消化管の癌(食道・胃・大腸)の予防:食道がんの予防

6月15日(月)


食道がんは高齢者に比較的多い疾患で、罹患年齢のピークは70歳代です。がん腫別では日本人男性で7番目位に多い疾患で、近年、罹患率は上昇傾向です。2017年の食道がんによる死亡は1万1,568人で、悪性新生物による死亡の3.1%を占め、人口10万対の年齢調整死亡率は男性7.4、女性1.2でした。

 

食道がんの発生部位は、日本食道学会の全国調査によると、胸部中部食道が約半数を占め、胸部下部食道がそれに次ぐ頻度です。組織型は、扁平上皮癌が約90%と圧倒的に多く、他に腺癌が4%程度とされます。わが国での日常診療では日本食道学会のガイドラインが用いられています。

 

がんを予防する方法を検証するために、がん予防の臨床試験が実施されています。
特定の種類のがんのリスクを低下させる方法を検証するために、がん予防の臨床試験が実施されています。

がん予防の臨床試験の中には、今はがんではないけれども、がんのリスクが高い健康な人を対象に実施されるものがあります。

その他の予防試験として、すでにがんになったことがあり、同じ種類のがん(異時性多発食道がん)の再発を予防しようとする人、あるいは新たな種類のがんが発生する可能性を減らそうとする人を対象に実施されるものがあります。

さらに、がんのリスク因子があるかどうか分からない健康な志願者を対象に実施される試験もあります。


一部のがん予防の臨床試験の目的は、何らかの行動によってがんを予防できるかどうかを検証することです。こうした行動には、果物や野菜が豊富な食事、運動、禁煙の他、特定の医薬品、ビタミン、ミネラル、栄養補助食品の摂取などがあります。

 

厚生労働省研究班の調査(註1)から、野菜と果物を多く食べる人ほど、食道がん(日本人に多い扁平上皮がん)のリスクが低いことが分かってきました。 あまり野菜や果物を食べない人(1日170グラム以下)と比較すると、よく食べる人(1日540グラム以上)は、食道がんのリスクが約半分(52%)と大幅に低下します。また、野菜や果物を100グラム多く取るごとに、リスクが10%ずつ低下するという結果も出ています。


(註1)

厚生労働省研究班「多目的コホート研究」。日本各地の45歳~74歳の男性約39000人を対象とした追跡調査。2008年8月発表。野菜・果物の中でも、十字花科の野菜(キャベツ、大根、小松菜など)は、リスクを低減する効果が高いことも分かりました。これらの野菜に含まれるイソチオシアネートという成分に、制がん作用があるためと考えられています(註2)。ただし野菜だけ、あるいは果物だけを食べるよりも、野菜と果物の両方を多く食べるほうが、より効果的なので、バランスよく取るようにしましょう。


(註2)

イソチオシアネートは、大根の辛み成分としてもよく知られています。大根の繊維が壊れることで発生するので、細く切ったり、大根おろしにしたりすると増えます。ただし揮発性物質なので、時間がたつほど揮発および酸化によって成分は減少します。大根の千切りサラダや大根おろしは、食べる直前に調理しましょう。
 野菜・果物による効果は、飲酒や喫煙習慣のある人にもみられます。同調査によると、毎日2合以上のアルコールを飲み、タバコも吸う人は、リスクが7.67倍になります。しかし、野菜や果物を多く取ることで、リスクは2.86倍にまで低下します。ですから飲酒・喫煙習慣のある人でも、野菜・果物を多く取ることが大切だといえます。ただし、飲酒と喫煙習慣は、それ自体が食道がんのリスクを高める要因であることを忘れてはなりません。
参照:わかりやすい臨床栄養学(第6版)<三共出版>189頁

 

 

食道がんの危険因子は、食道扁平上皮癌に関しては飲酒と喫煙です。しかも、この両方に暴露されることで発癌リスクが上昇するとされています。したがって、飲酒歴もしくは喫煙歴を有する患者では、消化管スクリーニング時に食道の観察をより慎重に行うべきであるとする意見があります。

 


リスクを高める飲酒と喫煙


食道がんの最大のリスクは、過度の飲酒と喫煙です。
アルコールを飲むと、私たちの体内ではアセトアルデヒドという発がん性物質ができます。特にアルコールを飲んだときに顔が赤くなる人は、アセトアルデヒドの影響を受けやすい体質なので、注意が必要です。


