特集:シリーズ『新型コロナウイルス罹患者の体験から学ぼう』症例11:医療従事者 非正規雇用 今も続く不安… ③

6月22日(月)

 

症例11(その4)


第4節:今も続く症状 シングルマザーで生活の不安も
女性は4月から別の病院で正社員として働く予定だったが、今も新しい職場に行くことができていない

 


(検査で陰性となり)退院してからも入院する前も37度5分以下の微熱(註:この方の平熱はどの位だったのでしょうか?喘息があるとのことですので、ひょっとしたら低体温かもしれません。その場合37.5℃以下でも、立派な発熱です。一律に37.5℃と決めてしまうあたりが、公衆衛生的・行政的な対応ですが、予防でなく発症している患者さんに対しては、臨床的に個別具体的な基準が必要であると考えます。)なんですね。

微熱はずーっと継続して続いています。朝下がっていても夕方上がってくるということが毎日繰り返され(註:体温は日内変動がありますが、日内格差は1℃以内です。発熱と解熱を繰り返す場合は、最低でも1日2回検温しておくことをお勧めします。この方の場合、体温の日内格差は1℃を超えていた可能性があります。)ていて、あとは咳とたんはずっと続いて(註:気管支喘息という基礎疾患がある場合は、治療が十分でないと咳や痰が続くことはありますが、知識のある看護師として標準的な治療を続けていたものと仮定すると、急性期の呼吸器感染症の合併を積極的に疑うべきケースです。)いますし、頭痛ですね、頭痛はもうずっと続いていますね。

強弱はあるんですけども、強くなると強烈な刺すような痛みで、本当に動けなくなってしまうくらいの痛み(註:たしかにとても恐ろしいことです。髄膜炎や脳炎の兆しである場合があります。コロナ対策常備薬第二弾その3の『柴葛解肌湯』が効くタイプです。喘息合併例にも好都合です。)が起きるのでとても怖いです。


新しい職場もとても困っていまして、「症状がある状態では出てこないでくれ」ということなんですけど、どうも5月1日に厚労省の基準で、「発症してから2週間後は感染しないので職場復帰可能」ということが出されているんですけど、ちょっと今の段階では私の場合は(新しい職場に)受け入れられそうもないですし、私自身も今働けるほど元気に動き回れるような状態ではないですね。


職場のほうも待ってくださっているんですけど、まだ働き始めてもいない人をいつまで待ち続けてくれるのかっていうところはすごく不安ですね。

女性はシングルマザーで、20代の子ども2人がいる。生活の不安が膨らんでいる
いつになったら熱が下がって症状がなくなるのか(註:心因性発熱の可能性も考慮した方が良いでしょう。まじめで責任感の強い医療従事者にもしばしばみられます。発熱というよりは、ストレス性高体温症というべき病態であるため、高熱には至らないことがほとんどです。炎症反応が見られず、解熱剤も無効です。社会復帰のためには心身医学的アプローチが有用です。)このまま後遺症もなく治るのかというところもめどがたっていないので、不安なまま(註:不安が持続して、さらに社会的支援が得られないと、自己効力感が低下して、うつ状態・うつ病をもたらしてしまうことがあります。)でいます。


長男は今、東京におりますけども、コロナのご時世で職がなくなってしまったりしているので、いろいろ助けてあげたいと思っても助けてあげられなかったりするので、そういったところではやっぱり心配ですし。


強い頭痛で脳梗塞とか起きたときにどのようになるのかな(註:この方に『地竜』の服用をお勧めしたいです。頭痛を伴う熱に有効な上に、抗血栓作用があるため、脳梗塞の予防にもなります。その結果、不安や憂鬱感も緩和することがあるからです。)と。私が亡くなってしまうと、子どもの学費とか残ってしまうので、そのあたりのこともとても不安です。


契約社員だったものですから余計に、そのあとの保障がないんですね。会社で罹患したわけですけど、その後の生活の保障がなにもないということになると、とても怖いなと思います。


(5月5日取材社会部 間野まりえ)


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「血が通っていない行政」と言って体制批判をするだけでは解決には結びつきません。それ以上に、「心を失い兼ねない医療」こそ残念に思われます。政府・自治体をはじめ感染症エキスパート集団は、まず、死者を極力減らすことが究極の目標になることは、ある意味で已むを得なかったのかもしれません。今回、残念なのは、発病後に回復過程にある人々の社会復帰に向けての心理的・社会的サポートが不備であったことです。


早期の経済復興を図ることと感染拡大を防止することの兼ね合いが求められるとする政治指針は、言い換えれば、経済を優先させるために、その分、生命や健康の安全の保障を犠牲にすることを巧みに言い換えているに他なりません。もし、それがギリギリの国是だとすれば、経済を再興させる原動力となる回復者を手厚く支援すべきでありましょう。要は、歴史に学び、経験を生かすことによって、今後予測される第二波、第三波に備えるためにも心療内科の専門医はその役割を十分に果たすべきではないかと思います。


この度のパンデミックにおいて、漢方や心療内科の専門医は、余りにも消極的過ぎたのではないかと思います。感染症に罹患した多くの日本人は、身体症状にのみ捉われて警戒するためか、自分たちが抱える精神的ストレスの大きさに気が付くことが出来ないように思えます。その結果、いたずらに貴重な免疫力を損ない、易感染性、易発症性、重症・重篤化を招き、死のリスクを高めてしまったのではないかと残念に思っています。そうした患者さんの多くは、直接精神科の門を叩くことは少ないのに対して、身体科であるストレス内科医ともいうべき心療内科医がかかりつけ医であったら、容易に相談できたかもしれません。


私は漢方専門医であり、同時に心療内科の指導医として、コロナパンデミックで多くの貴重な経験をしています。とくに、日本心療内科学会の次期評議員の一人として、ドイツ心身医学会の指導医と共に、私たちが果たすべき役割、あるいは活躍できたであろう役割について意見を交換し、今後の世界の人々のために有意義な提言を続け、同時に現場で実践していかなければ、という思いを新たにしています。
最後に、この価値ある優れたインタビューをされた看護師の女性と取材者の間野まりえさんに感謝します。

 

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