所における業務

 

ワ 病原体によつて汚染のおそれが著しい業務

 

カ その他厚生労働大臣が定める業務

 

コメント:

上記のリストは業務や職場環境の多様性を示すものです。上記のうち、Covid-19関連のキーワードとなるのは、ヌの深夜業、ワの病原体ですが、これらに十分対応できている産業医は少ないのではないかと思われます。それから現在、ますます比重が大きくなってきているのがホワイトカラー職場についてのストレスマネジメント等ですが、このリストには触れられていません。

 

② 産業医の要件

産業医は、医師であって、以下のいずれかの要件を備えた者から選任しなければなりませ ん。

 

(1) 厚生労働大臣の指定する者(日本医師会、産業医科大学)が行う研修を修了した

 

(2) 産業医の養成課程を設置している産業医科大学その他の大学で、厚生労働大臣が指   
定するものにおいて当該過程を修めて卒業し、その大学が行う実習を履修した者

(3)労働衛生コンサルタント試験に合格した者で、その試験区分が保健衛生である者

 

(4)大学において労働衛生に関する科目を担当する教授、准教授、常勤講師又はこれらの経験者

 

コメント:

杉並国際クリニックの飯嶋は産業医資格を保持しています。最初は、上記の(2)のコースで日本医師会認定産業医資格を取得しました。これは講習会に出席して単位を取得すれば一切の試験なしで取得可能な資格です。飯嶋は、宇都宮のホテルに連泊し、自治医科大学で受講したことを懐かしく思い出しました。情けない話ですが、連日の過労による影響で授業の半分以上を居眠りしていたことを記憶しています。その後、産業医資格を得ただけでは理解した実感を得られなかったため、(3)労働衛生コンサルタント(保健衛生)の国家試験(筆記試験・面接試験)を受験、幸いに合格できたため労働衛生コンサルタントに登録したため、産業医の資格維持のために、更新のための講習会に出席しなくとも済むようになりました。

 

 

③ 産業医の職務

産業医は、以下のような職務を行うこととされています。

 

(1) 健康診断、面接指導等の実施及びその結果に基づく労働者の健康を保持するための措 置、作業環境の維持管理、作業の管理等労働者の健康管理に関すること。

 

(2) 健康教育、健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るための措置に関すること。

 

(3) 労働衛生教育に関すること。

 

(4) 労働者の健康障害の原因の調査及び再発防止のための措置に関すること。
   

 

抽象的な表現なのでわかりにくいと思います。そこで、これらを、より具体的に説明してみることにします。

 

【産業医の主な業務】

・労働者と面談
産業医の大切な業務の1つが、労働者との面談になります。面談対応の労働者は、面談を通じて産業医から様々な指導や助言をもらいます。面談対象となる労働者は、長時間労働者や高ストレス者など、産業医が面談を必要と判断した者となりますが、希望をすれば産業医と面談をすることが可能です。面談を通じ、医療機関の受診が必要と判断した労働者に対し、医療機関の紹介を行う場合もあります。また、休職者や復職希望者も産業医と面談を通じ、現状報告をしながら適切な指導や助言をもらい、必要に応じて復職指導も受けます。

 

・健康診断結果のチェック

健康診断結果で所見有りと記された労働者に対し、産業医は就業可能か否か、就業制限の必要があるかといった判断をし、必要に応じて意見書を作成します。また産業医は、健康診断結果報告書に捺印をする必要もあるため、健康管理をする上で健康診断結果のチェックは大切な業務の1つになります。

 

・事業所の巡視

事業所の安全管理や状況改善のため、産業医による定期的な巡視が義務付けられています。事業所で問題点が発見された場合、改善に向けての適切な指導や助言を事業所側に行います。

 

・ストレスチェックの実施

2015年より年1度の実施が義務付けられたストレスチェックにおいて、計画や実施、事後措置に産業医が携わります。高ストレスと判断された従業員は後日、産業医と面談する必要があります。過労死などの突然死を予防するうえでも産業医によるストレスチェックは欠かせない業務になってきました。

 

・衛生委員会の参加
月に1回事業所で開催される衛生委員会に出席することも産業医の役割で、不参加の場合、作成された議事録に目を通す必要があります。

 

・衛生講話
産業医に対し企業から衛生講話の希望が出た場合、衛生委員会や職場研修などの場で講話を行います。
産業医は、労働者の健康を確保するため必要があると認めるときは、事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告をすることができます。また、産業医は、少なくとも毎月1回作業場等を巡視し、作業方法又は衛生状態に有害のおそれがあるときは、直ちに、労働者の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならないこととなっています。

 

 

産業医がみつからないときは・・

・健康診断を実施している機関に産業医の資格を有した医師がいて、かつ、他の事業場での産業医活動が可能な場合がありますので、相談してみてください。

 

・親会社等に産業医がいる場合は、その方を産業医に選任できるか相談してみてください。

 

 

● 労働者数 50 人未満の事業場については、産業医の選任義務はありませんが、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識を有する医師等に、労働者の健康管理等の全部又は一部を行わせるように努めなければならないこととされています。