炎症の視点から診る各種の呼吸器疾患No4

肺結核

 

肺結核は、結核菌による感染症です。結核は2類感染症に分類されるため、診断した医師は直ちに発生届を最寄りの保健所に届けなければなりません。

 

日本の結核登録率(罹患率)は、人口10万対12.3(2018年)まで低下しましたが、低蔓延国とされる人口10万人対10にはまだ達していません。初回塗抹陽性肺結核患者の治癒・治療完了率は63.4%(2017)です。近年は外国生まれの結核患者が増加し、1,667人(2018年)で、新登録結核患者に占める割合は10.7%です。

 

WHOはDOTS(直接観察下短期化学療法)戦略を提唱(1995年)しました。

DOTSは「発見した喀痰塗抹陽性肺結核患者の85%以上を治す」ことを目標とする包括的な結核対策です。

日本版DOTSは、日本の実情に合わせたもので、行政と医療機関が協力し、結核治療を支援する体制をとっています。

外来患者に適用される地域DOTSの実施率は87.5%(2013年)になっています。

 

わが国の結核対策のなかで重要なのは、潜在性結核感染症(註1)の診断と治療です。

潜在性結核感染症であった場合、免疫抑制状態にある患者(HIV感染症、臓器移植、慢性腎不全・血液透析、糖尿病、生物学的製剤による治療)は、活動性結核を発症するリスクが高いです。

 (註1)

潜在性結核感染症:結核に感染しているが活動性結核を発病していない状態を潜在性結核感染症といいます。また、最近2年以内に結核患者と接触し、結核に感染した者も同様に扱われます。

 

2週間以上持続する咳がある場合は、結核を鑑別診断として挙げなければならないことになっています。

肺癌、肺炎・肺真菌症、肺非結核性抗酸菌症などが主な鑑別疾患です。

しかしながら、この症状は肺結核に特異的な症状ではないため、ほとんどの場合は結核以外の原因によるものです。

また、肺病変があっても、自覚症状に乏しい場合もありますが、食欲不振、全身倦怠感、体重減少などの症状があった場合は、しっかりと結核を疑わなければなりません。

 

診断には喀痰の抗酸菌塗抹・培養検査は3回実施します。しかし、抗酸菌塗抹検査には欠点があります。

それは結核菌と非結核性抗酸菌の鑑別ができないことに加えて、生菌と死菌の区別もできないことです。

そこで抗酸菌培養検査核酸増幅法を組み合わせて診断します。

 

ただし、抗酸菌培養検査は小川培地(固形培地)で8週間、MGIT(液体培地)は6週間を要します。これに対して迅速診断ができるのは核酸増幅法で、PCR法とLAMP法などがあり、保険診療では1回実施できます。ただし、検査感度の点で劣るため、培養検査の結果をまって慎重な判断をすることが望まれます。

 

治療は多剤併用療法(経口薬の場合、イソニアジド・リファンピシン・エタンブトール塩酸塩・ピラジナミドの4剤)が基本です。

標準治療を実施した場合でも治療期間は6カ月に及びます。不規則治療や中断は、十分な効果を挙げられず、結核が蔓延し、耐性菌を生み出すことになります。

 

日本結核病学会からは、「結核医療の標準」(2018年1月改訂)が公表され、厚生労働省からは「結核医療の基準」の一部改正(2018年4月)が示されています。

 

最近、結核治療に影響を及ぼす非感染性疾患(NCDs)が注目されています。

これはWHOが提唱した疾患概念であって、日本でいう生活習慣病に相当する疾患群です。

高齢で結核を発病する患者は、心血管疾患慢性腎臓病脳血管疾患糖尿病などさまざまな基礎疾患を有している可能性が高いです。

日本は、世界でもトップクラスの超高齢社会を迎えており、結核の治療に不利に働く可能性のあるNCDsを一人の結核患者が複数有することも珍しくないために、特別な注意を要するものと考えます。

また、逆に言えば、日頃から、NCDsあるいは生活習慣病の管理をきちんと行っておくことが結核発病の抑制に有効であるということになるでしょう。