7月24日(金)
過敏性腸症候群(IBS)は、頻度が高く、QOL障害が強い疾患です。推定で6~14%程度の有病率です。有病率は女性で1.6倍高く、加齢とともに減少する傾向があります。
IBSには国際的な診断基準としてRomeⅣ基準(2016年改訂)があります。わが国では現在、日本消化器病学会から発表された「機能性消化管疾患ガイドライン2014-過敏性腸症候群(IBS)」の他、2017年には関連研究会が発表した「慢性便秘症診療ガイドライン」が発表され、そこには便秘型過敏性腸症候群(IBS-C)に関してのエビデンスが盛り込まれています。
ガイドラインではIBSの定義は、「代表的な機能性腸疾患であり、腹痛あるいは腹部不快感とそれに関連する便通異常が慢性、もしくは再発性に持続する状態」としています。
過去3カ月間、少なくとも週に1日以上、「腹痛」が繰り返し起こり、下記の2項目以上があること、
1. 症状と排便が関連している。
2. 排便頻度の変化で始まる。
3. 便形状(外観)の変化で始まる。
6カ月以上の長い期間にわたって、腹痛や便通異常を繰り返す症例で、排便によって腹痛が軽減し、血便や発熱、器質的疾患を疑うような理学所見を認めない症例で、最近3カ月間は上記の基準を満たしている場合IBSが疑われます。
IBSの確定診断がついた場合には便性状の割合によって4病型に分類されます。
① 便秘型IBS(IBS-C)
② 下痢型IBS(IBS-D)
③ 混合型IBS(IBS-M)
④ 分類不能型IBS(IBS-I)
IBSの病態は、十分に解明されていない点も多い中で、消化管運動異常、内臓知覚過敏および心理的異常が神経伝達物質や内分泌物質を介して相互に影響し合う、いわゆる心身相関が病態の中心と考えられています。
代表的な心理異常としては、うつや不安があり、うつ病と不安症がIBS発症のリスク要因であることが報告されています。
また近年、腸内細菌の研究が進み、IBSの病態に腸内細菌・粘膜炎症が関与することが解明されてきました。
急性胃腸炎罹患後にIBSを発症する、感染性腸炎後IBSが注目されています。
これは腸炎自体は治癒したにもかかわらず、腹痛や便通異常などのIBS症状が持続します。ストレス、うつ、身体化傾向、60歳未満、女性、喫煙などが発症リスクとされます。
IBSの初診時に行う検査は、末梢血、血液生化学検査、炎症反応、TSH、尿一般検査、便潜血検査、腹部単純X線検査などを行います。
貧血や便潜血陽性などの所見があれば大腸検査を手配します。
また、腹痛の原因として膵疾患等が疑われる場合には、杉並国際クリニックでは、腹部超音波検査なども必要に応じて追加します。
警告症状、徴候(註1)や危険因子(註2)がなく、初診時の検査異常が指摘されなかった症例および大腸検査で器質的疾患が否定された症例について、RomeⅣ基準に準じてIBSの診断を行います。
(註1)
警告症状、徴候:発熱、関節痛、血便、6カ月以内の予期せぬ3㎏以上の体重減少、異常な身体所見
(註2)
危険因子:50歳以上での発症、大腸器質的疾患の既往歴または家族歴
IBSの治療は段階的に行なわれます。
準備段階:
①診療内容に関して医師が十分な説明を行うことで、良好な医師―患者関係を構築する。
②食事指導・生活習慣指導を行う炭水化物、油脂、アルコール、コーヒー、香辛料を控える。低FODMAPダイエット(註1)(フルクタン、ガラクタン、ポリオール、果糖、乳糖などの糖類を含む食品の制限)、不規則な生活などを認める場合には、良好な睡眠、休養など生活改善指導を行う。
(註1)