また、タバコを吸うと活性酸素が多く発生し、細胞のがん化を促進します。
では、飲酒や喫煙によって、食道がんのリスクがどれくらい高くなるのかについてはさまざまな調査があります。一例を挙げると「飲酒も喫煙もしない人のリスクを1」とした場合、「毎日1.5合以上のお酒を飲む人のリスクは約12倍」、「毎日20本以上タバコを吸う人のリスクは約5倍」になります。さらにその両方の習慣がある人のリスクは、実に33倍にも及びます(愛知県がんセンターのHP掲載データなど)。逆を考えれば、それだけに食道がんの予防には、まずアルコールの飲みすぎと喫煙の習慣をやめることが非常に大切だといえます。また、熱すぎる飲み物も、食道に炎症を起こす原因となり、食道がんのリスクの一因となります。日本茶にせよコーヒーや紅茶にせよ、熱々のままよりは、少し冷ましてから、慌てずに落ち着いて少しずつゆっくり飲むようにしましょう。

 

治療後の残存食道における異時性多発食道がんばかりでなく異時性重複がんにも細心の注意を払う必要があるとされます。食道がんのリスク因子である喫煙、飲酒は、同時に頭頚部がんのリスク因子です。したがって、術後フォローの上部消化管内視鏡検査においては、咽頭観察を十分に行い早期発見に努めることがとても重要です。

 

診断・治療成績の向上に伴い治療後の予後にも変化が見られます。内視鏡治療後の5年生存率は86.2%ですが、手術切除例全体では55.9%とされています。食道がんでは病期によって予後については著しく異なります。


cStage0…88.6%
cStageⅠ…76.8%
cStageⅡ…62.7%
cStageⅢ…41.2%
cStageⅣa…22.6%
cStageⅣb…20.0%

 

 

以下のリスク因子は、食道扁平上皮がんのリスクを増加させます
喫煙と飲酒: 数件の研究によると、多量の喫煙や飲酒を行っている人では食道扁平上皮がんのリスクが高くなります。

 

以下の防御因子は、食道扁平上皮がんのリスクを低下させる可能性があります
禁煙と禁酒:数件の研究によると、タバコを吸ったりアルコールを飲んだりしない人では食道扁平上皮がんのリスクが低くなります。


非ステロイド性抗炎症薬による化学予防 :とは、がんのリスクを低下させるために、薬物やビタミンなどの物質を使用することです。非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)には、アスピリンなどの腫れや痛みを抑える薬剤があります。数件の研究によると、NSAIDを用いることで、 食道扁平上皮がんのリスクが低下する可能性があります。しかし、NSAIDの使用は、心臓発作、心不全、脳卒中、胃や腸における出血、腎臓障害などのリスクを高めます。


以下のリスク因子は、食道腺がんのリスクを増加させます
胃逆流:道腺がんは、胃食道逆流症(GERD)に強く関係していて、特にGERDが長期にわたって持続し、重い症状が毎日発生する場合に顕著です。GERDは、胃酸などの胃の内容物が食道下部に逆流してしまう病態です。

この刺激により食道内部が荒れ、徐々に食道下部の内側を覆う細胞に変化が生じる場合があります。細胞にこうした変化が起きた状態は、バレット食道と呼ばれます。後に、変化した細胞がさらに異常な細胞に置き換わり、食道腺がんに進行することがあります。GERDと肥満が重なると、食道腺がんのリスクがさらに高まる可能性があります。下部食道括約筋を弛緩させる薬剤の使用により、GERDが発生する可能性が高くなることがあります。下部食道括約筋が弛緩すると、胃酸が食道下部に逆流できるようになります。

手術などの治療法で胃内容物の逆流を防止することで、食道腺がんのリスクが低下するかどうかは不明です。手術や薬物治療によりバレット食道にならないようにできるか検証するために、臨床試験が実施されています。

 

食道のラジオ波焼灼術:道下部に異常な細胞が認められるバレット食道の患者さんは、ラジオ波焼灼術による治療を受けることがあります。

この手術では、ラジオ波を用いて、がんになる可能性がある異常な細胞を加熱し破壊します。ラジオ波焼灼術を使用するリスクには、食道の狭窄や、食道、胃、腸からの出血などがあります。1件の研究で、食道に異常な細胞が見られるバレット食道の患者さんを対象として、ラジオ波焼灼術を受けた患者さんとそうでない患者さんが比較されました。

ラジオ波焼灼術を受けた患者さんは、食道がんの診断を受けることがより少ないという結果が得られました。こうした病態の患者さんに対するラジオ波焼灼術が食道腺がんのリスクを低下させるかどうかを明らかにするには、さらなる研究が必要です。

 

<明日へ続く>