5月30日(土)<統合医学(心身医学・漢方医学)カンファランス> SARSV-2ウイルルスによるVOVID-19感染症に効く漢方薬 増補再掲版>No5

日本感染症学会特別寄稿

 

感染症に対する漢方治療の考え方

金沢大学附属病院漢方医学科 小川 恵子

 

<7.重篤例(内閉外脱症)

臨床症状:

呼吸困難、頻繁に喘息或いは呼吸医療設備に頼らなければならない。神志昏昧、煩躁(いらいらする)、汗出肢冷(汗が出る、四肢が冷える)、舌質が紫暗(紫で暗い)、舌苔が厚膩あるいは乾燥、脈が 浮、大、無根。

 

推奨処方:

朝鮮人参 15g、黒順片(附子)(先に煎じ る)10g、山茱萸(サンシュユ)15g、上記を煎じた湯液で漢方薬の蘇合香丸或いは安宮牛黄丸と一緒に服 する。

 

エキス剤の場合 、竹茹温胆湯+柴陥湯 左 2 剤を一緒に服用

腹満・便秘・煩躁を伴う場合、 大承気湯

 

 


中医学治療はどの程度有効か?

中西医結合(中医学と現代医学治療の併用のこと) によるコロナ肺炎治療に対する臨床観察研究 6)の内容をまとめてみました。

 

方法:

2020 年 1 月 15 日〜2020 年 2 月 8 日湖北省中 西医結合病院を退院した52例コロナ肺炎患者の診療録を基に、基本情報、中医症候、検査、治療方法などを分析し、中西医結合治療組(中西医組)(34 例) と西洋医組(18 例)の臨床症状継続期間、解熱するまでの時間、他の症状消失率、平均入院日数、臨床的完治率及び死亡率などを比較した。

 

主な症状は発熱 75%、全身倦怠感 61.5%、咳嗽 50%であった。普通型 76.9%、重症患者 19.2%、重篤患者 3.8%でした。
中西医結合群の臨床症状消失時間、体温回復時間 2、平均入院日数、及び中医証候採点、全て西洋医群より有意に少なかった(P<0.05 または P<0.01)。


中西医結合群退院時の随伴症状消失率 87.9%、CT 画像改善率 88.2%、臨床完治率 94.1%及び普通型から重症型に悪化する率 5.9%も西洋医群よりも有意に高かった(西洋医群は 53.8%,68.8%,61.1%,33.3%) (P<0.05 または P<0.01)。

 

これらの結果から、中西医結合でコロナ肺炎を治療する時は患者の症状を顕著に軽減し、病程を短縮し、完治率を高めできると推測しています 少なくとも、中医治療を併用することの優位性が示されたのですが、使われている処方が多様であったため、明確にどの処方が効果があるのかを示したというよりは、中医学的診断に基づいた処方が有効であったという結果ととらえられます。

 


杉並国際クリニックからの追補

小川先生の考察で、中西医結合、という言葉がでてきます。

これは中医学(中国伝統医学)と西医(西洋現代医学)を総合的に動員する医学療法を意味します。

ただし、中国の医師は中医か西医のいずれかの医師であり、2種類の免許が制度化されているため、少なくとも1名ずつ、最低2名の医師が協力しなければ中西医結合の医療は実施できません。

その点、日本の医師免許は一種類なので、研鑽を積めば、単独で中西医結合医療を実施できます。それが可能なのは日本の医師免許だけであることを知っている人は少ないです。

 

中医治療を併用することの治療成績の優位性が示されたことは、全く不思議でも不自然でもありませんが、その理由は、中医学は病態に応じたきめ細かい対応を可能にするからだと思います。

さて、昔から「薬のさじ加減」という言葉があります。病態が推移した場合に、西洋医学では量の加減が主とならざるを得ないのに対して、中医薬は、タイプ別の処方といった生薬の種類の加除が投与量の加減と共に調整しやすいという臨床上きわめて有意義な至便性に恵まれていることを指摘しておくべきでしょう。