低FODMAPダイエット:フォッドマップ食事法(FODMAP)のフルネームは「Fermentable、Oligo-、Di-、Mono-saccaharides and Polyols」で、「発酵性のオリゴ糖、2糖類、単糖類、ポリオール」という意味です。
過敏性腸症候群の人はこの発酵性のある炭水化物が短時間に体内で発酵し、小腸でうまく吸収されない可能性があります。腸管内の水分量や浸透圧が変わることで、小腸や大腸の腸管が不具合をおこし、過敏性腸症候群の原因になっているという考えに基づいています。
FODMAP食事法とは、FODMAPの摂取をまず1~2週間ごく最小限にします。その後、少しずつ摂取を開始していき、お腹の不調を起こす食品があるかを探っていきます。
果糖不耐症の場合
【フルクトース(果糖)が多いもの】
過剰な果糖含有食(ハチミツなど)、りんご、マンゴ、梨、フルーツの缶詰など
乳糖不耐症の場合
【ラクトース(乳頭)が多いもの】
牛乳、チーズ、ヨーグルト、アイスクリームなど
【フルクタン・イヌリン・ガラクタン(オリゴ糖)が多いもの】
高フルクタン含有食(玉ねぎ、にんにく、グリーンピース、ブロッコリ、小麦など)
高オリゴ糖含有食(ひよこ豆、レンズ豆など)
【糖アルコール・ポリオールが多いもの】
さくらんぼ、プラム、アボガド、
ポリオール甘味物(添加物キシリトール、ソルビトール、マンニトールなど)
第1段階:
薬物療法を行なう。
プロバイオティクス(ビフィズス菌、乳酸菌、酪酸菌製剤など)や高分子重合体であるポリカルボフィルカルシウム(ポリフル®)などは病型にかかわらず有効。
オピアト作動薬トリメプチンマレイン酸(セレキノン®)、ペパーミントオイル。
その他は病型分類および優勢症状に合わせた薬剤選択を行う。
① 便秘型IBS(IBS-C)では、
緩下剤(酸化マグネシウムなど)の下剤を用いる。
IBS-Cは痙攣型便秘であるため、刺激性下剤(センナ、ラキソベロン®)は避ける。
近年、粘膜上皮機能変容薬として、以下の薬剤の処方が可能となった。
ルビプロストン(アミティーザ®):慢性便秘症が適応
リナクロチド(リンゼス®):腹痛を伴う便秘に有効
② 下痢型IBS(IBS-D)では、
ロペラミド(ロペミン®):止痢薬
5-HT₃拮抗薬のラモセトロン塩酸塩(イリボー®):腹痛を伴なう下痢に有効などを用いる。
③ 腹痛優位の症例では、
抗コリン薬(ブスコパン®)を併用する。禁忌を確認する。
④ 自律神経失調症が疑われる場合には、
トフィゾパム(グランダキシン®)
⑤ 機能性ディスペプシア合併例には
オピアト作動薬トリメプチンマレイン酸(セレキノン®)
これらの治療を8週間行っても無効な場合には第2段階へ移行し、中枢機能の調整を含む治療を行う。
第2段階:
ストレスや心理的異常の評価を行い、それらを認めない場合には再度器質的疾患の除外を行う。
① 便秘型IBS(IBS-C)では、消化管運動賦活薬(5-HT₄刺激薬)、漢方薬(小建中湯、桂枝加芍薬湯、六君子湯など)、抗アレルギー薬(エバステル®など)の併用
② 内臓知覚過敏・腹痛・抑うつを伴う症例では、抗うつ薬(三環系、SSRI)の併用
③ 不安を伴う症例では、抗不安薬の投与(依存に注意)
④ 不安抑うつを伴う症例では、簡易精神療法(ストレスマネジメントなど)
これらの治療を8週間行っても無効な場合には第3段階へ移行する。
第3段階:
中等症~重症例を対象とする。消化管運動異常や内臓知覚過敏についての精査やストレス、心理的異常の更なる評価、鑑別診断、心身医学療法が含まれる 。自律訓練法・漸進性筋弛緩法・行動療法・鍼灸療法・水氣道®・聖楽療法など
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