特集:シリーズ『新型コロナウイルス罹患者の体験から学ぼう』症例11:医療従事者 非正規雇用 今も続く不安… ②

6月20日(土)


症例11(その2)

 

前回はこちら

 

第2節:壁になったPCR検査の“目安”

 

女性は4日たっても症状が治まらなかったため保健所の「帰国者・接触者相談センター」に連絡をした

 

「37度5分以上で4日間」(註:この基準の出所はどこなのでしょうか。加藤厚労大臣は、後になって「保健所と国民の誤解だ」との驚くべき発言をしました!)というのが出されていたので、4日間、自宅待機して保健所に連絡したんですけど、「37度5分を超えてないから」と言われまして。

ぜんそくもあったんで、(註:もし、気管支喘息の標準的治療を続けておられたのかどうかの情報は不明です。副腎皮質ステロイドの吸入剤を使っていたとすれば、むしろ有利だった可能性があります。私は、感冒様症状が出現してもステロイド吸入は中断しないように指導してきましたが、結果的に正解だったように思われます。)それもお伝えしたんですけど、対象外(註:保健所のこうした判断は、あくまでも行政判断であって、臨床医学的判断ではないことを知っておくべきでしょう。行政判断は、臨床医学的妥当性の有無など一顧だにしないのが現実なのです。)だということで検査に至らなかったんですね。


2週間たっても改善しなかったため、女性は再び連絡した

 

最初はもうちょっと様子をみてみようと思ったんですね。薬もないということで、微熱だったので静かにしてれば良くなるかもしれないという気持ちでいたんですけど、ぜんそくがあったりするせいもあって、どんどん咳が強くなっていきまして。

2週間たっても良くならず、夜中も眠れないくらいの咳になっていたので、もう一度保健所に連絡したんですけど、また対象外ということで、37度5分を超えていないということで断られました。

憤りを感じましたね。保健所の職員の方が「苦しいなら、かかりつけ医にかかってください」と言われたので、なんのための保健所、帰国者・接触者センターなのか(註:私が代わりに答えましょう。センターは相談者のための臨床施設であると考えてはなりません。その目的は、個人の診断や治療にあるのではなく、疫学的データを集めることにあります。つまり、行政目的です。行政の政策決定のためのデータを集めるための施設に過ぎないのです。)わかりません。というのをすごく感じました。

 

結果的にはかかりつけの先生が強く「検査するように」と(保健所に)言ってくださって検査する運びになった(註:それでも中野区・練馬区や都下の保健所よりはまともなようです!中野在住の患者さんからの相談に対して、患者さん自身に中野保健所に問い合わせていただいたところ、杉並国際クリニックではなく、中野区内の医療機関を受診するように指示されたとの、あり得ない話は一生忘れられない事件です。)んですけど。


いつもと違う状態だというのは、かかった私本人が一番分かっているわけですよね。医療職でもあるので多少の知識もありますので。そのあたりを訴えてもシャットアウトされてしまうというのは、ちょっとどういうことかなと感じました。

 

コメント

私は次女から「開業医は特攻隊ね!」と言われて、なるほど、と思いました。しかし、患者の皆様のご理解とご協力と多少の戦略・戦術によって、実際には特攻出撃をせずに医療業務を継続できたことは本当に幸運だったと思います。私は、時と場合によっては、行政の指示を待たずに自分の責任で危機を脱出する方略を考えて実行しているので、決して特攻隊にも奴隷にもなりません。なぜならば、特攻隊や奴隷状態のままの医療は、医療であって医療ではないと考えるからです。


本当の特攻隊員にさせられてしまったのは、この看護師のような方なのだと思います。この方は看護師としての使命感と責任感によって、現場から逃避せずに戦ってきたのです。それにもかかわらず、行政も含めて、所属の組織も、世間も、そのような彼女を誰も救おうとはしないばかりか、理不尽な対応によって、彼女の医療職としての誇りも人格も否定してしまったに等しい仕打ちをしていることを忘れてはならないと思います。私は勤勉で使命感に満ちた人々を苦しめるような社会には未来がないと思います。そして誠実で勤勉な患者さんや医療従事者を守れるような医療を担っていきたいと願っています。

 

<明日へ続く>