6月16日(火)
日本では1年間に約13万5,000人(2016年、厚労省癌登録)が胃がんと診断されています。そのうち約70%が65歳以上での発症です。若年者では減少傾向にあります。
わが国で作成された癌診療ガイドラインとしては「胃癌治療ガイドライン(第5版)」(2018、日本胃癌学会)、内視鏡的治療については日本消化器内視鏡学会、日本医癌学会が合同で作成した「胃癌に対するESD/EMRガイドライン」があります。欧米では胃癌の罹患数が少ないため、日本のガイドラインが世界をリードしています。
早期胃がんの多くは検診によって診断され、その場合には無症状である場合が多いです。進行すると腹痛、出血、狭窄に伴う経口摂取量の低下、体重減少などの症状が現れてきます。
胃癌全体の治療成績は改善していますが、これは検診などによる早期診断の普及による成果の影響が大きいからであると考えられています。そして、延命治療が主体となるステージⅣ胃癌の予後は依然として不良です。
ステージⅠでは積極的に内視鏡的治療が導入されQOLが維持されています。しかし、残胃の新たな発癌には注意が必要であり、1)内視鏡検査によるフォローアップやヘリコバクター・ピロリの除菌など、さまざまな配慮が必要です。
ステージⅡ/Ⅲに対する手術療法においては切除・郭清範囲の拡大ではなく、合併症発生率の低減が求められており、補助化学療法の進歩に伴い治療成績の改善が期待されます。
ステージⅣでも、今後は薬物治療の発展に伴い明らかに切除不能な症例において転移巣における完全寛解などを契機として、外科的切除に踏み切るケースが増える可能性があります。また、外科医的に切除可能な遠隔転移については積極的に切除する可能性も考慮されるようになってきました。
予防と検診
1)予防
日本人を対象とした研究結果では、がん予防には禁煙、節度のある飲酒、バランスのよい食事、身体活動、適正な体形、感染予防が効果的といわれています。
胃がんのリスクを下げる一次予防としては、「塩分を抑えた食生活」と「ピロリ菌※1の除菌」の二つがあります。塩分の摂り過ぎ、特に塩辛い食品の食べ過ぎは胃がんリスクを向上させます。とりわけ和食の味噌汁や漬物、塩辛などは塩分濃度が高いので注意が必要です。一日当たりの塩分は6g以下を目安に摂りすぎに注意しましょう。
また、胃がんの発症に深く関わるといわれているのが「ピロリ菌」です。検査でピロリ菌感染が判明した場合は、胃がんの罹患リスクが高まる可能性があるため、除去治療を行うことで発症リスクをある程度下げる可能性があります。ただし、ピロリ菌を除菌したからといって、リスクがゼロになるわけではありません。除去後3年ほど経過すると、がんの発見率が再び増えるというデータもありますので、ピロリ菌を除去した後も定期的に胃がん検診を受診することが大切です。
特に下記のような方はピロリ菌感染が疑われる可能性がありますので、一度ピロリ菌検査を受けることをおすすめします。
胃潰瘍あるいは十二指腸潰瘍と診断された方
胃MALT(マルト)リンパ腫※2と診断された方
特発性血小板減少性紫斑病※3と診断された方
早期胃がんに対し内視鏡での治療を行った方
内視鏡検査で慢性萎縮性胃炎と診断された方
※1正式名はヘリコバクター・ピロリ。胃や小腸に炎症および潰瘍を起こす細菌で、胃がんや悪性リンパ腫の一部の発生に関連していると考えられています。
※2 悪性リンパ腫の一つで、血液細胞の中で細菌やウイルスに対処する白血球の一種・Bリンパ球の一部が増殖したものです。
※3 血小板減少の原因となる疾患・薬物などが認められずに血小板の減少をきたす出血性の疾患で、指定難病となっています。
2)検診
がん検診の目的は、がんを早期発見し、適切な治療を行うことで、がんによる死亡を減少させることです。わが国では、厚生労働省の「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針(平成28年一部改正)」で検診方法が定められています。
胃がんの検診方法として「効果がある」とされているのは「問診」に加え、「胃部X線検査」または「胃内視鏡検査」のいずれかです。男女ともに、50歳以上の方が対象となっています。検診の間隔は2年に1度※ですが、気になる症状があるときには、検診を待たずに医療機関を受診しましょう。
※当分の間、胃部X線検査は40歳以上、1年に1度の実施も可です
なお、検診は、症状がない健康な人を対象に行われるものです。がんの診断や治療が終わったあとの診療としての検査は、ここでいう検診とは異なります。
1.胃がんについて
胃がんは、50歳代以降に罹患する人が多く、わが国のがんによる死亡原因の多くを占めるがんです。早期の胃がんは自覚症状がないことが多いですが、胃の痛み、不快感、食欲不振、食事がつかえるなどの症状がある場合には検診を受診せず、すぐに医療機関を受診する必要があります。
2.科学的根拠に基づく胃がん検診
1)胃がん検診の方法
胃がんの死亡率を減少させることが科学的に認められ、胃がん検診として推奨できる検診方法は「胃部X線検査」または「胃内視鏡検査」です。「ペプシノゲン検査」や「ヘリコバクターピロリ抗体検査」あるいはその併用検査等は、死亡率減少効果の有無を判断する証拠が現時点では不十分であるため、対策型検診(住民検診)として実施することは勧められていません。
(1)胃部X線検査
発泡剤(胃をふくらませる薬)とバリウム(造影剤)を飲み、胃の中の粘膜を観察する検査です。
バリウムを飲むことにより、便秘やバリウムが腸内で詰まって腸閉塞を起こすことがまれにあります。
過去にこの検査で問題があった方や、水分制限を受けている方は、検査を受ける前に医師にご相談ください。
検査当日は朝食が食べられません。
放射線被ばくによる健康被害はほとんどありません。
(2)胃内視鏡検査
2)胃がん検診の対象年齢
胃がん検診が推奨される年齢は50歳以上の健常者です。
3)胃がん検診の検診間隔
2年に1度定期的に受診することが推奨されています。
4)胃がん検診の精密検査
検診で「異常あり」という結果を受け取った場合は、必ず精密検査を受けてください。胃がん検診における一般的な精密検査は胃内視鏡検査です。
わかりやすい臨床栄養学(第6版)189頁参照
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