心療内科指導医<消化器心身症>を語る、胃食道逆流症No3<NERDの治療・管理>

7月22日(水)

 

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GERDの合併症としては、貧血、出血、食道狭窄、バレット食道および食道腺癌が挙げられますが、これらはNERDではなく、重症REに認められます。いずれにしても、GERD治療がこれらのリスクを抑制するエビデンスはなく、癌発生の抑制手段は明らかでないのが現状です。

 

NERDの治療の第一選択薬はPPI(註1)です。ただし、保険適応となる4週間を限度とする通常量のPPI投与での症状消失率は20%に過ぎません。倍量投与の治療(保険外)に変更することを試みた報告がありますが、それでも症状改善が認められませんでした。これらはNERDの病態が胃酸曝露によるものだけでは説明できず、心身医学的療法が必要になる可能性があることを示唆しています。

 

(註1) PPI:

プロトンポンプ阻害薬の略称で、上部消化管疾患治療薬(消化性潰瘍治療薬など)に分類されています。強い酸分泌抑制作用をもち、日中・夜間を問わず酸分泌を確実に抑制するという特徴をもっています。現在、オメプラゾール(オメプラール®、オメプラゾン®)、ランソプラゾール(タケプロン®)、ラベプラゾール(パリエット®)朝・夕食前用、エソメプラゾール(ネキシウム®)朝食前用、ボノプラザン(タケキャブ®)朝食後用の5系統が用いられています。

 

 

ガイドラインでは、8週間の標準量PPI治療に対して効果がみられない症例を治療抵抗性GERDと定義しています。その場合の方策は、1)PPI製剤の変更、2)PPI製剤の倍量投与(保険外)、3)消化管運動賦活薬(註2)の併用を試みます。

 

(註2)消化管運動賦活薬:

機能性ディスペプシア(FD)治療薬であり、胃内容の排出異常を改善するアセチルコリン作動薬、ドパミン受容体作動薬、オピアト作動薬、セロトニン(5-HT₄)受容体作動薬、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬、健胃薬などに分類されます。

 

 

それでも改善が認められない場合は食道運動異常や機能性胸やけなどの機能性食道疾患の存在を疑い漢方薬(註3)を処方します。鍼灸療法をはじめ自律訓練法や漸進性筋弛緩法などのリラクゼーション、水氣道®、聖楽院でのボイストレーニングなども有効です。

ガイドラインでは高解像度食道内圧測定や24時間pHインピーダンスモニタリングといった病態評価を行うことが推奨されています。ただし、こうしたいずれの検査も行うことが可能な施設は限られているのが現状であり、治療抵抗例についてはこうした検査が可能な専門医療機関へ紹介することになります。

しかしながら、30年に及ぶ外来診療において専門病院での特殊検査依頼を必要とした例は一件もありませんでした。治療抵抗例はただちに治療不能例を意味しないということです。

 

(註3)漢方薬:

六君子湯、半夏厚朴湯、茯苓飲などが有効とされますが、杉並国際クリニックでは、新型コロナウイルス予防対策を兼ねて玉弊風散(ぎょくへいふうさん)をベースに香砂六君子湯(こうしゃりっくんしとう)もしくは柴芍六君子湯(さいしゃくりっくんしとう)あるいは夏場であれば生脈散(しょうみゃくさん)の組み合わせを推奨しています。

 

 

 

再診の間隔として適切なのは、臨床的には、治療効果や経過観察の判定を行うために2週間ごととしますが、安定してくれば、次第に3~4週間隔での管理も可能になります。

杉並国際クリニックでの方法は、症例数の多いNERDに関しては内視鏡検査で粘膜欠損を認めないため、年1回程度の上部消化管(食道・胃・十二指腸)の造影X線テレビ検査を行います。上部消化管全体の運動機能をX線透視により確認することが有用であると考えているからです。

 

投薬中止の目安の判断は、消化性潰瘍と同様に難しく、十分なエビデンスはありません。そこで、およそ6カ月~1年の症状消失持続を確認したのち、PPI投与量を漸減し、最終的に中止にむけて調整していきます。しかし、GERDは、治療中止によって再燃し、症状を繰り返し得る慢性疾患です。ですから、症状が再燃した際には必ず再診していただくことにしています。GERDは、幸いに致死的な疾患ではないのですが、長い期間付き合っていく疾患であるということを、しっかりと受け止めていただくことが効果的な管理のためのコツであるといえるでしょう。