心療内科指導医<消化器心身症>を語る、胃食道逆流症No2<NERDの診断手続き>

7月21日(火) 

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胃食道逆流症(GERD)の代表的な定義は「胃内容物の食道への逆流によって生じる不快な症状や合併症」(モントリオール定義)とされます。そしてガイドラインでは「胃内容物(酸もしくは非酸)の食道への逆流によって生じる不快な粘膜障害」とされ、それにもかかわらず粘膜欠損を伴なわないGERDを非びらん性GERD(NERD)に分類されることは昨日説明しました。

 

NERD罹患者の30~50%は食道内過剰曝露時間が正常であり、酸分泌を抑制するプロトンポンプ阻害薬(PPI)を投与しても半数に対してしか効果が無いことと対応しています。そのためNERDでは、症状の原因として酸以外の因子が想定され、その一つは食道知覚過敏が考えられています。

 

胸やけを主訴とする方の初診時には問診表による初期診断が有用です。杉並国際クリニックでは<FSSG(Fスケール)>という問診票で症状の頻度や程度を定量化することができるので、治療効果の判定にもこれを利用しています。

 

GERDの患者さんでは、すでに治療が開始されてから当方を受診される方が多いので、その場合はREの治癒課程なのかGERDなのかの区別は困難になります。しかも、自覚症状と食道粘膜障害の内視鏡的重症度は必ずしも相関しません。さらに、胃酸逆流を調べる検査である食道pHモニタリング(わが国での普及率は低い検査です)の結果と症状との相関も高くありません。これらの事実は、「胸やけ」症状の発現を単純に酸逆流の頻度のみで解釈することが困難であることを意味します。そこで、GERDとくにNERDでは、鑑別診断手続きが重要になります。

 

なおGERDには鑑別すべき疾患を除外する目的での臨床検査はありますが、GERD自体を確定診断するための検査項目はありません。

 

GERDのおもな食道症状は胸やけ、逆流などに限られています。胸やけの場合には機
能性胸やけなどの機能性食道疾患が鑑別疾患になります。この他、やや特殊な例ですが好酸球性食道炎という疾患があります。食道由来と考えられる症状があり食道粘膜に、縦走溝や輪状溝、白斑などを認め、同部位の生検組織に好酸球浸潤を認めるものです。

 

これに対して、鑑別すべき食道外症状は多彩です。しかし、

<呼吸器症状>慢性咳嗽、喘息などが代表的ですが、咳喘息、感冒後咳嗽、呼吸器感染症、肺癌などが鑑別疾患になります。

 

<耳鼻科的症状>咽頭痛、咽頭違和感などが代表的ですが、咽喉頭感染症、咽喉頭腫瘍などが鑑別疾患です。

 

<循環器症状>胸痛などでは、GERD以外の機能性食道疾患や食道運動異常、食道破裂、狭心症などの心疾患、気胸などの呼吸器疾患、胸部の筋骨格系疾患、胸膜・心膜系疾患、精神疾患などが鑑別すべき疾患となります。

 

GERD治療の目標は、症状の消失した状態を保ち、生活の質(QOL)を改善させると
ともに合併症の発症予防を行うことにあります。そして、症状の完全な消失を得ることはQOLの観点からも重要です。症状消失によってQOLが健常人同等かそれ以上にすることを達成できることもあります。週に1回以上の症状の出現はQOLに悪影響を与えます。また、夜間の酸逆流は睡眠障害やNCCP(註)の誘因となることがあり、夜間の胸やけは最も大きなQOL低下の原因になっています。
 
 

(註)NCCP (non-cardiac chest pain)とは、心臓由来以外の胸痛の総称です。NCCPの中で最も頻度が高いのは、胃食道逆流症(gastro-esophageal reflex disease: GERD)や食道運動障害を含む、食道疾患です。欧米ではNCCPの4割がGERDであったとの報告があります。