炎症の視点から診る各種の呼吸器疾患No3

「肺炎」

 

肺炎とは、「肺実質(註1)の、急性の、感染性の、炎症」と定義されます。

註1:

肺実質とは、肺の主たる役割を果たしている部分を指します。つまり、ガス交換が行われている部分であり、肺胞の内側の部分です。これに対して、実質の外側にある壁のような部分は間質とよばれています。間質は、酸素や二酸化炭素の通り道になっており、この間質を通って実質と血液との間でガス交換が行われます。

 

肺炎についてのデータを国際比較する場合には注意を要します。その理由は、日本の医療制度が海外のものとは大きく異なるからです。まず、病因の定義が異なります。そして肺炎の分類自体も大きく異なっています。

 

海外では病院といえば急性期病床のみであり、長期療養施設は市中に分類されています。

 

わが国では、長期療養施設は病院に分類されます。その結果、院内肺炎の患者の範囲が異なり、院内肺炎の対比としての市中肺炎の範囲も異なります。

 

肺炎は、わが国の死亡原因の第5位(2017年以降)であり、死亡のほとんど(96%以上)は65歳以上の高齢者です。若年成人、特に外来で診療する軽症例から中等症例までの肺炎の死亡は極めてまれであり、予後は良好です。当クリニックでの肺炎球菌ワクチン接種率は該当年齢で23価ワクチンは80%、13価ワクチンは60%程度なので、一般的な他の医療機関より良好な成績ですが、今後は一層の接種率の向上をはかりたいと考えております。

 

日本では、市中肺炎(CAP)、院内肺炎(HAP)、医療・介護関連肺炎(NHCAP)に大別されます。外来診療では市中肺炎(CAP)の他に、高齢者の肺炎、特に医療・介護関連肺炎(NHCAP)が含まれています。その中には、誤嚥性肺炎を繰り返す患者や、老衰の課程やがんなどの疾患末期の人生の最終段階に併発した肺炎の患者もいます。

 

医療・介護関連肺炎(NHCAP)は、おもに医療ケアや介護を受けている高齢者に発症する肺炎です。ただし、90日以内に病院を退院した方や、通院にて継続的に血管内治療(透析、抗菌薬、化学療法、免疫抑制薬等による治療)を受けている人もこれに含まれます。

耐性菌リスクや予後の点で市中肺炎(CAP)と院内肺炎(HAP)の中間的な位置づけとなり、繰り返す誤嚥性肺炎の像を呈する例も多いです。CAPとHAPこのような人生の最終段階の患者(註2)には、本人の意思の尊重と、QOL(生活の質)を優先した診療を医学的根拠(エビデンス)より優先することをガイドラインでは推奨しています。

 

註2:

人生の最終段階の患者とは、肺炎の視点からは「易反復性の誤嚥性肺炎のリスク、または疾患末期や老衰」の患者を指します。
 

日本呼吸器学会の「成人肺炎診療ガイドライン2017」では、外来診療で肺炎を疑った場合、最初に敗血症の鑑別ことを行うことを推奨しています。敗血症は、臓器障害を伴う重症の感染症であり、感染症の治療に加えて全身管理が同時に、かつ迅速に開始されなければなりません。そのため、敗血症の有無は、肺炎の重症度の判定の上位の概念として提示されています。

 

高齢者の肺炎は、典型的な呼吸器症状は呈しがたく、食欲低下や活動性の低下、意識状態の変容など、むしろ肺炎とは直接関連のない症状が前面に出てくる場合があります。敗血症にまで至らない病態である場合には、A-DROPを用いて、重症度評価を行い、外来か、入院による治療かを判断しています。

 

そこでまず❶ 年齢で男性70歳以上、女性75歳以上の高齢者に対しては常に肺炎を警戒します。肺炎を疑った場合は、最初に、緊急を要する感染症か否かを判断する必要があります。これは迅速に結果を出せるものでなくては役に立ちません。

 

チェック項目は、上記の❶ 年齢以外に、❷ 意識障害あり、❸ 収縮期血圧≦100㎜Hg、❹ SpO₂≦90%、❺ 脱水あり、

以上の5項目です。

 

上記項目の該当数によって重症度を判断します。

0:軽症、

1~2:中等症、

3:重症、

4~5:超重症
*ただし、ショック(註3)があれば1項目でも超重症です。

 

註3:

ショックは、いろいろな意味でつかわれますが、ここでは感染症関連での敗血症による二次的な生体反応です。すなわち、灌流の急激な変化によって起こる体細胞の酸素の供給量が不足する状態で、血圧の低下を伴うことが多いです。

 

この判定法をA-DROPと呼びます。
杉並国際クリニックでは日常的にこれを実施していることをお気づきだったでしょうか。

 

なお、脱水あり、を数値データで判定するためには採血してBUN(血中尿素窒素)≧21㎜Hgであることを確認しますが、外来診療での必要性は高くはありません。

 

結論:

当クリニックでの肺炎球菌ワクチン接種率は該当年齢で23価ワクチンは80%、13価ワクチンは60%程度なので不十分であると考えます。今後はCovid-19のような集団感染症は今後もますます警戒を強めなければなりません。

そのため「予防できる感染症は極力予防する」原則に立って、今後は一層の両方のワクチンの接種率の向上をはかることによって、トータルとしてのリスク軽減をはかりたいと考えております。